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第12話
しおりを挟む城の方から、あわただしく人が出てきた。
騎士たちに交じるようにして、貴族たちの姿もちらほらと見受けられた。
そして、その中にはウェンリ―王子とリンダの姿もあった。
「な、なぜここに戻ってきたアルフェア!」
ウェンリ―王子が顔を真っ赤にして、激怒していた。隣で抱きつくように寄り添っていたリンダも眉間を寄せている。
「お久しぶりです、ウェンリ―王子」
「……なぜ戻ってきたのか聞いている! この罪人を誰かすぐにとらえよ!」
状況を理解していなかったウェンリー王子が騎士にそう叫ぶ。騎士がこちらへと向かってきたが、それをフェンリルが軽く吠えて威圧する。
とたん、フェンリルの体からあふれた魔力に気おされた騎士たちががたがたと震えだした。
力の差を理解したのか、ウェンリー王子やリンダも体を震え上げた。
「そ、その狼はなんだ……っ!」
「私の精霊、フェンリルです」
「せ、精霊!? そ、それに……ふぇ、ふぇふぇふぇフェンリルだと!?」
「ふぇ、フェンリルといえばこの国の守護をしている精霊じゃないの!?」
ウェンリー王子とリンダが驚いたように声をあげる。彼らだけではない。皆が驚き、困惑していた。
フェンリルはすっと体を動かした。
「初めまして、人間の皆さん。今回僕は……この国の新しい守護精霊として、アルフェアに召喚される予定でした。でも邪魔されたんだ。召喚魔法陣が正式に動作しなかったんだよね」
……その言葉だけで、リンダは顔を青ざめていた。
……やっぱり、リンダは何か知っているんだ。
「な、なんだと? アルフェアの……精霊、だと?」
ウェンリー王子は驚いた様子でそういったので、私が頷いた。
「はい。私はきちんと精霊と契約できていました。しかし、どうやら……何者かの手によって邪魔されてしまっていたそうなのです」
ここからはフェンリルに任せるしかない。
ただ、私がそいったとき、リンダの頬がわずかにひくついた。それは本当に一瞬で、おそらくこの場の誰もが気にもかけていなかっただろう。
「さっきもフェンリル様が言っていたな……それは一体何者だ?」
ウェンリー王子は首を傾げていた。
「こちらのフェンリルがそれを知っています」
「お、お待ちください」
そこに口を挟んできたのはリンダだ。
彼女は慌てた様子で数歩前に出てから、私のフェンリルに指を突き付けた。
「そもそも、その狼が精霊? そ、そんなことがありえるのでしょうか? フェンリルといえば伝説級の精霊です。それがまさか、契約するなどありえないはずです。そ、それもアルフェアのような女に……彼女は裁判で不特定多数の異性と交流をもっ――」
フェンリルが大地を踏みつけ、リンダの言葉を遮る。彼女はびくんっと目に涙をため、体を震えあげていた。
「それじゃあ……これで信じてくれるかな? 『雨よ、降れ』」
フェンリルが空へと向けて吠える。
次の瞬間、以前と同じように雨雲が集まり、雨が降り注ぐ。
私の周囲はフェンリルによって守られたが、その庇護下にないものは雨に打たれていく。
慌てた様子で雨の対策をし始める皆を見て、フェンリルがちらと周囲を見る。
雨雲は去り、
「これで信じてくれるかな。僕が召喚されるのを妨害したリンダさん」
フェンリルがにこりと人間らしい微笑みを浮かべながらも、怒りを携えた声音でそういった。
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