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しおりを挟む……ああ、なるほど。勝手に名前を呼んだから驚かれてしまったのか。
後で父から叱られるかもしれんな。まあ、そこらへんの教育をちゃんとしなかったやつが悪い。つまり、父たちだ!
俺は頭を下げながらそんなことを考えていると、アレクシア様は首を横に振った。
「……いえ、気にしないでください。モスクリア家の次男といえば……力がないと聞いたことがあります。……本当なのですか?」
じっとこちらを伺うように見てくる。その問いかけは、俺の能力に気づいているかの様子だった。ただ、まだ確信はしていない……ということか。
……もしかして、俺の引き継いだ能力に気づかれてるのか?
いやいや、そんなことはないと思うが。
ただ、この人。すべてを見透かしてくるような迫力がある。あんまり、長く話したくはないな……。
心の中で虫除けスプレーをかけながら、俺は笑顔で答える。
「ええ、そうです。それなのに、父や母、特に兄は私に優しく接して、ここまで育ててくださいました。本当に感謝しかありません」
ここでアレクシア様に何か思われては面倒なので、いつも通り家族を褒める言葉を口にする。
これでさっき怒らせた分もチャラにしてくれよ、親父?
それでもアレクシア様は何か考える様子で俺をみていたが、少しして短く息を吐いた。
「そうですか。モスクリア家はとても寛容な家のようですね。以前、ある貴族の家で能力の低い子どもを殺害したという話を耳にしたこともありましたが、あなたの体なら問題なさそうですね」
「……そうですか。私の家では大丈夫です」
……まあ、無能な子どもを育てる理由は家からすればあまりないからな。
平民の間でも、間引きを行い優秀な子どもだけを残していく時代だ。
表向きは、もちろんそんなことはない、とされているんだけどな。
ていうか、ゲーム通りならどんなに弱くてもステータスを強化することは可能だ。
それで、ゲーム中最弱と呼ばれているキャラクターを仲間にして、最強ステータスにまで育てるなんて遊び方もあるわけだし。
実際、俺がカイン時代に仲間にした格闘家と魔法使いの二人は、事実めっちゃ弱いけど俺が強化しまくってあの世界じゃ敵なしだったんだし。
その力が遺憾無く発揮された、俺にな。
俺とアレクシア様が話していたときだった。
レクナが割り込むように肩を組んできた。
「スチルは大事な弟ですから」
「そのようですね」
……少しでもアレクシア様の印象に残るためだろう。
アクレシア様は俺以外を見て微笑を浮かべてから、再び歩いて行った。
ひとまず……問題なかったよな?
俺は小さく息を吐きながら、家族や周囲の様子を見る。
……俺はモスクリア家をうまく褒めたし、周りの様子からもそれははっきりと分かる。
レクナも上機嫌だし、うまくやりきったはずだ。
しばらくしてパーティーは本格的に始まり、人々が自由に行き来して食事を楽しんでいく。
俺も目立たないように気配を消しながら、山のように盛りつけられた肉や魚料理を堪能していく。
……うまい! うますぎる!
散々待たされたからな……っ。
俺は幸せな気持ちとともに、食事を楽しみながら、どんどんアイテムボックスに食料を確保していった。
パーティーに参加してから、しばらくが経ったある日。
部屋の窓がノックされた。
視線を向けると……忍者みたいな格好をした人がいる。
……俺の、知り合いだ。
屋敷に来るなって言ってるんだけどな。
俺はため息を吐きながら窓を開けると、銀髪の美少女が部屋へと転がり込んできた。
彼女の名前は、クラフィ。俺と同じ十八歳だ。
俺の……まあ、部下みたいなものだ。
転生してからの俺は、今の立場が原因で色々な制限を受けていた。
だから、それらを無視して動ける駒が欲しかった。あと、ゲーム通りに能力が強化できるのかとか……色々検証したかったのだ。
クラフィはその駒の一人だ。
クラフィと俺との出会いは、街の中だ。
何か奴隷として売り飛ばされた先から逃げ出ところに出会い、助けたら懐かれた。
忍者の格好は、彼女の趣味である。他の子たちも忍者の格好をしているのだが……まあそのぐらいの年代の子がそういったものに心惹かれる気持ちもわかるので、俺も温かい目で見守ることにした。
「どうした?」
「報告があります。最近、魔物の活動が活発化していますので、もしも街の外に出られる際はお気をつけてください」
「……ああ、そうか。特に出ないので問題ないな」
「それなら良かったです。……もしかしたら、例の邪教集団も関係しているかもしれませんので、こちらで調べているところです」
「そうか」
何やら、この時代にはこの時代で色々やっている暗躍している連中がいるらしい。
といっても、俺からしたらどうでもいい。俺の生活を邪魔しないのなら、放置だ。
そんなことをしていると、クラフィがこちらに近づいてくる。
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