11 / 15
第十一話
しおりを挟む「私、必ず強くなりますねっ」
ヒュアが拳をぎゅっと固める。
「そうだな。その気持ちがあれば、きっと強くなれるさ」
「わかりましたっ! 頑張ります!」
ヒュアが大きく笑った。
ヒュアとともに宿へと向かう。この辺りの宿はどこも似たような造りで、金額も大差ないそうだ。
宿に入ると、店員の女性が驚いたようにこちらを見てきた。
上から下まで俺を観察するように見てくる。
「何かおかしなところあるか?」
「いえ、別にそういうわけではありませんよ。ただ、ヒュアが男性を連れてくるなんて思っていなかったので……もしかしてボーイフレンド?」
「ち、違いますよ! ただの冒険者仲間です!」
顔を真っ赤にしてヒュアは首を左右に振った。
そんな反応が面白いのか、店員の目元がからかうように歪んだ。
「えー、本当にー? そうなんですか?」
「まあ、ヒュアが彼女だったらその男性はかなり恵まれているだろうが……あいにく俺は違う。彼女とパーティーを組むことになったロワールだ。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。私はロニャンです」
ちらと隣にいるヒュアを見ると、すっかり顔を赤くしてしまっている。
ヒュアはあまり色恋の話は得意ではないようだ。
エルフというのは実年齢が分かりにくいが、この反応を見るとほとんど見た目通りなのかもしれない。
エルフの体の成長は人間と同じように進んでいく。
人間でいうおおよそ十五から二十程度の体まで成長してから、おおよそ二百年程度はそのままを維持する。
二百歳を過ぎてから、徐々に老化が始まり、二百五十から三百歳あたりが寿命となっている。
ロニャンは俺とヒュアを見比べてから、俺を肘でつついてきた。
「けど、ヒュアに随分と信頼されているみたいですね、お兄さん」
「そうか?」
「そうですよ。ヒュアったら、みんなにモテるからって結構男性と距離を開いていたんですから。なのに、お兄さん一緒に行動してるじゃないですか」
「そうなのかヒュア?」
俺が訊くと、ヒュアは顔を赤くしてロニャンへと声を荒らげた。
「よ、余計なこと言わないでください! ほ、ほらっ! ロワールさんは泊まる場所を探しているんです! 部屋の準備をしてあげてくださいっ」
「あっ、そうでしたね。ただ、すみません。宿は空いてないんですよ」
「……確かに、人が多いな」
「今満室なんです……すみません」
ぺこり、とロニャンが頭を下げてきた。
別に彼女が悪いわけではないからな。
「いや、気にしないでくれ。他の宿でも探すだけだ」
と俺が言うと、ロニャンは言いにくそうに頬をかいた。
「あー、もしかしたらどこの宿も満室かもしれませんよ」
「なんだと?」
「まだまだ、開拓が進んでいなくて宿が少ないんです。そういうのもあって、あちこちでテントが使われているんですよ」
そういえば、ここに来る途中もいくつかのテントを見たな。
……それなら、今夜は野宿かね。
野宿自体は旅で慣れている。
別に好きというわけではないが。
早急にテントも買わないとここでの生活は厳しいかもしれない。金が必要だな。
「あっ、でも。布団は余っていますので、そちらは貸し出せますよ?」
「貸し出してもらっても、敷く場所がないな」
「誰か、他の冒険者の方に頼んで部屋を貸してもらうというのはどうでしょうか? こちらもそれに関して、追加で料金をとることはしませんので。相手次第では金額の折半という形で対応してくれるかもしれませんよ」
「なるほど、確かにそれはいいかも」
ロニャンの言う通り、頼めば相部屋してくれる人もいるかもしれない。
ただ、厳しいことにかわりはない。
俺のことを知っている相手がいないからな。警戒されてしまうだろう。
「誰か頼んだら泊めてくれそうな人っているか?」
ロニャンがわざわざそう提案したということは何か考えがあってだろう。
外は冷えるし、テントもなしで過ごすのは避けたいので聞いてみると、彼女はにこっと微笑んだ。
「はい」
「誰だ?」
「ヒュアの部屋です」
「私ですか!?」
ヒュアが叫ぶ。
ロニャンの奴、楽しんでいるな。確かにヒュアの反応は素直だから、見ていて楽しいのでわからないでもないが。
「だって、ヒュアがここまで連れて来たってことは、それだけ信頼している人ってことですよね? これまで男を連れ込んだことなかったし」
「つ、連れ込んだとか誤解を生むような言い方やめてくださいよっ!」
顔を真っ赤に、時折こちらを見ながらヒュアが叫ぶ。
それがまたロニャンのツボに入ったよだ。
目を輝かせた彼女は、ヒュアに近づいていく。
「だってぇ、ヒュアってまったく誰かと一緒に行動してなかったんじゃない。特に男性には距離を置いていたし、てっきり男嫌いなのかと思ってたんだよ?」
「別に、そういうわけじゃないですけど……なんだかみなさん、私のこと嘗め回すように見てくるんですもん……」
「だって、顔可愛いもんっ! 胸はないけど!」
ロニャンがきっぱりというと、ヒュアが顔を真っ赤にしたまま声をあげた。
「よ、余計なこと言わないでください!」
「とにかく、そんなヒュアが男性を連れてきたってことはそれなりに信頼しているんだよね?」
「だから、誤解される言い方やめてください……っ! その、それなりに、信頼はしてますけど……」
ぶつぶつと呟くようにヒュアは言う。
そういってもらえるのはありがたい限りだ。
俺よく胡散臭いって言われるしな。
「けど、どうするんですかロワールさん? 外はさすがに寒いと思うけど……」
ちらとロニャンがこちらを見てきた。
ヒュアはすっかりむくれてしまったようで、耳まで真っ赤にしたままそっぽを向いていた。
俺はヒュアの恥ずかしそうな顔を見て、苦笑する。
「俺は外で構わないかな。結構寒いの得意だし。野宿には慣れているからな」
「わかりました。布団くらいは貸しますから、凍死しないでくださいね」
ロニャンがそういったところで、ヒュアが俺の肘を控えめにつかんできた。
「……ま、待ってください」
「ん? どうしたヒュア」
「今の季節は、まだまだ寒いですから。外で体調を崩されたら、困ります。……一緒のパーティーなんですから」
「大丈夫だ。風邪をひくような軟弱者じゃない。なんなら、風邪ひきながらでも冒険くらいできるぞ」
「わ、私が原因ってなったら、気にしちゃうんですっ。ですから、わ、私の部屋に泊まって大丈夫です!」
「つまり、ヒュアが野宿をする……と?」
「わ、私も一緒の部屋ですよ!」
俺が冗談を言うと、ヒュアが顔を赤くしながら叫ぶ。
ロニャンがヒュアをちらと見てから、俺の肩を叩いた。
「お兄さん、大チャンスですね」
「ロニャンっ! 変なこと言わないでください!」
ヒュアがビシビシとロニャンの肩を叩いていた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜
双華
ファンタジー
愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。
白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。
すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。
転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。
うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。
・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。
※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。
・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。
沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。
・ホトラン最高2位
・ファンタジー24h最高2位
・ファンタジー週間最高5位
(2020/1/6時点)
評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m
皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。
※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる