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しおりを挟むすっかり、『アサシンブレイク』の活動が縮小したな。
……これは俺にやられるのを恐れて
いや、違うだろうな。
「ひょっとこ兄貴、だったか」
すっと木の影から姿を見せたのは、半裸の男だ。
いや、ただ口元だけは忍びのような格好で姿を隠している。
隠すべき場所がもっとあるのではないだろうか?
「……へ、変態さんですか?」
ルルラが俺の首に抱きつきながら、声をあげると、彼は目元をにこりと微笑ませた。
ルルラを安心させるために笑ったのかもしれないが、さらにルルラは俺の首に強く抱きついてくる。
「やはり、ひょっとこ兄貴ですか。私は『マッスルーズ』の諜報員とでも言いましょうか」
「なるほどな、だからその格好か」
「お兄様、何がなるほどなんですか?」
「忍者をイメージしてるんだろうな」
「イメージが形になってないと思います!」
俺もそう思う。
「ご名答です。私は忍、さすが、ひょっとこ兄貴、話が早くて助かります」
「それで? 何の用事だ? 悪いがクランに入ってくれとかそういう話ならパスだぞ」
「違います。『アサシンブレイク』の件です」
「俺に襲撃する作戦でも立ててたか?」
俺が問いかけると、彼は少し驚いたように目を見開いた。
「まさか、あなたもスパイを使っていたのですか?」
「いや、そうじゃない。明らかにPKの数が減ってるだろ? だから、準備でもしてんのかと思ってな」
「……それだけで判断したのですか?」
「いや? 『アサシンブレイク』のリーダーさんについて、ネットを徘徊して調べたんだよ。もともと、別ゲームのトッププレイヤーでかなり稼いでたんだろ?」
「ええ。『トラップオンライン』というゲームでは最大手のPKクランでした」
「みたいだな。年齢も当時は大学生、過去の言動やたまに行われる『アサシンブレイク』での配信を見てみても、かなりプライドの高そうなやつだからな。そいつが、ちょっと一方的にやられたくらいで大人しくやめると思うか?」
「……そう、ですね」
「そういうわけだ。そんでもって、運営からのお知らせがきてから明らかにPKの様子も変わった。俺に舐められないようなのか、悟られないようなのか分からんが、最低限だけPKをしているが、それも全力じゃなくて下っ端も下っ端を使ってるだけだ。装備品も取られてもいいようなものしか使ってないしな。そこまでやってたら、メンテ前に最後仕掛けてくるんじゃないかって予想できたわけだ」
「……あなた、ゲームしながらそこまで調べたんですか?」
「ん? まあな」
ゲームしてないやつらが、な。
外にいる分身たちにスマホとパソコンを使って調べてもらった情報だ。
その合間に、ルルラのショート動画もあげている。
こいつも一コンテンツとして注目されているようなので、そこまで登録者数は増えないが仕方なくやっている。
「今はPKもほとんど収まってるし、しばらくは『マッスルーズ』と『ハムストリングス』に任せてもいいか? 俺も義妹のために新しい装備を集めたいんでな」
「……分かりました。しばらくは引き受けましょう。確認ですが、『アサシンブレイク』の襲撃作戦にはどう対応するつもりなんですか?」
「え? 正面から受けて立つつもりだが?」
「…………本気ですか?」
「ああ本気だ。下手に手を出すなよ? その日は初配信もしてみようと思ってるんでな。いいコンテンツになりそうじゃないか?」
俺が笑顔とともにそういうと、彼は引き攣った笑みを浮かべた。
「……そう、ですね。もしも援軍が必要であれば私に連絡してください。あっ、フレンド登録いいですか?」
「おお、いいぞ」
『ネタギ』からフレンド申請がきたので、受け入れる。
もしかしたらどこかで何かの協力を頼む可能性もあるからな。
俺との会話を終えると、彼は【ワープ】を使用し去っていった。
……いつの間に、うちの店を使っていたんだか。
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