3 / 63
3
しおりを挟むじゃなくて。
ソファから飛び跳ねるように抱きついてくるものだから、普通ならぶっ倒れていただろうが俺には異世界補正の肉体があるため彼女を抱き止めることに成功する。
おー、よしよし。愛犬でも愛でるかのように頭と背中を撫でる。
「……兄貴ぃ、よかったよぉ。部屋から出てきてくれてぇ……ひぐっ」
部屋から出てきてくれて……?
俺は先ほどの自分の部屋を思い出す。
……長時間、掃除がされていなかったような部屋。
カーテンは閉め切られ、光の入らない部屋。
部屋にいくつも置かれていた空のペットボトルや空になって放置されていたカップラーメンなどなど。
異世界転移してから、俺の感覚というか思考能力も強化されたのだが、その結果一つの答えを導き出す。
……まさか俺、一年間引きこもりになってた?
おい、クソ女神。何が、「地球にいるあなた――佐久間悠斗はそれまでの佐久間悠斗と同じように生活していますから安心してください!」だ。
めちゃくちゃ大問題になってるじゃねぇか!
舞を泣かしてんじゃねぇぞ!
異世界にいたときは怒鳴ればすぐに出てきてくれたのだが、今は日本に戻ってきたからか、まるで反応がない。
あるいはクレーム対応を拒否して、電話線でも切ったか。俺の親父の新卒の子がそんなことをして問題になったことがあると聞いたことがある。
とにかく今は、確認とともに舞を宥めるために全力で謝罪をする。
「わ、悪かったな色々と問題かけて……ずっと部屋に引きこもっちゃっててさ」
「べ、別にいいんだよ。兄貴が引きこもっちゃったのは、あたしにも原因があるんだしさ……」
はい、引きこもりは確定。女神への怒りがアップしましたよ。
でも、引きこもっていたのはどうやら確定のようだが、それには舞が関わっている?
舞が可愛すぎて家に引き篭もる選択をしてしまったのか?
だとしたら少し納得。
今の俺も同じ心境である。このまま、舞を抱きしめたまま一生を過ごせればどれだけ幸せなのだろうか……。
「舞は悪くないだろ? えーと……仕方ないんじゃないか?」
「……でも、あたしがあそこであいつらに絡まれなかったら……あいつらをどうにかできてたら、兄貴が引き篭もる必要もなかったし……」
あいつらに絡まれなかったら?
……舞が誰かに絡まれて、それが俺の引き篭もる原因になってしまった?
「でもまあ、舞は関係ないだろ?」
「あたしが塾なんか行ってなかったら、兄貴があんな不良たちに絡まれなくて済んだでしょ? 全部、あたしが悪いんだよ……っ!」
わーん! ともう一度泣き出してしまった舞を、俺は優しく受け止めた。
それから、泣いてしまっていた舞を宥めつつ、俺はそれとなーく、舞から情報を引き出した。
まとめると、俺が引きこもった理由は簡単だ。
1、舞が通っていた塾の帰り道、不良に絡まれる。
2、帰りが遅くなる日、俺は舞を迎えに行っていたのだが、そこで不良に絡まれている舞を助けに向かう。
3、ボコられる。
4、そこで色々と精神的苦痛を受けさせられ、俺引き篭もる。
らしい。
よく勇者補正のない体で舞を守ったな、俺と思いつつも、色々女神に不満もある。
とにかく、そんなこんなで一年ほどがたち……舞の受験も無事終了。
今はちょうど春休みらしい。
「まあ、もう気にしてないから。泣くなって」
「……兄貴ぃ」
まだ舞はぐすぐすと泣いていた。
……ちなみに、舞がヤンキーみたいな見た目になっているのは、舐められないようにらしい。
いや、それはそれでそういう不良みたいなやつに絡まれるのでは? とは思ったが今のところは問題ないそうだ。
あと、舞も志望校にちゃんと合格しているらしい。今年から俺と同じ学校に通うことになっている。
ていうか。
おい! 女神!
俺がそんな程度のことで引き篭もるかボケがァ!
舞が悲しむようなことは絶対にしないってんだよ! ふざけんな! 俺の一年間をちゃんと管理しやがれ!
舞にヨシヨシしながら、内心ブチギレておいた。
あの女神のことだ。俺を引きこもりにしておくのが何か都合が良かったんだろう。
応援ありがとうございます!
63
お気に入りに追加
604
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる