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しおりを挟む「ぶべ!?」
よろめいてから倒れた男はナイフを手からこぼした。
俺が倒れた男に近づくと、男たちは完全に力の差を理解したようで、怯えた様子で叫んだ。
「オレたちのバックには、あの『死鷹』がついてんだぞ!」
「『しだか?』」
「あ、ああ! そうだぞ! この辺をまとめてる、半グレのチームだよ! おまえ、オレたちに手なんか出してみろ! 殺されるぞ!」
自分の力ではどうにもならないと分かったからか、今度は別のものに頼るのか。
情けねぇな。
「へぇ、じゃあ全員連れてこいよ。全員叩き潰してやるけど?」
「……へ?」
「ほら、スマホ使っていいぞ? さっさと連絡して仲間を呼べよ。いい経験値稼ぎになるからな」
おっと、こいつらはモンスターじゃないか。
異世界では、仲間を呼ぶ魔物をいたぶってひたすら鍛えていた日もあったので、悪いクセが出てしまった。
呼び出すように言ったのだが、男はガタガタと震えたままだ。スマホを取り出す様子はない。
俺は小さく息を吐いてから、彼に問いかける。
「おまえ、下っ端も下っ端だろ?」
「……え?」
「さっきの叫んだ時の表情からなんとなく分かったんだよ。おまえ、別にその半グレたちを呼べるほどの信頼とかないんだろ?」
こちとら、色々な人間と関わってきたからな。表情の機微はすぐに理解できる。
顔を青ざめた男たちの目の前でしゃがんだ俺は、男が持っていたナイフを手にとってから、笑顔を向ける。
「おまえら……俺の大事なモンに手を出すっていうのなら、これ以上は加減できないけど、どうする?」
そう言いながら、俺はナイフを片手で握り潰した。
一切出血などはしない。この程度のナイフなら、握り潰せるくらい俺は異世界で戦わされたからな。マジ死ね女神。
俺の威嚇を見て、男たちは完全に怯えたようでその場で漏らしていた。
「す、すみません……! も、もう何もしないので命だけは!」
「おう。それなら見逃してやる。次はないけどな?」
「……は、はい……! すみませんでした!」
「おう。これからは真っ当に生きろよ?」
俺は怯えた様子で逃げていく男たちを、笑顔で見送った。
俺が振り返ると、舞が驚いたように目を見開いていた。
……怯えさせてしまっただろうか?
「えーと、舞……」
「あ、兄貴……かっけぇ!」
舞に声をかけると、舞は目を輝かせながら俺の方にやってきた。
どうやら、大丈夫そうだ。
久しぶりに舞とともに、遊びに行った。
一緒に食事を食べ、ちょっとウィンドウショッピングをして、ゲームを購入して帰宅だ。
我が家にはVRマシンが二台あるらしく、問題ないそうだ。
家に着いたところで、舞はパシャっとゲームのパッケージを写してからスマホを弄っていた。
「へへ、兄貴と一緒にゲーム買いにいったよ、と!」
「何してるんだ?」
「あっ、あたし今VTuberで活動してるでしょ? そっちのアカウントに投稿してるんだ。うちの事務所、このゲームの宣伝担当だしね」
……あれ? VTuber?
その存在は知っていたが、俺が知っている舞は普通の配信者だったような気がするが……。
まあ、なんでもいいか。
舞は天才でキュートだからな。笑顔を浮かべている彼女に、納得していると俺は少しがっかりしてしまう。
「ってことは、明日は配信するから一緒にはできないのか……」
できれば、一緒にやりたかった。
そして、舞のためにアイテムを貢ぎ、喜ぶ姿が見たかった……。
「いやでも兄貴もそのうち一緒にやればいいんだよ! あたしのリスナーたち兄貴のこと知ってるし!」
「え? マジで?」
「うん! あっ、でも……明日は事務所の子と一緒にやるから、それ終わってからとかになるから……あぁ、兄貴とやりたいけどやれる時間が……」
「いや、無理するなって。そっちを大事にしろって。俺とはいつでもできるだろ?」
残念だけど、舞には舞のコミュニティがあるんだ……。
そりゃあ、俺のナンバーワンは舞だけど、舞のナンバーワンがたくさんあることも理解している。
それを押し除けるほど、お兄ちゃんも野暮ではない。
舞も残念そうだけど、それから笑顔を浮かべる。
「と、とりあえずしばらくは配信スケジュールがキツキツだけど、落ち着いたら一緒にやろうね兄貴!」
「ああ、楽しみにしてる」
『リトル・ブレイブ・オンライン』のサービス開始は明日からだ。
舞はめちゃくちゃ楽しみにしているようなので、俺としても楽しみだ。
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