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第2話
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私はもうすでに来世に期待していた部分もかなりあった。
だからこそ、ご主人様、ましてや貴族に対してもあのような横暴な態度をとることができた。
半ばやけくそ気味のこの行動は――結果として大問題を引き起こしてしまった。
使用人たちの宿舎の食堂。
そこで昼食を食べていると、食堂の扉がばたんと開いた。
私がそちらを一瞥すると、メイド長がそこにはいた。今年四十にもなるその人は厳しくも面倒見の良い人で有名だ。
この仕事に誇りを持っていて、それはもう真面目に取り組んでいて、私は純粋に人間として尊敬している人であった。
そんなメイド長の表情が険しい。あれほど怒った顔は久しぶりに見たかもしれない。
以前見たのは、仕事を適当にやったメイドがいたときだ。ちなみに私。
まあ、今回私は何もしていない。メイド長の怒りの矛先はここにいる誰かしらのメイドにぶつけられるだろう。
私はそう思って、薄味のスープに口をつけていると、おや
? メイド長がこちらに向かってくる。
私の近くの席に座っているメイドたちを見る。うん、品行方正な人たちしかいない。
そんな人たちでもたまにへメイド長の逆鱗に触れるのかね、などと考えているとメイド長は私の前で足を止めた。
「ニャル。グレイドル様がお呼びです」
グレイドル様。トメスゴッド家の長男にあたる人だ。
「……はい? 私ですか?」
「ええ、そうです。ついてきてください」
「待ってください。今、昼の食事時間を逃してしまったら、夕食まで体力が持ちません。そうなれば仕事ができません」
と、周囲のメイドたちは驚いた様子で声をあげる。
「……ま、またメイド長に反論している」
「まだ十歳でどうしてああも言えるのかしら……?」
うるさい。
こちとらどれだけ頑張っても、どれだけサボっても月の給金は変わらないのだ。
休憩時間にまでやる気満々で活動なんてできない。メイド長のような仕事大好き人間とは違うのだ。
メイドは食事の時間を逃そうが、関係ない。午後には予定されていた仕事が回ってくる。
休憩時間までに仕事が終わらなくても、
労基もびっくりな労働環境なのだ。
昼に用意された一時間の休憩時間。今の時間を差し引いても残り三十分はある休憩時間を失うわけにはいかない。
私がじーっとメイド長とにらみ合う。切れ長の瞳で見下ろしてくるメイド長としばし睨み合ったあと、彼女はふうと息を吐いた。
「分かったわ。後で残り三十分――」
「メイド長。この口論の時間も私は休憩できていません。三十二分を要求します」
「分かったわ。三十二分の休憩はあとで別に与えましょう。それではついてきなさい」
びしっと強い口調で命令を飛ばしてきたメイド長に、私は気楽な気分とともについていく。
メイド長とともに屋敷を歩いていき、グレイドル様の部屋へとついた。
それにしても、グレイドル様かぁ。一体何を言われるのだろうか?
メイド長がノックのあと、グレイドル様の部屋へと入っていった。
「失礼いたします」
「ああ、よく来てくれた」
窓際に立っていたグレイドル様は、爽やかな笑みとともにこちらへと振り返ってきた。
今年18……だったかな? 王都で仕事をされている父に代わり、この領地の管理を任されることの多い人だ。
「キミがニャルだね」
にこり、と微笑んできたグレイドル様。
その爽やかすぎる微笑に私は警戒心を強める。このイケメンは、自分がイケメンであることを理解しているタイプの人間だ。何より、貴族である。
自分の容姿でさえ、当然の如く利用するような人間だろう。
私が警戒しながら彼を見ていると、グレイドル様は一層笑みを強め、
「キミを、リアの侍女にしようと思う」
……グレイドル様の言葉に、私は絶句した。
あとがき
新作書きました! 良かったら見ていただけると嬉しいです!
薬屋の聖女 ~家族に虐げられていた薬屋の女の子、実は世界一のポーションを作れるそうですよ~
虐げられている女の子の大逆転ポーション物語!
