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しおりを挟む「まあ、仮面つけてても特に邪魔じゃないしな。このままやっててもいいだろうさ。最悪現実の顔を変えれば問題ないしな」
「いやいや、変顔で過ごすにも限度あるよー」
変顔しなくても変身魔法があるからいくらでも誤魔化せるんだが、それは伏せておこう。
「そうなんだっ。兄貴、これ職業なに? 戦士?」
「いや、【暗殺者】だ」
「……え? それってもしかして隠し職業!? どうやって手に入れたの!?」
「最初のチュートリアルあっただろ? あれで出てくる盗賊50人全部倒したら、【暗殺者】と【剣闘士】が出てきたんだよ」
俺は該当の場所が映っている動画を見せると、舞は食いいるように見ていた。
「え? ええええええ!?」
「どうした舞? ゴキブリでも出たか!?」
「その名前出さないで!」
「ご、ごめん……」
舞が本気で嫌がったので、俺はしゅんとする。
もともと、この部屋汚かったので、例のGの存在もあり得る話だったし。
「……えっとね、兄貴。チュートリアルめちゃくちゃ難しくてね……今の最高記録が十人くらいの盗賊討伐、なんだよね……」
「つまり、俺が更新しちゃって驚いた、と?」
「そういうことだよ!」
「お兄ちゃん、凄い?」
「凄すぎるよ兄貴!」
きらきらとした目を向けてくる舞に、俺は胸を張る。
「ていうか、まだ発見されてない隠し職業をもうこんなに明かしてるなんて……!」
「そ、そうか?」
「こ、これ兄貴あんまり人に話さないほうがいいよ! この情報、高く売れるかもだから!」
「情報を売る?」
「うん……ていうか、兄貴も配信とかやるのもありじゃない!? こんなに色々情報持ってて、しかも強いしかっこいいし、イケボだし、兄貴絶対人気出るよ!」
「かっこいい以降は舞の色眼鏡入ってないか?」
だとしても、褒められてとてもお兄ちゃんは大満足だけど。
「いやいや、兄貴かっこいいから! あっ、まだまだ色々聞きたいけど、そろそろ配信再開しないと……またあとでね兄貴!」
「おう、了解だ。あっ、舞ってどんな武器使ってるんだ? 魔物がドロップしたら共有しようかと思ってたんだけど」
「え? 斧だよ!」
「え? まじで? それならオークの斧あるからあげよっか?」
まさか、舞にこんなすぐに貢げるなんて。
案の定、彼女は満面の笑顔だ。
「ほんと!? ちょうだい! あっ、でもお金そんなに持ってないんだけど……」
「いやいや。兄妹でアイテムの共有くらい別にいいって。これって、ゲーム内でアイテムを送ったりできるのか?」
「フレンド同士なら大丈夫だよ。とりあえずフレンドコード送っておくから……あーっと、兄貴ごめん! また細かいことはあとでね!」
舞が両手を合わせてぺこりと頭を下げる。彼女のリスナーたちも待っているだろうからあまり引き留めてはいけないだろう。
舞は斧を使っていることが分かっただけ十分だ。
俺も、自分のVRマシンで横になり、再び『リトル・ブレイブ・オンライン』の世界へとログインした。
ログインした場所は、最後に俺がいた場所だ。
少しして、キリキリマイからフレンド登録の申請が来ました、とメッセージが画面に出てきた。
『兄貴! これあたしのアカウント! 登録お願いね!』
そんな舞のメッセージがついていた。自分の名前くらいは書いてくれないと分からないじゃないか……と舞のドジな部分を可愛いと思っていた俺は、ひとまずオークの斧を彼女に送りつけた。
このゲームの装備品は、職業、レベル、ステータスのどれかをあるいは複数を参考にして装備可能かが決まる。
例えば、レベル関係なく【暗殺者】なら装備可能とか、職業関係なくレベルだけ満たしていればいいとか、職業とステータスが一定の数値を満たしていないとダメ、とか色々だ。
モンキーナイフは敏捷値が一定以上で誰でも装備可能だ。
たぶん、条件が厳しいものほど、性能も上がるんだろう。
オークの斧は筋力が満たしていないといけないので、まだまだ舞には早いのかもしれないが、いずれは使うときもくるだろう。
『これ、言ってたやつ』
『なにこれ!? え!?』
『倒したオークがドロップした斧だ。要求筋力多いのと俺の職業だと装備不可だからな』
『オークって……レベルいくつだった?』
『20だ。村の人たちと協力してぶっ倒した』
『とりあえず、いい短剣手に入ったらあたしからあげるからね! 配信始まるから、またあとで! ありがとう大好き兄貴!』
大好き、兄貴……大好き、兄貴……。
何度も舞の声で脳内再生していった。
……このゲームを始めて良かった。
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