悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです

木嶋隆太

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第50話

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 ブリューナスは手を振り上げ、闇の魔法を放とうとする。
 俺はそれを察知し、素早く動くと、先ほどまで俺がいた場所を闇のレーザーが抜けていった。
 ……建物へとあたり、それが崩れていく。
 さすがに、今の俺のスキルポイントでは周りを守るような魔法までは獲得できない。

 ただ、かわすよりは迎え撃ったほうがいいだろう。
 ブリューナスの魔法に対して、俺もライトニングバーストを放つ。
 魔法同士がぶつかり合い、激しい衝撃が周囲を巻き込む。
 瓦礫が飛び散り、周囲の建物が揺れる。

「その程度かァ!」

 ブリューナスがさらに力を込めてきた。
 それが、ブリューナスの全力なのだろうか。だとしたら――話にならない。

 俺はブリューナスがやっていたように、煽るように笑みを浮かべる。
 それまで、何度も人間たちに見せていたくせに、いざそれを向けられたブリューナスは、激怒した様子で咆哮をあげる。


 俺はトリプル魔法によって展開したライトニングバーストをブリューナスの頭上から落とした。

「がは!?」

 力に対して、力で押し切るつもりは鼻からない。
 せこいって? ゲームじゃないんだよ、ここは。
 こちとら、妹を助けるために負けるわけにはいかない。

 よろよろと起き上がったブリューナスだったが、その体に何かオーラのようなもの包まれていく。
 ……魔族特有の身体強化系スキルか。
 確か、魔の鎧、というスキルだったか。
 すべてのダメージを半減し、身体能力を強化するというチートスキル。

 おまけに、ブリューナスは体力が減ると行動回数が増えるからな。

 それを象徴するかのように、動きが加速した。
 ……速い。一瞬で距離を詰められ、拳が振り下ろされる。
 鋭く伸びた爪が俺の頬を掠めていく。

 ブリューナスは怒りに満ちた表情で笑みを浮かべる。俺を押し始めたと思ったからだろう。
 近接での攻撃のぶつかりあいだが……思っていたよりも粘られるな。

 ただ、俺の近接攻撃も、ブリューナスよりは上をいく。
 地霊刃がブリューナスの体を掠め、彼は顔を顰めて後退する。距離が離れたところで、ライトニングバーストを放つと、その体が吹き飛ぶ。
 ……だが、倒れない。
 思っていたよりも自然回復量がかなりのものだし、さすが負けイベ状態のブリューナスなだけあって、頭のおかしいHPが設定されているようだ。

 現在かなり削ったとは思うんだが……切り落とした尻尾ももう再生しているし、徐々にだが呼吸も落ち着いてきている。

 ……ゲームはターン制バトルだったので、その回復のタイミングは分かりやすかったが、現実では一定時間ごとに回復しているようだな。

 かなり余裕が出てきたようで、ブリューナスの口元には笑みさえも浮かんでいる。

「貴様……なかなかの魔法を持っているようだが、それは独学で学んだのか?」

 時間稼ぎのための会話というのは分かった。
 ただまあ、こちらとしてもどれだけの回復量なのかを知っておきたかった。

「まあ、そんなところだ」
「そうか。だが、戦闘センスはないようだな」
「何がだ?」
「オレ様の傷が、すべて再生していることに気づかないようだからな……!」

 ブリューナスは満面の笑みとともにこちらへ飛びかかってきた。
 最速の動きとともに突き出された片腕の一撃を、俺は引きつけてかわす。
 その体を切り裂くように地霊刃を振り抜く。

「魔法使いのくせに、なぜここまで動ける……!」

 この世界の人間ならば、そうだろう。前衛キャラ、後衛キャラはそれぞれ得意不得意がはっきりとしている。全ての数値が優秀なのは、勇者くらいだ。

 だが、【ファイナルクエスト】は違う。【ファイナルクエスト】は、見た目魔法使いの格好をしていても、バリバリ戦えるやつもいる。見た目幼女でも等しく数十桁のダメージが出せる世界なんだからな。

 飛びかかってきたブリューナスの攻撃をかわしながら、地霊刃を振りぬき、その背中を切り裂いた。

「がああ!?」

 よろめいた瞬間に合わせ、ライトニングバーストを放ち、吹き飛ばす。
 ゲームではあり得なかった、魔法と剣による連撃。せっかくの現実なのだから、できることを色々試していかないとな
 何より、俺の実戦経験は少ない。誕生日ももうじき近い。

 次に戦う魔族が、ゾルドラの可能性も十分にあるわけで……ここで、戦闘経験を積んでおきたかった。
 だからこそ、あえての近接戦闘を行い、本気を出していなかった。

 ブリューナスは地面に倒れ込み、痛みに悶える。その顔には怒りと驚愕が入り混じっている。

「こ、こんな人間に……」
「……これで終わりだ、ブリューナス」
「ふざ……けるなぁ!」

 ブリューナスは最後の力を振り絞るかのように立ち上がり、再び攻撃を仕掛けてくる。
 しかし、俺はそれを冷静に受け流し、魔法を放った。

「や、やめてくれ……! み、見逃し――」

 静寂に包まれていた戦場に、今日一番の雷が響き渡ると、ブリューナスの背中を撃ち抜いた。
 地面へと縫い付けるように放たれた雷を浴びたブリューナスの目から生気がなくなり、どさり、と瓦礫の上へと崩れ落ちた。

 ……データは、十分に取れた。
 原作通りの負けイベだろうが打破することはできる。

 そして、ゲームと違って負けイベのあとに元のルートに強制的に戻されることもなさそうだ。

 ブリューナスの死体も他の魔族同様に霧となって消えていく。
 ゲーム本編ではそれなりに戦う回数の多いブリューナスだが、もう彼に関するイベントはなくなった。
 仮にそれで世界が多少歪んでしまったとしても、まあ女神様が責任とってくれんだろ。
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