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 それからすぐに家を継ぐ必要になったときなど、場合によっては聖女が聖女をやめ、レクナの妻になることもある。
 そうすれば、元聖女と元聖騎士の夫婦だ。これが、貴族にとってはかなり強みとなる。

「スチルベルトだ。親しい人間はスチルって呼んでる。よろしく」

 俺が気さくに片手をあげて挨拶をすると、聖女たちは何やらきょとんとしていた。
 アクリルを見ると、額に片手をあてていて、大聖女とアレクシアはくすくすと楽しそうに笑っていた。

「まあ、彼は平民の出身だから細かい礼儀はないわ。でも……ここにいる誰よりも強いわよ? ね、アクリル」

 大聖女はふざけた調子ながらも、周囲の教会騎士たちに対してはっきりと言ってみせた。
 あんまり、余計なことを言わないで欲しいんだが。
 大聖女の牽制するような言葉に、何人かの騎士たちがぴくりと眉尻をあげている。
 アクリルはため息を吐きながらも、こくりと頷いた。

「大聖女様の発言に嘘はありません。昨日、模擬戦を行い、私は敗北しましたので」

 アクリルがそういうと、どよめきが周囲に広がった。
 皆が驚いたように俺を見てきていて、アクリルが評価されているのが窺えるな。
 ただ少し、言い方が気になったので俺が訂正する。

「昨日はあくまで軽くやりあっただけで、お互い本気でやったわけじゃないからな。そこは誤解しないように」

 アクリルが俺の評価をあげるためにそう言ってくれたのは分かっているので、俺としてもアクリルが馬鹿にされないように訂正しておく。
 大聖女は俺の意図も分かってくれたようで、小さく頷いた。

「そうね。アクリルはちょっと過剰に報告をしたけれど、そういうことよ。実力に関しては申し分ないわ。ちょっとばかり、性格に難ありだけど」
「性格に難ありなら、クビにしてくれてもいいんだけど」
「だ、そうよアレクシア?」
「クビにはしませんよー」

 あー、はい。そうですよねー。
 大聖女とアレクシアが仲良さそうに話していて、俺に逃げ道がないことはわかった。
 まあ俺も、ほどほどに頑張る、くらいで聖騎士を続けるつもりなのでいいんだけど。
 和やかに話している俺たちをみて、俺に対しては教会騎士たちが、アレクシアに対しては聖女たちの嫉妬のような鋭い視線を向けている。
 ……俺たち、結構立場的に敵が多そうだな。

「そういうことで、新しい聖騎士が決まったわ。顔を見られたくないそうなので、基本この格好にはなるけれどそれも私が許可しているわ。そういうわけだから、皆。仲良くしてあげてね」

 大聖女がそういうと、パチパチと拍手がされる。聖女たちはともかく、教会騎士たちは露骨に不満そうな顔の人が多い。
 まあ、これまで頑張って聖騎士を目指していたやつもいるわけで、ぽっと出のよく分からん男にその一つの座を取られてしまったんだから気に食わない部分もあるだろう。

 まあ、俺にはどうでもいいことだ。
 自己紹介が終わると、俺たちは解散となった。



 朝礼も無事終わり、俺とアレクシアは教会内を歩いていた。

「この後はどうするんだ? 昼寝でもするか?」

 朝から活動していたし、そろそろ一休みしても文句は言われないだろう。

「私としてもお休みしたいところなのですが、日々何かしらの仕事があるんですよね。依頼が届いていますので、そちらへ確認に行きましょう」

 アレクシアがそう言って歩きだす。俺も彼女の隣に並んで歩いて行く。
 アレクシアについていき、ある部屋へと入る。
 決して大きくはないが、小さいということもない部屋だ。
 テーブルと椅子。来客者の対応用なのか、テーブルを挟んでソファが二つ、並んでいる。
 
 奥のテーブル近くには白い鎧を身につけた教会騎士がすでに待機していて、俺たちに気づくとすっと頭を下げてくる。

 髪の質や衣服の綺麗さから、おそらくは貴族出身なんだろうことは窺える。
 だからか、俺に向けられた視線は力強くもあった。
 アレクシアが奥の席へと向かい、くるりと振り返る。

「ここはアレクシアの部屋か?」
「はい。仕事用の、ですね・毎朝、こちらで本日の仕事について聞くことになります。今日は何かありますか?」
「はい。聖女様には、魔物の討伐、迷宮の封印、結界の確認を行って欲しいとのことです」

 そういって、教会騎士が数枚の紙をアレクシアに差し出す。
 それを受け取ったアレクシアがこくりと頷くと、椅子に腰掛けながらペラペラと紙を捲る。

「少し多いですが……分かりました。本日中に対応しておきます」
「よろしくお願いします」

 教会騎士はぺこりと頭を下げてから、俺の方をちらと睨んで外へと出ていった。
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