上 下
51 / 63

51

しおりを挟む

「どうした? 寒いのか?」
「お、お兄様。あんな挑発的な動画あげちゃって大丈夫ですか? 狙われたりしないですか?」
「そのときはルルラを盾にして逃げるから大丈夫だ」
「私が大丈夫じゃないです!」
「まあ、大丈夫だ。これで向こうが乗っかってきて、戦争じゃないが戦いに発展するならそれはそれでいい」

 向こうが全軍をあげて攻撃してくるというのなら、それに応じて戦うだけだ。
 今PKをされて萎えている人たちや、ゲームをやめようとしている人たちの憂さ晴らしのコンテンツ。そして、俺が『アサシンブレイク』を仕留めることによって、再びゲーム世界に平穏が訪れる……みたいな流れを作れれば、プレイヤーが減るということもないだろう。
 
 俺はこの動画を宣戦布告のつもりであげてるからな。
 それにしても、登録者数はあっという間に三万人を突破か。
 ルルラのショート動画はちょこちょことあげているのだが、こちらからの登録者はあまりいないな。

 いいねの数や再生回数は回るのだが、ショート動画はあまり登録者数を稼ぐのには向かないのかもしれない。
 そんなことを考えながら、俺はアンタレスの街近くで情報を集めていた。

 掲示板に、『アサシンブレイク』の目撃情報はいくらでもある。
 こちらで、最新の目撃情報を確認し、奴らを狩っていく。
 ……お、ちょうど近くにいるみたいだな。
 すぐにそちらへと移動すると、冒険者を追っている男女のパーティーを見つけた。

 必死に逃げている初心者をいたぶるように追いかけているな。

 逃げているプレイヤーたちは、まだゲームを始めたばかりなんだろう。
 装備品はチュートリアルを終えたばかりのものであるため、あれは確かにターゲットにされるな。

「そろそろ、仕留めるかぁ?」

 弓を構え、嬉しそうな声をあげる男の喉を――俺は背後からかっさばいた。
 グロテスクな表現はなく、クリティカルで処理され、弓使いは死ぬ。

「な!? てめ、ひょっとこ兄貴か!」
「すぐに仲間をよべ! ターゲットが出たぞ!」

 三人が武器を構えながら、俺を見る。
 逃げていた冒険者たちが足をとめ、驚いたように俺を見てくる。

「さっさと逃げな」
「は、はい! ありがとうございます!」

 ここで残られても面倒だ。
 『アサシンブレイク』も追うつもりはないようだ。
 俺の前に立つ三人は、笑みを浮かべる。

「ひょっとこ兄貴……おまえ今、うちで賞金かけられてるの知ってるか?」
「知らん。興味もない」
「おまえを倒せば、三十万ゴールドと好きな装備がもらえるのさ!」
「それ俺が自首したら俺にくれるとかないのか?」
「あるわけねぇだろ!」

 大剣を持った男が叫びながら地面を蹴ると、残っていた二人も動き出す。

「知ってるか!? 対人戦にはレベル差なんてあってないようなものなんだよ!」
「その弱点丸出しの首をはねてやるわよ!」

 そう言って俺に向かって大剣を振り下ろしてくる男。
 そんなものが当たるわけがないだろう。俺がかわそうとすると、脇から女性が飛びかかってくる。
 こいつも短剣使いか。
 振り抜かれた一撃をかわしながら、目を切り裂いた。

 大剣を思い切り振ってきたが、短剣で撫でるように軌道を逸らすと、突っ込んできていた男に当たりそうになる。

「クソ! 【パワーストライク】!」

 大剣使いがスキルを発動すると、体が勝手に動き出し、無理やりに俺の方へ大剣を振り抜いてくる。
 スキルによって、無理やりに俺をターゲットにして軌道を逸らしたのか。
 そういう使い方もできるんだなぁ。

 俺に向かって振り下ろされた一撃だったが、それはもちろんかわさせてもらう。
 【パリィ】で弾ける技かどうかは、ちょっと分からないくらいの重圧だったからな。

 スキル発動後の硬直時間があるのだろう。隙だらけのその首元へと短剣を振り抜こうとすると、槍を持っていた男が突っ込んできた。
 槍、ね。ただの突撃攻撃なので、俺はそれを左手の短剣で先を逸らし、そのままカウンターで首を切る。

「さっきから……首を切るのに躊躇いなさすぎないか!?」
「手っ取り早いからな」

 だって、数百の魔族と戦ったこともあるんだぞ? 一体一体丁寧に仕留めてたら時間がかかって仕方ないもん。
 さっと、右の短剣でまだ動けていない大剣使いの首を切りつけたところで、こちらに矢が飛んできた。
 短剣で弾く。さらに連続で矢が放たれるが、すべて見切って弾く。
 遅れて、火魔法が飛んでくる。リアルなら魔法も魔力をまとった短剣で切れるのだが、今のところそういうスキルはないんだよな。
 仕方なく攻撃をかわすと、目の赤い集団が十人ほど現れた。

 さっき、彼が言っていた援軍だろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

白雪姫の元継母は氷の公爵との結婚を破棄したい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:46

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,315pt お気に入り:10,926

奇跡の力を持つ第二王子様!~神様が人間に成り代わり!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:924pt お気に入り:7

偽聖女はもふもふちびっこ獣人を守るママ聖女となる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,285pt お気に入り:3,992

たぶんコレが一番強いと思います!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:893

処理中です...