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第十二話
しおりを挟む「本当にいいのか? 別にこのくらい大丈夫だぞ?」
俺が改めてヒュアに確認すると、彼女は頬を赤くしたまま首を縦に振った。
「気にしないください。わ、私だって大人の女性ですからね。このくらいべ、別にどうってことないですよ」
そういったヒュアに、ロニャンが目を輝かせ、顔を近づける。
「襲われちゃうかもしれないですよ?」
「な、なんてことを言うのですか! 失礼ですよ失礼です!」
顔を真っ赤に時々こちらを見てくるヒュア。
とりあえず、一緒の部屋で休むということで話は進みそうだ。
俺としても、外で休むよりもずっと体の負担が軽くなるからありがたいことだ。
「それじゃあ、とりあえずよろしく」
「は、はい……よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、彼女はそれより深く頭を下げた。
顔をあげた俺は、どこか緊張している様子のヒュアに微笑みかけた。
「そんなに心配なら俺の両手足でも縛ってから寝るというのでも構わないからな?」
「お兄さん中々いい性癖していますね」
「安心させるためだ、変なことをいうんじゃない」
「またまたー」
ロニャンがびしびしと肘でつついてくる。
まったく。
「だ、大丈夫ですよっ。そんなことしなくても、私はロワールさんを信じていますから!」
「それじゃあ、ロワールさんとヒュアは一緒に部屋に行ってください。私はその間に布団をとってきますから」
「わかりましたっ。ロニャン、色々ありがとうございます!」
「いえいえ。それではごゆっくり」
ロニャンが片手をひらひらと振って奥へと向かう。
「私の部屋は二階になりますから、ついてきてください」
俺はヒュアとともに、階段を上がる。
階段をあがって一番奥の部屋、そこでヒュアは足を止めた。
中はそれほど広くはない。ただ、最低限の家具は揃っていて、一人で生活するには十分だった。
「いい部屋だな」
「はい。できたばかりですからね」
ヒュアがベッドに腰かけ、俺は椅子に座る。
ヒュアは緊張した面持ちで黙りこくってしまった。
「それにしても、本当に良かったのか?」
「……は、はい」
「ま、さっきも提案したが、不安なら手足でも縛ってくれて構わないからな?」
「大丈夫ですっ! ロワールさんは変なことをする人じゃないって信じていますから」
「俺の立場でこんなこと言うのもあれだが……会ってすぐの俺をそんなに簡単に信じていいのか?」
……わざわざこんなことをいったのは、ヒュアが少し心配でもあったからだ。
会ったばかりの男をこんなに簡単に同じ部屋にあげてもいいのか、と。
この時代がそういったことに大らかなら、別に構わないのだが。
「でも、ロワールさんは……外で助けてくれましたからね。そ、その……え、エッチなこと、しようとするのなら……外でいくらでも、できたはずですし」
結果的に森での行動が彼女の信頼を勝ち取ったということらしい。
そもそも、何もする気はないが、ますます彼女の信頼を裏切れないな、と思った。
それからしばらくして、布団が運ばれてきた。
床に敷いて、横になってみた。
それほど良いものではないが、休むには十分だな。
俺たちは寝支度を整え、今日も一日色々あったので休むことにした。
部屋の明かりを消して、布団に入る。
「それじゃあおやすみ」
「は、はい。おやすみなさい……」
まもなく、ヒュアからは寝息が聞こえてきた。
どうやら、問題なく寝れたようだな。
俺が原因で寝つきが悪くなってしまったら申し訳ないからな。
俺も明日からやらなければいけないことがたくさんある。
さっさと眠ってしまおうか。
目をとじ、うとうとしたそのときだった。
何かが動くと同時、俺の方へとそいつが飛びかかってきた。
反応はできた。だが、油断した。
「ふぐお!?」
眠り始めた俺へ、ヒュアの見事な肘鉄が決まった。
それにひるんだ次の瞬間に、俺の体に巻き付いてきた。
まさか俺を暗殺するつもりか……?
しかし、ヒュアを見ると気持ちよさそうに眠っている。
少しして、俺から離れ――また戻ってくる。
それを何度か繰り返したところで、俺にまたぎゅっと抱き着いてきた。
それからは静かに寝息を立てている。
「……寝相が果てしなく悪いだけか」
まったく。
これ朝起きて誤解されないだろうか?
俺は軽く目を閉じ、休むことにした。
〇
朝起きたのは、体が強く抱きしめられたからだ。
結局寝ている間ずっとだきまくらにされていたようだ。
左腕がしびれている。
薄着の彼女の柔らかな感触がもろに腕に当たる。
俺も男だし、まったく何も感じないわけではない。昨日はああいったが、若返ったのもあってか結構体が反応してしまっている。
……助かったのは、彼女が貧乳だったことだな。
これが胸が大きかったら、多少は意識してしまっていたかもしれない。
気持ちよさそうに眠っているヒュアの顔を見ると起こすのも気が引ける。
別に急ぎというわけでもない。
それに、胸こそないが彼女の柔らかな体を合法的に体感できている。
ここは二度寝といこうか。
それから、しばらく経ったときだった。
「え!?」
ヒュアの驚いたような声が響いた。
「あ、あれ!? 私……確かにベッドで寝たはずなのに、なんで……?」
たいそう驚いている様子だ。
……今、起きるのはまずいな。
ヒュアの声音はどうにも緊張や恥ずかしさが混ざっているときのようなものだった。
ヒュアが落ち着くまで、寝たふりをしておこう。
それから、何も気付かずに起きればいいだろう。
昨日の寝相についても、一言も言わなければそれで済む話だ。
気付かれない程度に薄目をあけた。
ヒュアは……まだ近くにいた。彼女は胸元を片手で押さえながら、赤らんだ頬にもう片方の手を当てている。
「……昨日、助けてくれたとき、かっこよかったなぁ」
ぽつり、とヒュアは呟くようにそういった。
慌てて目を閉じる。……今起きているのがばれたら、ヒュアは今日一日まともに俺と顔を合わせられないかもしれない。
このままもう一眠りしようか、と思っていた俺だったが、なにかがこちらに近づいてくるのがわかる。
俺を起こそうとしているのだろうか。だとすれば、ちょうどいいタイミングだ。
ヒュアの手が俺の頭に触れ、頬や首へと触れていく。
腕や胸元に触れたところで、ヒュアの手が離れた。
「い、いい筋肉ですね……」
……あ、あんまりぺたぺた触らないでくれ。
くすぐったいんだが。
「何をしてるのですか私!? ダメよヒュア! これじゃあ私のほうが変態みたいです!」
ここで目を開き、何しているんだ? と反応してやりたい気持ちもある。
ただ、そんなことしたらヒュアが窓から飛び降りるかもしれない。
俺は黙っていることにした。
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