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「これは聖騎士の仕事ですから。あれ、もしかして恥ずかしいとか感じてますか?」

 からかうように口元に手を当て、ニヤニヤと笑ってくる。
 ため息を吐いてから、俺はアレクシアのタンスを開ける。
 下着や、聖女の衣装がずらりと並んだそこを見ると、アレクシアは声をあげた。

「ちょ、ちょっと!? そ、そんな当たり前のように開けないでもらえますか!?」
「いや、そっちがその気なら別にいいかと思ってな。おまえ、結構派手な下着つけてんだな。男でもいるのか?」
「い、いませんよ! ……まったく、ちょっとくらいは恥ずかしがるものではありませんか、普通」

 むすーっとアレクシアは頬を膨らませ、片手を動かす。
 何かの風魔法を使ったようで、タンスがぱたりと閉じられる。

「私、着替えますので外に出ててください」
「一応、護衛なんだけど、いいのか?」
「ええ。何かあれば悲鳴をあげますので。それとも、今あげましょうか?」
「やめろ、誤解されるだろうが」

 アレクシアはジトーっとした目をこちらに向けてきたので、俺は上着を羽織り、仮面をつけて外へと出た。
 反応だけ見ると普通の女の子っぽいのだが、一体なんでアレクシアがラスボスなんだろうか?

 続編に関しては一切プレイしていないせいで、まるで状況が分からないんだよな。
 今がもうゲーム本編なのか、それともまだゲームが始まる前なのか。

 ……それに、アレクシアの立ち位置もだ。彼女が教会側のラスボス、としているのか、それともまた別の立場でラスボスとして存在しているのか。

 教会の廊下には、シスターっぽい人や僧侶っぽい人たちが歩いていた。

 まだ俺のことを知らない人たちが、ちらちらとこちらを見てきたがとりあえずは反応しないでいた。
 そうして、廊下に誰もいなくなったときだった。

 すっと俺の前に一人の少女が姿を見せた。……忍者みたいな格好をしている彼女は……アリンだ。
 彼女もまた、忍者の格好をしている。誰もこの衣装に疑問を抱かないのは、そういうお年頃なんだろう。

「……スチル様」
「アリン、久しぶりだな。教会に入ってきて大丈夫なのか?」
「結構ガバガバ」

 ぶいっとピースをするアリン。
 うおい、マジかよ。
 クラフィもアリンもかなり能力高いので、仕方ないっちゃ仕方ないかもしれないが教会騎士たちはもっと気を張ってほしいものだ。

「それよりも……聖騎士、おめでとう……?」
「いや、おめでたくはないんだが……まあ、言葉は素直に受け取っておこう。それで? 何か用事があったのか?」
「……うん。最近、邪教集団の動きが活発化してる。大丈夫だと思うけど、スチル様にも報告しておいた方がいいと思った」
「……ほお? 何かやってんのか?」
「……聖女様の誘拐、とか。だから、教会は警戒している」
「その結果がアリンの侵入か?」
「頑張った」

 ぶいっとピースをするアリン。
 ……まあ、そこらの教会騎士が束になってもアリンには勝てないからな。仕方ない。

「そういうわけだから、今期待のアレクシア様も狙われる可能性はある。何かあるかもしれないから気をつけて」
「了解だ。そっちも、まあなんか色々やってるみたいだけど気をつけてな」
「もちろん」
「力が必要なときは言ってくれ。手を貸すから」
「……うん、ありがと」

 すっと体を寄せてきたので、頭を撫でてやると満足そうにアリンは姿を消した。
 ……あいつも、そろそろ俺離れをしてほしいものだ。皆、困っているところを助けてあげたからか、俺に懐きすぎてるんだよな。
 そろそろ、それぞれの人生を歩んでほしいものだ。

 そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
 アレクシアだ。聖女の服の上からパーカーのような大きな服を身につけ、ポニーテールに髪を結んでいる。

「お待たせしました。それでは、食事に行きましょうか」
「了解だ」
「そういえば、仮面をつけたままで食事はどうしますか?」
「ちょっとずらして食べる」
「そこは、ちゃんと食べるんですね」

 当たり前だ。うまいもんを食べるために俺は生きてるんだからな。
 そんな話をしながら、俺たちは食堂へと向かった。
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