無限再生の超速レベルアップ ハズレ才能「再生」のおかげで不死身になりました ~パーティー追放され、無残にも死にかけた俺は這い上がる~
家族思いの兄の追放ファンタジーです。
だからこそ、ご主人様、ましてや貴族に対してもあのような横暴な態度をとることができた。
半ばやけくそ気味のこの行動は――結果として大問題を引き起こしてしまった。
使用人たちの宿舎の食堂。
そこで昼食を食べていると、食堂の扉がばたんと開いた。
私がそちらを一瞥すると、メイド長がそこにはいた。今年四十にもなるその人は厳しくも面倒見の良い人で有名だ。
この仕事に誇りを持っていて、それはもう真面目に取り組んでいて、私は純粋に人間として尊敬している人であった。
そんなメイド長の表情が険しい。あれほど怒った顔は久しぶりに見たかもしれない。
以前見たのは、仕事を適当にやったメイドがいたときだ。ちなみに私。
まあ、今回私は何もしていない。メイド長の怒りの矛先はここにいる誰かしらのメイドにぶつけられるだろう。
私はそう思って、薄味のスープに口をつけていると、おや
? メイド長がこちらに向かってくる。
私の近くの席に座っているメイドたちを見る。うん、品行方正な人たちしかいない。
そんな人たちでもたまにへメイド長の逆鱗に触れるのかね、などと考えているとメイド長は私の前で足を止めた。
「ニャル。グレイドル様がお呼びです」
グレイドル様。トメスゴッド家の長男にあたる人だ。
「……はい? 私ですか?」
「ええ、そうです。ついてきてください」
「待ってください。今、昼の食事時間を逃してしまったら、夕食まで体力が持ちません。そうなれば仕事ができません」
と、周囲のメイドたちは驚いた様子で声をあげる。
「……ま、またメイド長に反論している」
「まだ十歳でどうしてああも言えるのかしら……?」
うるさい。
こちとらどれだけ頑張っても、どれだけサボっても月の給金は変わらないのだ。
休憩時間にまでやる気満々で活動なんてできない。メイド長のような仕事大好き人間とは違うのだ。
メイドは食事の時間を逃そうが、関係ない。午後には予定されていた仕事が回ってくる。
休憩時間までに仕事が終わらなくても、
労基もびっくりな労働環境なのだ。
昼に用意された一時間の休憩時間。今の時間を差し引いても残り三十分はある休憩時間を失うわけにはいかない。
私がじーっとメイド長とにらみ合う。切れ長の瞳で見下ろしてくるメイド長としばし睨み合ったあと、彼女はふうと息を吐いた。
「分かったわ。後で残り三十分――」
「メイド長。この口論の時間も私は休憩できていません。三十二分を要求します」
「分かったわ。三十二分の休憩はあとで別に与えましょう。それではついてきなさい」
びしっと強い口調で命令を飛ばしてきたメイド長に、私は気楽な気分とともについていく。
メイド長とともに屋敷を歩いていき、グレイドル様の部屋へとついた。
それにしても、グレイドル様かぁ。一体何を言われるのだろうか?
メイド長がノックのあと、グレイドル様の部屋へと入っていった。
「失礼いたします」
「ああ、よく来てくれた」
窓際に立っていたグレイドル様は、爽やかな笑みとともにこちらへと振り返ってきた。
今年18……だったかな? 王都で仕事をされている父に代わり、この領地の管理を任されることの多い人だ。
「キミがニャルだね」
にこり、と微笑んできたグレイドル様。
その爽やかすぎる微笑に私は警戒心を強める。このイケメンは、自分がイケメンであることを理解しているタイプの人間だ。何より、貴族である。
自分の容姿でさえ、当然の如く利用するような人間だろう。
私が警戒しながら彼を見ていると、グレイドル様は一層笑みを強め、
「キミを、リアの侍女にしようと思う」
……グレイドル様の言葉に、私は絶句した。
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