悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです

木嶋隆太

文字の大きさ
上 下
56 / 58

第55話

しおりを挟む


 ――誕生日、か。

 俺の十五歳の誕生日。
 本来なら喜ばしい日だが、今年はそうもいかない。
 家族と共に過ごす誕生日が、今は恐ろしい試練の日になるなんてな。

 ブリューナスと対決後。しばらく街に残って様子を伺っていたが、魔族がもう一度来ることはなかった。
 誕生日も近づいていたので、エクリーナの街に戻った俺はここで能力の強化と回復魔法による治療を行い、魔王との戦いに備えていた。

 治療したのは、フォーフォーやエリスという冒険者とその家族やや仲間たち。
 皆、魔王によって傷つけられたらしく、それによる経験値はかなりのものだった。
 日々の訓練もかかさずに行い、俺のレベルは50に到達している。

 魔法自体は新しいものは習得していないが、基本ステータスを強化するようにスキルを取得していった。
 これなら、ブリューナスと戦ったときよりもさらに強くなっていることだろう。

 あとは、魔王を待つだけだ。

 すべての魔王が人間に敵対しているわけではない。

 だが、憤怒の魔王ゾルドラ。こいつは違う。
 人間を嫌っているわけではないが、おもちゃとしか見ていない。
 中立的な魔王たちとは違い、ゾルドラはただ破壊と殺戮をによってうみだされる負のエネルギーを求めている。

 こいつだけは、どうしても倒す必要がある。

「無事、十五歳を迎えられたな」
「……ええ、そうですね」

 庭にて、誕生日パーティーを開いていたのだが、ゴルシュと俺の父が話をしていた。
 誕生日ということで、他にも数名仲の良い貴族は来てくれていたが、俺が知っているのはゴルシュくらいだ。
 隣には車椅子に乗ったアイフィの姿もあり、とても嬉しそうだ。

「あなたと別れてからの日々は世界の色が失われたようでしたわ」

 いや、別れてから一ヶ月くらいしか経っていないだろう。
 大袈裟な表現とともに、どこか恐怖を感じさせる笑みを浮かべる彼女に、俺は愛想笑いを返しておいた。

 一応、他にも貴族はいるので俺は挨拶程度を行っていく。
 そんな家族や知り合いたちによって祝ってもらっていた俺の誕生日。

 しかし、その平和なひとときは突然の悲鳴で打ち砕かれた。
 使用人たちがもたらした悲鳴に視線を向けると、奴がいた。

「やってるな」

 姿を見せたのは、俺の体の数倍はある巨大な男。
 魔王、ゾルドラ。
 見た目はオークに似ているが、その迫力は比べ物にならない。
 鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなくさらすそいつは、視線を周囲に向けていた。

 彼が連れてきた魔族は五名。合計六名の魔族が現れたことで、先ほどまでの落ち着いた空気は一瞬で緊張したものへと変わる。
 ゾルドラの視線がまっすぐにこちらへと向けられる。

「ルーベスト、だったか? 今日で十五の誕生日だったな」

 笑みを浮かべるゾルドラ。
 魔王の中でもっともプレイヤーの心に残った存在だろう。

「ゾルドラ様、お久しぶりです」

 父が緊張した面持ちでゾルドラに声をかける。

「お前のところの息子も、立派に育ったようだな」
「……はい」

 ゾルドラはじっと俺を見つめてきた。その視線は冷たく、全身を貫くような恐怖を感じさせた。
 生物としての違いを思い知らされるのは、やはりこの体自体がこの世界のものだからなのかもしれない。
 勇者以外は、恐らくこの恐怖に似たもので最初から勝てないと思い込まされるのだろう。
 さすが負けイベのボスなだけはある。

「ルーベスト、父親は好きか?」
「……はい」
「そうか」

 彼がそう言って、笑みを浮かべた次の瞬間。
 強烈な闇魔法が父へと向けられて放たれた。
 ゾルドラが父を傷つけ、俺に絶望を与えるための一撃。

 しかし、俺はそれを読んでいた。
 彼の放った魔法を相殺するように、ライトニングバーストを放つ。
 その瞬間、俺の魔法とゾルドラの魔法がぶつかりあい、ゾルドラの魔法が消し飛ぶ。
 そこで、終わりではない。驚いて動きを止めたゾルドラへ向け、俺はライトニングバーストを放つ。
 一撃ではない。残っていた二つの魔法を同時に打ち込み、その体を吹き飛ばす。

 それで、倒し切れるとは思っていないが、相当なダメージは与えただろう。

「き、貴様!?」

 ようやくそこで、状況に気づいた魔族が、驚いたように声を張り上げる。
 彼らの動きが遅かったのは、ゾルドラがやられるなんて頭の片隅にも考えていなかったからだろう。

 すぐに魔法を放とうとした魔族たちへ、魔法と斬撃が放たれる。
 サーシャとアイフィの一撃。それに混ざるようにして、これまでに助けてきたエルドたちの攻撃が放たれ、残っている五体の魔族に致命傷を与える。
 そのチャンスを逃すつもりはない。俺は準備の終えたライトニングバーストを、ひとまとめになっていた魔族たちへと打ち込み、仕留めた。

 そして、すべての状況が終わったところで、よろよろと起き上がったのはゾルドラだ。

「てめぇ……ッ。死ぬ覚悟はできてるんだろうな……!」

 ゾルドラは、激怒していた。
 ……憤怒の魔王として、相応しい姿だ。
 俺はこちらを見てきたゾルドラに対して、笑みを返す。

 ……そっちは俺がいきなりこんなことを仕掛けてきたと考えているのかもしれないが、こっちは一年前から準備しているんだよ。

「それは、こっちのセリフだ」
「舐めた口を利くなよ、たかが人間風情が!」

 ゾルドラが雄叫びをあげ、距離を詰めてくる。やはり魔王、それも負けイベの設定なだけはあり、その迫力は凄まじい。

 一瞬で眼前に現れたゾルドラが拳を振りぬくと、周囲にいた人々が吹き飛ばされる。
 俺は攻撃をかわしている。
 ……巻き込まれたエルドたちが負傷していたが、今はそちらに構っている暇はない。

 兵士たちがすぐに避難誘導を行い、俺との戦いに参加できないと判断したサーシャとアイフィも負傷者たちを担いで離れていく。

 事前に、話していた。
 ゾルドラ相手に敵わないと思ったら逃げてくれ、と。

 下手に残られれば足手まといになると、あえてきつい言葉を伝えていたため、彼女らが無理に残ることはしない。
 それで、十分だ。

 ゾルドラが生み出した攻撃の余波によって、周囲の被害は甚大だ。
 それらを最小限に収めるために魔法を使ってくれれば、それだけで十分。

 俺が、ゾルドラだけに専念できるんだからな。

「ぶち殺してやるよ、人間」

 ゾルドラがこちらをじっと睨んできたので、俺は冷静に笑みを返した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

裏でこっそり最強冒険者として活動していたモブ職員は助けた美少女にめっちゃ見られてます

木嶋隆太
ファンタジー
担当する冒険者たちを育てていく、ギルド職員。そんなギルド職員の俺だが冒険者の依頼にはイレギュラーや危険がつきものだ。日々様々な問題に直面する冒険者たちを、変装して裏でこっそりと助けるのが俺の日常。今日もまた、新人冒険者を襲うイレギュラーから無事彼女らを救ったが……その助けた美少女の一人にめっちゃ見られてるんですけど……?

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...