4 / 23
4
しおりを挟むざわつく会場のある一点。
人々の視線が集まったそこには、可愛らしい女性がいた。
綺麗なドレスに身を包み、美しい金色の髪を後ろで縛っている。
ポニーテールか。歩くたび左右に揺れているのだが、そのたびに美しい光に包まれているようだ。
どことない高貴さが、彼女の一挙手一投足から溢れ出していた。
彼女は、ブルーナル家の三女、アレクシア・ブルーナル。
公爵家の三女ながら、そのずば抜けた聖女としての才能と、多くの人を魅了するような美貌までも持っている。
年齢はまだ十六と若く、そんな子が聖騎士募集中なんだから、うちの兄みたいに何としてもその座につきたい人がたくさんいるんだろう。
……ただ、俺は知っている。
彼女が、続編のラスボスの可能性があることを。
このゲームは、2も発売予定だったのだが、それは『バラリティワールド1』の未来を舞台にした物語、というのは聞いていた。
詳細は知らない。
なぜなら、俺は発売前に死んでしまったからだ。
アレクシアがラスボスなのかどうかも、PVで敵対していた動画が公開されているので、詳細までは知らない。
ただ、どこの紹介でも、『美しすぎるラスボス』として紹介されていたから……まあ、ラスボスに近しい立場なのは確かだろう。
まあ、何かしらの理由があって仲間になるとかはあるのかもしれないが。
……とりあえず、深くは関わらんでおいた方がいい相手というわけだ。
今の俺は、ただのモブなんだからな。
まあ、もう俺は前作主人公なわけで、今作には無関係だろう。
物語がもしもあるのなら、勝手にやってくれ、という感じであり、さっさと飯食いたいんだけど……。
アレクシアの近くには護衛と思われる騎士もいるが、まだ聖騎士はいないと言っていたし、たぶん教会が派遣した教会騎士なのだろう。
すたすたと歩く彼女に、声をかける人はいない。騎士が周囲を警戒しているのもあるかもしれないが、それよりも聖女様が近寄りがたい空気を生み出していたからだ。
だが、その中で一人。
動き出した人がいた。
我が兄である。
「聖女様。本日は聖女様のお仕事の合間を縫ってきていただき、本当にありがとうございます」
「……あなたは?」
「レクナ・モスクリアと申します。モスクリアの長男でして……あなたの聖騎士になるため、家族でこの街に引越し、鍛錬を積んでおります」
……元々、モスクリア家は王都に住んでいたのだが、レクナを聖騎士にするため、教会の本部があるこの街に引っ越してきていた。
俺のお兄様は、ずいぶんと勇気があるな。
アレクシア様はあまり人と話したくなさそうにも見えたが、その中で声をかけるとは。
「そうですか。優秀な力を持つ人が増えれば、それだけ多くの人が救われることになります。頑張ってください」
「はい……!」
アレクシア様は微笑を浮かべてそういって、レクナはやる気に溢れた様子でアレクシア様に一礼をして、こちらへと戻ってきた。
父と母は喜んでいて、兄も嬉しそうではあるのだが……さっきの口ぶりだと、「私の聖騎士にはしませんが、まあ頑張って」という風にも聞こえないか?
まあ、家族の機嫌がいいのは良いことだ。しばらくは平穏な日常が送れそうだな、とか考えながらさっさとパーティー始まれ……とか考えていると。
すたすた、とこちらへアレクシア様が近づいてきた。
彼女の視線は俺へと注がれているように見えたが、父がすっと頭を下げた。
「聖女様。レクナの父、ルーンでございます」
「何度か見たことがありましたが……なるほど。モスクリア家の方でしたか」
「おお……まさか覚えていてくださるとは……ありがたき幸せです」
「名前までは覚えておらず、申し訳ございません。ということは、そちらの方がモスクリア家の……次男の方でしょうか?」
「ええ、そうです」
アレクシア様の視線がちらとこちらを向いた。
……どうやら、目的があって俺に近づいてきていたようだ。
いやいや、なぜ?
アレクシア様の口ぶり的に、別に俺の名前すらも知らないようだから……特に意味はないと思うが。
ていうか、俺に注目が集まっているが、これどうしたらいい?
下手に目立つようなことをするわけにもいかないので、いつものように家族を褒めておこうか。
「初めましてアレクシア様。スチル・モスクリアと申します」
俺はいつものように挨拶をしたのだが、アレクシア様は何か驚いたご様子だ。
は? 変な反応しなくていいから。さっさと終わらせてくれって。
あれ? 実は心の声が聞こえてるとかない? だとしたらまずいがさすがにゲームでもそんなキャラはいなかったはずだ。
「も、申し訳ございません! 聖女様のことを気軽に呼んでしまって!」
そんなことを考えていると、父から殴りつけるように頭を押さえられた。
121
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!


フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる