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しおりを挟む「スチル様。ご褒美の頭なでなではないでしょうか?」
「もういい加減子どもじゃないんだし、恥ずかしくないのか?」
クラフィは同い年だが出会ってからずっと俺が面倒をみてきたこともあり妹のような存在だ。
とはいえ、もういい加減彼女も俺離れしてもいい年齢だろう。
「いえ、そんなことはございません。ささ、この頭を撫でてください」
すっと彼女が犬のように体を寄せてきたときだった。
部屋に誰かが近づいてきた。クラナは即座に天井へと張り付き、天井と同じ布を体に被せるようにして姿を隠す。
と、部屋の扉が蹴り開けられる。
なんとも素行の悪い開け方をしたのは、レクナだ。
「おい! てめぇ! まだ買い出しに行ってなかったのかよ!?」
「あっと……申し訳ございません」
「今日はオレ様の誕生日だろうが! さっさと買い物に行ってこいよ!」
今日はレクナの誕生日であり、レクナが色々欲しいものがあるから買ってこい、と俺に命令を下したのだ。
……まあ、レクナが誕生日というのであれば、俺も誕生日なのだが、そこは関係ない。
生まれてきたことを祝われたことは一度もないが、今夜の誕生日くらいは祝ってもらえるかもしれない。
だって、俺が家を追放される日なんだしな。
天井からものすごい殺気を向けられてるので、早く部屋から出ていってくれませんかね、お兄ちゃん。
「申し訳ございません。いますぐ向かいます」
「さっさと行け才能なし!」
レクナが俺の腹を蹴り付けてきたので、一応弾かれたふりをしておく。
体の力を抜いておかないと、たぶん蹴ったレクナが吹っ飛ぶからな。
俺が尻餅ついたのを嘲笑うようにして、レクナは去っていくと天井に張り付いていたクラフィが降りてきた。
「……私のスチル様に……絶対後で殺す」
「殺すな。それに、お前のじゃない」
「申し訳ございません、スチル様。まだ、私のものではありませんでしたね」
これから先も違うぞー?
ここで言い合っていても仕方ないので、俺はクラフィの頭をポンポンと叩くように撫でてから部屋を出る。
「……あっ、スチル様ぁ」
恍惚とした声をあげるクラフィ。これで、彼女も満足してアジトに帰るだろう。
俺はすぐに屋敷を出て、街へと向かい、買い物リストを眺めていた。
さてさて、どこの店から買いに行くかねぇ。
アイテムボックスがあるので、別にどこから買ってもいいのだが……。
買い物リストを睨めっこしながら歩いていると……何やら不審な人物を発見した。
……周囲をきょろきょろと見回しているその男性は、何やら誰かを探しているようだった。
怪しい。
しばらく警戒して視線を向けていると、その男の視線が……老婆に向けられた。
そして――次の瞬間、彼は走り出した。
知り合いを見つけた、という動きとしてはあまりにも過激だ。
……強盗、とかじゃないだろうか?
そう思った次の瞬間だった。
男が老婆を押し除けるようにぶつかった。
「……っ!?」
倒れた老婆が慌てた様子で走り去る男の背中を見ていた。
「ご、強盗!?」
「おい! 騎士を呼べ!」
「大丈夫ですか!? 婆さん!」
「え、ええ……大丈夫ですが……亡くなった旦那がくれた……大事なカバンが……っ」
周りの人たちの悲鳴を押し除けるようにして、男が走り去っていく。
……久しぶりに街に出たらこんなことに巻き込まれるなんてな。
老婆の悲痛めいた声に、俺は頭をぽりぽりとかく。
しゃーない。やるとするか。
俺は即座に、体に力を入れる。
自分の能力の限界まで速度をあげ、路地へと入った男の後を追う。
……見つけた。
即座に跳躍して、男の前に立ち塞がると、男は驚いたようにこちらを見てきた。
俺を見て、警戒した様子で短剣を構えた彼が、地面を蹴って突っ込んでくる。
「邪魔だ!」
「……遅いんだよ」
「……があ!?」
振り抜かれた短剣を避け、加減して蹴りを放つと男の体が吹き飛んで壁に体をぶつける。
よろよろと起き上がった男に近づいた俺は、首へ軽くチョップを当てると同時、俺の持つ魔力を体内へと送り込み、
「う……が!?」
彼の体内の魔力を乱し、気絶させた。
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