最弱賢者の転生者 ~四度目の人生で最強になりました~

木嶋隆太

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第十三話

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 しばらく体ぺたぺた攻撃が続く。
 くすぐったさに、良く吹き出さなかったと自分をほめたい。
 しばらくしたときだった、肩が揺らされた。

「ロワールさん、ロワールさん……起きてください」
「……ん?」

 俺は今起きましたという空気をばりばりに出し、目をあける。
 なんなら、ふわっと嘘のあくびまでかましておいた。

 目を開くと、ヒュアの顔がわりと近くにあった。

「わっ、す、すみません!」

 ヒュアも、そこまでは考えていなかったのか、驚いた様子で距離をあける。
 彼女の頬はわずかに赤かった。

「おはよう、久しぶりによく寝たな。もう、滅茶苦茶快眠だったぜ」

 背中を伸ばし、俺はそんな完璧な演技をしておいた。

「そ、そうですか? それなら、よかったです。その、夜中とか起きなかった?」
「……俺起きたか? 悪い、何か迷惑かけたか? 起こしたか?」
「ううん、違います。その、私少し寝相悪かったみたいなので……それなら良かったです」

 す、少し……。
 しょっぱなの肘鉄を思いだしが、ほっとしたようにヒュアが息を吐いていたので黙っておいた。
 柔らかな感触を体験することはできたからな。ダメージと合わせて同じくらいだろう。

 ヒュアはそれからベッドに戻ったあと、もじもじと髪を弄っている。
 時折、視線を部屋に置かれた鞄へと向けている。

 ヒュアの着替えなどが入っている鞄だったはずだ。昨日もそこから衣服を取り出しているのを見ていた。

「ちょっと、外行って顔洗ってくる」
「はい、わかりました」

 俺がいてはヒュアも着替えができないだろう。
 俺のナイス気遣いだろう。
 それに、ヒュアはパジャマに着替えている。
 あまり長く見せたいものでもないだろう。

 廊下にでた俺は外で顔を洗った後、俺も上着を脱いで軽く洗っておく。
 その後、魔法で温風を作り、すぐに乾かした。

 あとで、下着類も洗っておこうか。
 そんなことを考えながら、部屋へと戻る。
 ノックをして確認すると、もう少し待ってほしいといわれたので部屋の前で待機する。

 廊下でしばらく待っていると、他の部屋からでてきた冒険者が俺を見てきた。
 あまり好意的ではない視線だ。

「なんだ、見ない顔だな」
「昨日、この町についたロワールっていうんだ。これからしばらく町にいるつもりだから、よろしくなー」

 できる限りフレンドリーに声をかけると、冒険者はじっくりと見てきた。

「なんだ? まさか、そっちの趣味か? 悪いな、俺はそういうのはちょっと……」
「ちげぇよ! ……おまえ、ヒュアさん狙いの男だな?」
「……どういうことだ?」

 俺がそういうと、彼は鼻で笑った。

「すっとぼけんなよ。おまえみたいなやつが、これまで何人もヒュアさんに声をかけては撃沈しているんだよ。おまえみたいなのは無理無理」
  
 彼は先ほどからしきりにヒュアの部屋を見ていた。
 そして、俺がヒュアの部屋前で待っているから、その結論に至ったようだ。

 冒険者は無理無理、と片手を左右に振っている。
 ヒュアが人気者、といったようなことをロニャンは言っていたな。
 なるほど、彼もヒュアとパーティーを組みたがっている冒険者の一人なのかもしれない。

「そっか。肝に銘じておくよ、ありがとな」
「あんまりしつこい男は嫌われるぜ? わかったら、さっさと自分の部屋にでも帰りな」

 ここが俺の部屋だからなぁ……。
 
「少しだけここで休んでから向かわせてもらう」

 そういうと、彼の目つきが鋭くなる。どうやら、俺がどかなかったのが気に食わないようだ。

「いいか? ヒュアさんに声をかける権利はな、毎日下で争ってんだよ! 俺たちはじゃんけんで勝って、その権利を手に入れたんだ! 話したいなら、まずはルールを守れってんだ!」

 それ、ヒュアが許可を出しているのだろうか?
 ……いや、出してないだろうな。
 勝手に権利を賭けて戦う、か。

 どの時代でもそういう輩はいるものなんだな。
 勇者の旅をしていたときは、誰も許可を出していないのに、勇者の前に列をつくって、握手を求めてきた人がいた。
 その列について、「俺が先だ」なんて争っているやつがいて……今の彼らはそれに似ているな。
 
 彼が胸ぐらを掴んできたところで、扉が開いた。
 途端、男は笑顔を浮かべた。

「あっ……あああ、ヒュアさん! おはようございます!」
「……おはよう、ございます」

 ヒュアの冷めきった視線が冒険者に向けられる。
 ……今までに見たことのない冷たい視線。それに冒険者は何やら快感を覚えてるようだ。

 変態かこいつは。

「なに、しているんですか?」
「ヒュアさんっ! こいつが、ヒュアさんをストーカーしてやがるんですよ! 俺が守ります!」
「ロワール、さん? どういうことですか?」

 ヒュアが訳わからないと言った様子でこちらを見てくる。
 俺もわからん。なぜ俺がストーカーになっているんだ。

「ここで待っていたら、誤解されちゃってな」
「そうなんですね。……あの、その方は私の大切な仲間なので手を離してくれませんか?」
「え?」

 男が驚いたように力を抜く。
 俺は彼の手から逃れ、軽く首をひねった。

「まあ、そういうわけなんだ。悪いな」
「え? え?」
「ロワールさん。着替え、終わったので中入っていいですよ」
「そうか? それならよかった」

 これ以上、ここにいても妙なやつらに絡まれるだけだしな。
 見れば、廊下はざわついている。
 ヒュアが俺と話しているのがそんなに衝撃的なのか?
 俺に絡んできた冒険者が、口をぽかんと開け、

「ひゅ、ヒュアさんと男が……話している? な、なんで?」
「宿に空きがなかったんでな。ヒュアに頼んで相部屋にしてもらったんだ」
「あ、相部屋!?」

 簡単に説明してから、俺はヒュアとともに部屋へと入った。
 ヒュアははぁ、と大きくため息をついた。

「すみません……ロワールさんに不快な思いをさせてしまって」
「ヒュアが悪いわけじゃないんだし、気にするな。それにしても、大人気だな」
「……恥ずかしながら」

 ヒュアは耳を真っ赤にして、ベッドに腰かける。
 別に人気者なのは悪いことではないんだがな。
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