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第38話
しおりを挟む芳子さんの夕食を堪能した後、俺たちはそれぞれ大浴場で体を休めた。
風呂上がり、部屋に戻ると、そこにはすでにふかふかの布団が並べて敷かれていた。
芳子さんが手際よく準備してくれたようで、見るからに心地よさそうだ。
並んでいる布団は全部で四つ。
俺、セラフ、ルミナス、霧崎の分だ。芳子さんとマルタさんは、それぞれの持つ家に戻るそうだ。
霧崎も実家はあるが、今日はここに泊まっていくようだ。
それにしても……全員、同じ部屋なんだな。
まあ、部屋に余裕がないから、仕方ないといえばそうなのかもしれないが……いいんだろうか。
俺が布団を見ていると、ルミナスが少し緊張した様子でちらとこちらを見てくる。
「どうしたんだ、ルミナス?」
不思議に思って声をかけると、ルミナスは少し目を逸らして答える。
「べ、別に……なんでもないわよ。ただ、ほら……みんなで同じ部屋に泊まるのって、慣れてないから……」
ルミナスがそう呟くと、セラフが意地悪そうな笑顔を浮かべながら、挑発するように声をかける。
「もしかして、何か気になることがあるんですか? ルミナスさん、もしかして……」
「な、何もないって言ってるでしょ! 変なこと言わないでよ、セラフ!」
「ふふっ、そうですか。滝川さんと一緒の部屋だから、もしかして……ドキドキしちゃってるのかと思いましたけど……違うんですね」
「……なんで滝川と一緒でドキドキするのよ。そんなことないわよ」
ふん、とばかりにルミナスが少し頬を赤くしてそっぽを向いた。
……好感度が高いときのルミナスのツンツン反応じゃないか。
セラフもルミナスの態度を観察していたのだが、思いがけないところから声が上がる。
「私はドキドキする」
「……あ、霧崎さんがですか?」
予想外、だったようでセラフが少し驚いたような声をあげる。
俺も、同意見だ。霧崎は、好感度が高くならない限り異性とか気にしないキャラ設定だからだ。
そんな霧崎へと視線を向けると、熱を帯びた視線でこちらを見てくる。
「……深夜に決闘とかに誘われたらどうしようって。準備、しておかないと」
「誘わんわボケ」
「本当に……?」
「ああ、本当だ」
「……そう」
なんでちょっと寂しそうにしているんだ。
「明日も早いし、俺はそろそろ寝るけど……気になる廊下にでも行こうか?」
「だ、大丈夫よ……っ。あたしは全然気にしないから!」
……滅茶苦茶、意識してそうなんだよな。
ルミナスって、表には出さないがかなり妄想が暴走するキャラクターだ。
ゲーム本編で似たような状況になったときは、「ああもう! 今日のあたし勝負下着じゃないし、万が一そういう状況になったらどうしよう!?」とか色々勝手に考えるようなキャラクターだ。
今もちらちらとこちらを見ては、どんどん顔を赤くしているし、妄想を暴走させている可能性は高いな。
「なあ、ルミナス……」
「な、なに!? こ、子どもの名前とかはまだいいんじゃない!?」
おい。どこまで暴走してんだ。
「何の話をしてんだ。もう電気消すけど大丈夫か?」
「え? い、いきなり真っ暗で!?」
「……戻ってこい」
……ダメだルミナスは。
話しかけるだけ暴走しそうなので、俺は彼女を放置することにした。
電気を消し、それぞれが自分の布団で横になっていき、俺も目を閉じた。
すぐにでも寝ようと思っていたのだが……目を閉じると、視覚以外の感覚が鋭敏になっていく。
そこで気づいたのは、この部屋に漂うシャンプーや石鹸の柔らかな香り……いや、それだけじゃない。もっと、違う香りが混ざっている。肌に密着した布団の温かさとともに、何か……甘く、柔らかい匂いが鼻腔をくすぐる。
――これは……セラフ? いや、ルミナス? もしくは……霧崎?
脳内が興奮で沸騰する。セラフのあの天使的な清楚な外見から発するような、花のような香りが漂ってくる気がする。ルミナスからも、どこか甘い香りが混じっている。それともこれは、霧崎のものか?
……ゲーム本編では匂いなんてものは無視していたが、今は違う。
リアルで味わえるこの感覚。彼女たちから漂ってくる微かで、だけど確実に存在するそれぞれの香り。こんなもの……ゲームをしているだけでは絶対に味わえないものだ。
鼻を鳴らし、思わず息を深く吸い込んでしまう。彼女たちの体温が混じった空気が俺の肺に染み込んでいくような感覚だ。ゲームの中では絶対に味わえない、リアルな感覚。これが……「匂い」か……!
俺は別に匂いフェチではないが……そんな俺がここまで衝撃を受けるなんて。
ゲームだけでは感じられなかった究極の香りが、いまここに集結している。最高の香りを競い合う世界大会が絶賛開催中だ。
一人、その勝敗について真剣に考えていると……すでに皆から寝息が聞こえてきていた。
……皆もう、眠ったようだ。ていうか、スマホを見ると一時間くらい香りを堪能してしまっていた。
……俺ももう寝よう。
そう思ったとき、香りが近づいてきた。
俺がそちらへ視線を向けると、暗闇になれた目がセラフの姿を捉えた。
彼女は俺の布団をじっと見てから、もぞもぞと俺の布団へと入ってくる。
「……セラフ?」
俺が小さな声で問いかけると、セラフはびくりと肩を僅かに上げる。
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