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「それでは、おしゃべりはこの辺にして、さっさと仕事を終わらせに行きましょうか」
「さっさと終わらせられる仕事なのか?」
「まあ、そこは聖騎士次第、ですかね?」
「ほどほどにやらせていただきますよー」

 俺がひらひらと手を振り、ソファから立ち上がる。アレクシアもまた、立ち上がったあと大きく伸びをした。

「まずは、魔物の討伐から行きましょうか」
「魔物の討伐なんて、冒険者とかの仕事だろ? 教会騎士にふるとかはダメなのか?」
「ここ最近増えている呪いを持った魔物の存在はご存じでしょうか?」

 呪いを持った魔物、か。
 確かに増えているとは、屋敷にいるときに聞いたことがあるな。

「話に聞いたことくらいは」
「恐らくは邪教集団の仕業と考えられていますが、魔物の一部が邪神の加護を受けているそうなんです。そういった魔物は、聖女でなければ倒せないので、私たちに仕事が振られるんです」

 聖女の加護がなければ、邪神の討伐は不可能だ。ただし、聖女の加護を受けたものなら、誰でも戦うことは可能だ。
 だから、ゲームでは最低一人以上、聖女をパーティーに加える必要があった。
 ……まあ、別に、ゲームクリア後には聖属性が付与された武器を作れるようになるのでその制限もなくなるんだけどな。

 邪神は一度俺が討伐しているが、誰かが復活させようとしているのは間違いないようだ。
 せめて、強くなって復活してくれるのなら俺としても少しはやる気でるんだが、今の俺の能力だと恐らく一撃だからなぁ。

 こっちに転生してからも、クラフィたちにステータスアップ木の実の量産をさせ、定期的に運んでもらっていたので、転生前よりも強くなってるし。

 ……なんか、転生してからステータスの限界が伸びたらしくて、また一から強化できたんだよな。簡単にいえば、俺一人で二キャラ分のステータスを持っているような状況だ。

 もちろん、日々の鍛錬も怠っていなかったし、暇な時にクラフィたちに模擬戦も行っていた。
 今のこの時代に、俺をワクワクさせてくれる魔物がいるのかどうか。

「そうか。頑張ってくれ」
「はい。行きましょう」

 ぐいっと腕を組むようにして引っ張られる。柔らかな感触が俺の右腕にあたり、アレクシアがにこりと見てくる。
 こいつ、結構でかいんだよな。

「えっちですね。いきなり触ってくるなんて」
「当ててきてそれはないんじゃないか?」
「動く気がないものでしたから。スチルが有罪ですね」

 こうやって痴漢冤罪などは増えていくのだろう。理不尽なアレクシアに腕を掴まれたまま、俺たちは部屋を出ていく。
 部屋を出てすぐだった。教会騎士たちがアレクシアの方へとやってきた。
 先ほど仕事を持ってきた人もいる。数は全部で六人か。
 先頭に立っていたのは、先ほどの伯爵家の青年だ。

「聖女様。本日、魔物の討伐を行いますよね? 是非とも、私たちが護衛の同行をいたします」

 おお、こんだけ肉壁がいてくれるなら頼もしい。
 しかし、アレクシアはぐいっと俺の腕を抱き寄せ、微笑んだ。

「大丈夫ですよ。今日からは聖騎士がいますから」

 ぴくり、と教会騎士たちが眉尻をあげ、俺を見てくる。
 あんま喧嘩売るようなことを言わないでほしいものだ。
 ほらみろ、教会騎士たちが顔を顰め、こちらを見てきている。

「そちらのスチルベルトさんの能力は……正式な能力測定の結果を公表されていませんよね?」
「ええ、そうですね。それが何か?」
「まだ本当に能力があるのか分かっていない方一人に、聖女様をお願いできません。もしも、聖女様に何かあったら、どうするのですか? この国だけではありません。この世界の、損失になるんですよ!?」

 そう騎士が熱心に語ると、他の騎士たちもこくこくと頷いていく。
 正義感に溢れた良い騎士様じゃないか。
 俺の腕を掴んでいたアレクシアの力が、僅かに強くなった。

 込められる力はすぐに元に戻ったが、俺としてはその一瞬を見逃すことはできなかった。
 ……見逃してやってもよかったんだけどな。

「この私、ルージュノウ・アデヒドなら……あなたを確実に守ることができます! ぐえ!?」

 俺はそう叫んだルージュノウへ一瞬で距離をつめ、首を絞める。
 顔を青ざめさせながら暴れるルージュノウと周りの教会騎士たちが、慌てた様子でこちらを見てくる。
 ぱっと手を離してやると、ルージュノウが数度むせた後、顔を真っ赤にする。
 顔色がころころ変わって、信号みたいに忙しいやつだな。

「な、何をするいきなり!?」
「何をって……もしも俺がアレクシアを狙う邪教集団だったら……今のでおまえ死んでたんだぞ? 俺以下の雑魚を連れて回ってたら、そいつらを守るために仕事が増えて敵わん。邪魔だからお前程度の力でも同行の許可を出してくれる聖女の護衛にでもついてろ」

 俺が一方的に吐き捨てると、ルージュノウは驚いた様子ですぐに口を開いた。
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