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しおりを挟む俺はすぐに分身を作り出し、とりあえず分身にゲーム世界をログインさせる。しばらくは、雑に魔物狩りをしてもらっていよう。
トイレへと向かいつつ、少し休憩をしていると、何やら慌しい様子で階段をかけおりてくる音が聞こえた。
視線を向けると、そちらには舞がいた。
ただ、何やら少しむくれた顔をしている。世界で一番柔らかそうな頬をぷくーっと膨らましてこちらを見ている舞の姿は、それはもう愛おしい。
その頬を突きたい気持ちはあるのだが、何やら舞は怒っているようにも見えるので迂闊な行動はできない。
「兄貴っ」
「何かあったのか?」
「何かあったじゃないよ! 兄貴……初コラボしちゃったんだね!」
そういって彼女がスマホの画面をこちらへと向けてきた。
……そこには、舞たちが使っている配信サイトが映っている。
何やらランキングが表示されているのだが、そのすべてが『リトル・ブレイブ・オンライン』なのだからこのゲームの注目度は計り知れない。
そのトップに映っていたサムネイルの画像は飾っているのは、他でもない。
俺……と思われるひょっとこの仮面をつけた男がいた。
「別にコラボしたわけじゃないんだけど、その動画はなんだ?」
「兄貴が、空城院さんを『アサシンブレイク』から守った場面の切り抜き動画だよ! もうすごいバズってるんだから!」
「うわ、まじで? これ俺にいくらか入ったりしないのか?」
「いや、切り抜き動画は基本的に切り抜いた人の収益かな? 何割かは納める契約のところもあるけどね」
そうなのか。
とにかく、舞が怒っている理由は俺が別の人の配信にばっちり映ってしまったことらしい。
ぷくーっと頬を膨らませたままの彼女を宥めるように問いかける。
「俺はこの空城院って人をよく知らないんだけど、有名人なのか?」
「有名人だよ! VTuberで登録者数150万人突破してる超大物なんだからね!?」
「……はー、なるほどな。だからこんなにバズってるんだな」
おかげで、俺のチャンネル登録者数も1万人を超えている。
『アサシンブレイク』とルルラのおかげかと思っていたが、どうやら空城院の動画からの流入もあるのかもしれない。
この勢いのあるうちに、動画投稿も行っていったほうがいいかもしれないな。
一応、すでにチュートリアル報酬などを公開する動画の準備はできている。
俺が一人でぶつぶつ盗賊を狩っていくだけの動画に、文字で解説を入れてもらったものだ。
分身には、ネットを徘徊させ、編集技術も身につけさせているのでそれなりの編集レベルにはなっているので、問題はないと思うが動画の内容自体は至って普通だからな。
バズったのは空城院のおかげ、ね。
ルルラにはあとでご褒美として何か食べ物でも奢ってあげようかと思っていたが、これは再考の余地があるな。
「もう、初コラボはあたしが兄貴とやりたかったのにぃ!」
「初コラボ、ってわけじゃないから大丈夫だって。お兄ちゃんの初めてはまだ残ってるぞ?」
「それなら約束だからね、兄貴!」
もちろんだとも。
「そういえば、空城院ってのも事務所とかに所属してるのか?」
「そうだよ。今VTuber事務所の大手が三つあるんだけど、なつみちゃんはそのうちの一つ『メニーフレンド』に所属してるんだからね!」
その事務所の名前は、聞いたことあるかも。
舞がVTuberをやっているということで、VTuberについて調べた時に、確かその名前はあった。
部屋で作業中の分身に情報を取得してもらい、共有させてもらうと……確かにあった。
ただまあ、舞が所属しているわけじゃないから詳しいことは調べていなかったが。
言われた通り調べてみると、確かに空城院なつみと天海マナという子の名前があった。
空城院の登録者数は150万人で天海マナという子が100万人目前か……。
舞よりも多いじゃないかっ!
「俺は敵に塩を送ってしまったのか!」
「え? どういうこと?」
「舞より登録者数多いなんて、許すまじ!」
「いやいや、そこは別にいいんだよ! 登録者数だけが全てじゃないしね。それに、あたしもなつみちゃんのファンだったから、助けたこと自体は良かったと持ってるんだよ? ありがとね、兄貴」
うん、どういたしまして。
舞が喜んでくれているのならなおさら助けた価値があったというものだ。
「『リトル・ブレイブ・オンライン』は人気なのはいいんだけど、今あちこちで配信者が襲撃されてるんだよねぇ」
「襲撃って空城院が受けたみたいなやつだよな? 舞は大丈夫なのか?」
万が一、舞に同じようなことをしでかす輩がいるのなら、そいつの家まで特定して二度とそんな真似ができないようにしてやるしかない。
俺の勇者としての力を使えば、家の特定くらいは簡単だ。
なんなら、俺たちに攻撃してきた二人の不良たちだって、すでに俺はすべての情報を握っているくらいだ。
次に何か危害を加えるようなことをしてきたら、いくらでも対応できるような準備は万全というわけだ。
「あたしたちは攻略組で凸してくるようなプレイヤーがいないところにいるからね。特に大きな問題はないかな?」
なるほど……それは良かった。
もしも、舞に同じようなことをやっている連中がいたら、PKしまくっているところだった。
「まあ、何もないなら大丈夫そうだな」
「そういえば、兄貴はワールドクエストの攻略方法は分かったの?」
「いや、まだだ。でも、ルルラがまたあとで来てみたいって言っててな。もしかしたら、その辺が鍵になってるのかもしれないな」
「え? つまり、レベル30にしたあとじゃないと発生しないクエストの可能性があるってことだね……。確かに、それがスタートの鍵になる可能性はあるかも」
「そうだな。そのあと、妖精の森に移動することも考えるともう少し難易度は上がるかもしれないな」
あそこに出てくる魔物がレベル35くらいだったからな。
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