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しおりを挟む「スチル。今日はブルーナル公爵様のパーティーに参加する。いつものようにおまえは目立つような行動はとるな」
「本日は……ブルーナルの聖女様も参加されます。我が家も挨拶をする時間はあると思いますが、レクナを立てるようにしなさい」
父と母にゴミを見るような目を向けられた俺は、すっと頷いた。
「はい。分かっております」
……一応、他家には無能な俺をきちんと育てているという建前がある。
だから、こうして何かイベントがあれば、俺もモスクリア家の一人として参加することになる。
俺は普段身に着けている少しよれた執事服から、スーツへと着替える。
この時代の貴族男性にとっての正装らしく、俺のものは特に派手さはないが落ち着いたものとなっている。
レクナの方は俺と違って派手で目立つもの。この辺りの違いでも、俺とレクナの扱いに差があるのは明白だが、まあ長男と次男だしそこは仕方ない。
服に身を包んだ俺たちは、庭に準備されている馬車へと向かい、家族たちとともに乗り込んだ。
馬車はゆっくりと動き出し、俺たちは王城へと移動する。
馬車は所定の場所へと停まり、俺たちは屋敷へと足を踏み入れる。
今日はブルーナル公爵様の屋敷でやるんだったか。
家族たちはどこか緊張した様子だ。ま、それだけブルーナルの聖女様の参加が、嬉しいんだろうな。
パーティー会場へと着いた俺たちは、早速会場内を歩いていく。
家族たちはきょろきょろと何かを探しているようだ。たぶん、聖女様だろう。俺もきょろきょろして、美味しそうな食事を見つけていく。
……かなりあるな。どうせ余るんだし、こっそりアイテムボックスに入れて持って帰るぞ!
そんなことを考えていると、気さくげに貴族がやってきて手を挙げた。
「おお、これはこれはルーン殿」
「久しぶりじゃないか。ミクス」
ルーンは父の名前だ。相手は知らない家の人だが、もちろん貴族だ。
侯爵家ともなると顔見知り程度の相手は多くいて、すれ違うたびに挨拶をしていくんだよなぁ。
面倒だ。俺も美味しい食事にありつくために、普段よりは真面目に頭を下げていく。
……さっさと飯食いてぇなぁ。
「どうですか、ルーン殿? もうすぐレクナ殿も成人するという話ではないですか。うちのミリーシャとは……」
「すまないな。レクナも、聖女様の騎士……聖騎士になるために今も勉強で手一杯でな。まだまだ色恋に現を抜かしている場合ではないんだ」
「はは、本当にレクナ殿は真面目だな。スチル殿も、こんな兄がいて羨ましい限りじゃないか」
ミクス、という貴族男性の視線がこちらに向くと、家族たちから無言の圧力が向けられる。
「ちゃんと、兄を褒めろよ?」と。
……俺がここに呼ばれている理由は、兄をたてるため。
だったら普段からもっと優しくしてくれって話だ。
ま、それだけで美味しい食事にありつけるのなら、いくらでもゴマをすらせてもらう。
「はい。本当に兄は立派な人で……自分のような才能なしにも優しくしてくれるんですよ」
へへへ、と下っ端のように両手をゴマスリという遊び心を見せても特に誰からも反応はない。
つまらん。
「そうかそうか! 本当にできた青年だ。ますます、うちの娘とぜひとも仲良くなってほしいものだな」
俺の言葉にミクスはとても嬉しそうに笑みを浮かべ、レクナも笑顔とともに頭を下げる。
「申し訳ございません。聖騎士になるにはまだまだ私の能力不足ゆえ。今は……それに集中したいのです」「はは、本当に立派だ。モスクリア家の将来は安泰だな」
そんな軽い雑談を終えたところで、会場内を歩いていく。
……聖騎士、ね。
聖女様に任命された専属の騎士。それが聖騎士と呼ばれる。
聖女様の数だけ聖騎士と呼ばれる人はいるのだが、その数は一人の聖女様につき一人までだ。
仕事内容は聖女様の身辺警護と身の回りの世話とかだ。
俺も前世では聖女ミハエルの聖騎士をしていたもんで、仕事内容はちゃんと分かっている。
「……そろそろ聖女様が来られるはずだ。今日来られる聖女様は、まだ聖騎士を任命していない。ここでしっかりとアピールするんだぞ、レクナ」
「ええ、もちろんです。聖騎士になるために、聖女様に必ず、気に入られたいと思います」
……聖騎士に選ばれるには、聖女様に気に入られる必要がある。
これは、聖女様の任命が第一条件だからだ。それからその任命された者の能力を見ていく。
聖騎士は聖女様と、それこそ24時間お守りする立場であるため、まず第一に聖女様が気軽に接することができる相手である必要があるからだ。
聖騎士が男性の場合には、そのまま聖女様と婚約関係を結ぶものも少なくないのである。
実際俺も、ミハエルとはそれに近しい関係だったらしい。
……まあ、俺が自分の強化に夢中だったし、最後はあんなだったので、特に深い関係はない。
聖騎士に関して、能力は二の次……とまではいかないが、別に世界最強の人間が求められるわけではない。
今日、この場のパーティーに参加している人たちの会話に耳を済ませれば、その多くが聖女様と関係を持つことに注力しているようだ。
そんなことより、さっさとパーティーが始まってくれないかな。
すでにテーブルにはおいしそうな食事が並び始めている。
思わず涎が垂れてきそうになるが、そんな姿はモスクリア家の次男としては見せられないので必死にこらえる。
早く始まれ……!
早く始まれ……!
必死に心の中で願っていたときだった。
会場がざわついた。
……始まったか!? そう思った次の瞬間だった。
「……聖女様が来たぞ!」
「聖女様だ……っ!」
……なんだ、そっちか。
俺は小さく呆れながら、そちらへと視線を向けた。
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