7 / 15
第七話 規格外の賢者
しおりを挟む噴き出した水を見て、全員が目を丸くしている。
俺は自分に水が降りかからないように避難していると、
「……い、今、何をしたんだ?」
試験官が驚いたように声をあげる。
「魔力を込めただけが……何かやり方間違ってたか?」
「こ、こんなこと初めてだな……凄まじいほどの魔力、ということ、なのか……? だ、だとしてもありえない量だぞっ」
「とりあえず……試験突破、でいいんだな」
「あ、ああ」
ほっと胸をなでおろす。
俺の時代とは測定のやり方が違うから、少し不安だった。
「お、おかしいですよ! こんなこと、ありえないです! 何か、魔力水がおかしくなっていたんですよ!」
俺の結果に、異論を唱えたのは職員だ
試験官がちらと彼女を見てから、首を傾げた。
「それなら、もう一度調べるか?」
「そのほうがいいですよ! あんなふうに水が噴き出したことなんて今までなかったんですよ!?」
職員は慌てた様子でそういった。
試験官が嘆息をついてから、新たな水を用意して桶に入れた。
ちら、と試験官が職員を見た。
「もしも、また同じ結果なら、認めろよ」
「……わ、わかっていますよ」
職員は不満げながらも頷いた。
俺が同じように魔力を込めると、再び水が吹きあがった。
まるで間欠泉のようだな。
今度は受け止めてくれる人がいなかったので、結構な高さまで水が浮き上がっている。
俺はびしょびしょになった右手を払いながら、ちらと試験官を見る。
試験官は職員へと視線を向ける。
「結果は同じだな」
試験官の言葉に、職員は悔しそうに顔をゆがめてから頭を下げた。
「……ま、魔力に関しては、認めます。ただ、魔力があるからといって魔法が使えるということではないはずですよ!?」
最後は試験官に対して叫んでいた。
「そう、だな。それじゃあ次の試験に移ろうか。試験道具の起動を行うから少し待っていてくれ」
試験官がそういって、訓練場の隅へと向かう。
そちらには、石の塊が転がっていた。
試験官と職員がその石を弄っている。
俺が黙ってみていると、ヒュアがこちらへとやってきた。
「やっぱり、凄い魔力ですね! あんなの今まで見たことないですよ」
「俺も少し驚いている、あんなことになるんだな」
「凄かったですね! 残りの試験は攻撃魔法の確認と、治癒魔法の確認くらいですね。そっちも問題ないんじゃないですか?」
「どれだけの力量が求められるかは分からない。油断はできないな」
話しを終えると、試験官たちの方から音がした。
見れば、隅にいた石の塊が動き出していた。
高さは三メートルほどだろうか。
石を積み上げた人型のそいつは、ゴーレムだな。
目の部分には魔石が埋め込まれている。その魔石に魔力が吹き込まれたのか、時々光りを放つ。
「次はこのゴーレムだ」
「ゴーレム……? これで何をするんだ?」
そこまで良質なゴーレムではないが、試験用だしそんな強いものは用意しないか。
「魔法の検査といっただろう? このゴーレムに魔法を撃ち込んでくれれば、その威力を測定して地面に書き込んでくれるんだ」
「地面に書き込む?」
「ああ」
なんだその可愛らしさは。
実用性重視のゴーレムしか聞いたことないから、そういった考えはなかったな。
「こいつを破壊できれば、問題なく合格でいいのか?」
俺が言うと、試験官はふっと口元を緩めた。
「まあな。破壊できればそれは間違いなく合格だな」
「け、『賢者』がそんな魔法を使えるわけありませんよ!」
それは分かりやすい。
……ただ、破壊できれば、か。
少し怪しんでしまう。
俺の時代では、的に魔法を当てて破壊するのが試験だった。
ただ、当時俺が冒険者登録を行うときは「的に魔法を当てろ」としか言ってもらえなかったのだ。
破壊しなければ合格できないことを知らずに、何度も試験を受ける羽目になったのだ。
……まあ、破壊できるほど魔法の威力がなかったのも一つの原因ではあったがな。
つまり、試験官の言う「破壊できれば」という言葉。
――実は俺を騙すための嘘という可能性もある。
あのゴーレムを破壊するだけの魔法を用意しないとな。
「魔法というのは一発だけか? それとも何発も撃っていいのか?」
「別に一発というわけではない。何度でも挑戦してもらっても問題ないが……そもそも、魔法は一発しか撃てないだろ? 次の使用まで、チャージの時間が必要なはずだ」
それも見てもらったほうが早いだろう。
「了解だ。それだけ聞ければ、十分だ」
どういうことだ? という顔をしている。
まあ、そこは口で説明するよりも実際に見てもらった方がいいだろう。
魔法の威力をあげる手段はいくつかある。
一つは、単純に日々の積み重ねだ。
魔法は使えば使うだけ威力があがるといわれている。もちろん、上限はあるが、魔力を魔法へ変換する効率があがるのだ。
同じランク帯の魔法でも、慣れている人と初めて使う人では、その威力が随分と違うものだ。
俺はすでに最高威力を出せるほどの熟練度があるので、こちらの強化は無理だ。
だから、ここではもう一つの手段を取らせてもらう。
相手に与えるダメージを増やすにはどうすればいいのかを考えてみればいい。
一度殴るのと二度殴るの。どちらがよりダメージが大きいか考えれば誰でもわかるだろう?
俺は賢者になったことで無詠唱を習得した。無詠唱というのは、魔法を素早く打つだけではなく、単純な威力をあげるためにも用いられる。
火魔法の火力をあげるために、風魔法を同時に放ってみたり。
水と火魔法を合わせて、霧を生み出したり。
そういった応用的な使い方ができるのが、無詠唱の特性だ。
……まあ、今回に関してはそんな頭を使うような使い方はしないのだが。
俺は火魔法をいくつも準備する。
すべて無詠唱で魔法を待機させておく。
とりあえず五つ。これで足りればいいんだが。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる