9 / 23
9
しおりを挟む「騎士たちであれば私の命令を聞いてくれますので、無駄だと思いますよ?」
フードに隠れてはいるが口元が緩んでいるのは見えた。
……俺は掴まれた腕をはぐようにして、彼女と向き合う。
マーキングされている以上、どこに行っても逃げられはしないだろう。
ならば、アレクシアの話を聞き、二度と関わらないでくれとお願いしてしまったほうがもう面倒なことにもならないはずだ。
「あなたの家へ面会に行ったところ、すでにあなたはいないと聞きました」
「ああ。さっき誕生日だったからな」
「レクナ、でしたか? どうやら私が面会しにいった理由を誤解されてしまったようで、脱出にずいぶんと時間がかかってしまいましたよ」
……レクナや父、母のことだ。
きっとアレクシアにアピールしまくっていたんだろう。その光景は容易に想像できた。
「誕生日にあなたがいなくなるというのはどういうことでしょうか?」
「俺は今年で18歳だ。貴族が成人を迎えたらあとは分からないか?」
「……なるほど、そういうことですか。モスクリア家も、他家と同じ、ということですか」
短い話で理解してくれたようだ。
「殺されなかっただけマシかもしれないけどな」
「それは、そうですが……あなたなら、もしも殺されそうになっていれば逃げていたでしょう?」
「買いかぶらないでくれ。俺はただの一般人だ」
アレクシアのどこか期待した瞳から視線を外す。
「ただの一般人さんに質問です。本日、お婆さんを襲った強盗はDランク冒険者だったそうです」
「それがどうしたんだ? 一番いるランクの冒険者だろ?」
「それは確かにそうですね。ですが、Dランク冒険者に一般人が勝てるでしょうか?」
「人間ってのは脆いんだ。不意打ちを受ければどんな奴だって死ぬ」
俺が体験済みだ。
……まあ、あの場でも抵抗しようとすれば抵抗はできた。
ただ、逃げたところでそこからは逃亡生活の始まりだ。
そんなだるい生活はしたくない。
「それはそうかもしれませんが、犯人は逃亡中でした。決して、油断はしていなかったと思いますが」
「路地まで逃げきれた時点で多少は気がぬけていたんじゃないか?」
「ああいえばこういいますね」
「話を終わらせたがっているのに、無理やり繋げられているもんだからな。話はそれだけ
か? 俺は早いところ宿を見つけて休みたいんだよ。明日からは一人で生きていかないといけないもんでな」
俺がそういうと、アレクシアは笑顔を浮かべた。なんか、嫌な予感がする。
「それでしたらいい宿がありますよ」
「聖女様が泊まる宿だろ? 高いんじゃないか?」
「大丈夫です。衣食住のすべてを管理しますし、さらには毎月給与も支払われます。活躍に応じて特別報酬も与えられる。そんな素晴らしい仕事の斡旋に来ました」
「……」
その先の問いかけはしなかった。
アレクシアは俺の変化に気づいた様子もなく、笑顔とともに問いかけてきた。
「私の聖騎士になりませんか?」
「……」
「私の聖騎士になれば、衣食住はもちろん。先ほど話をされていた一人で生きていく、という問題も解決しますよ」
「……」
聖騎士。
あちこちで冒険者の真似事のようなことをし、おまけに聖女の面倒もみる。
面倒な貴族との顔合わせもあれば、他にも貴族がたくさんいる世界で活動をしていく仕事だ。
「断る」
俺が両手でバツを作ってやると、アレクシアは笑みを浮かべた。
……なぜここで笑顔を浮かべるのか。
こいつはこいつで、理解に苦しむ思考回路をしている。……一見しただけの俺を誘うあたりもな。
「その回答は予想していましたよ。理由を聞いても?」
「俺は聖騎士が……いや、教会が嫌いなんだよ」
「どうしてですか?」
「それは――面倒そうだからな」
……この時代の教会は知らないが、カインの時代の教会は酷かった。
125
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる