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第29話
しおりを挟むその日……私は別に良いと思ったのだけど、私たちの家族を歓迎するために、舞踏会が開かれた。
……事前に準備自体はできているから、断ることもできないのよね。
貴族の務めだと理解しているので、私はメイドにおしゃれをしてもらってから、歩いていった。
会場に入ったところで、メイドの案内は終わり、すたすたと会場を歩いていく。
立食形式での舞踏会だ。ダンスは隣接されたダンス専用のフロアで行うことができる。
まだ、舞踏会自体は始まっていなかったが、すでに会場には楽器団による優雅な演奏が流れていた。
その中をゆっくりと歩いていくと、すでにいた会場の人たちの視線が私へと集まった。
「……あの方が、フェンリル様の?」
「……おそらく、そうでしょう。一度だけ、ダイル国で見たことがある方ですわ」
そんな風に噂されているのが聞こえた。
と、こちらへと歩いてきたのは、一人の男性だ。
私より少し年齢は上だろうか? 見上げるほどの高身長の男性はさわやかな笑みとともに一度頭を下げた。
「初めまして、アルフェア様。私はドルーバ伯爵家のカイルと申します」
「そうなのですね。これからこの国でお世話になります、アルフェアと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます。……それにしても、美しい方ですね。噂には聞いていましたが、直接見たのは実は初めてでして――そちらが、噂のフェンリル様、でしょうか?」
「ええ、そうです」
「……これはとても可愛らしい姿ですね。それでいて、天候を操るほどの力を持っているとか?」
「はい」
「……凄いですね」
私は彼の絶賛の嵐を受けながら、愛想笑いを返していった。
……なんだろうか。ウェンリー王子に裏切られてから、こう
いったものに対してより冷めた感覚が生まれてしまった。
――私の価値は、フェンリルだけなのよね。
私はこの国ではまだ、貴族ではない。いずれ、父に領地と爵位が与えられるという話は聞いている。
私は今、小さくなって私の肩にのっていたフェンリルの頭を撫でながら、他の人とも話をしていった。
公爵家として私は舞踏会への参加は長かった。
だからこそ、周りに合わせるのは得意ではあった。
けど……なんだろうか。いつも以上に疲れてしまったのは、きっと気のせいではないんだろうと思う。
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