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第42話
しおりを挟む迷宮。
最近では、魔石を集めるためとサーシャの訓練のためぐらいにしか訪れることのなかったここに、今日はアイフィも連れ、三人できていた。
俺たち三人が街中を移動する時は、全員フード付きの外套を羽織り、仮面までつけていたので誰も俺たちが貴族だとは思わなかっただろう。
まあ、怪しい人物だとは思われていたかもしれないが。
無事迷宮内に到着したところで、俺たちは変装用の衣服をアイテムボックスへとしまった。
「それじゃあ、俺はいつもの通り、近くで見てるから……今日は二人で頑張ってくれ」
「分かりました」
「……わ、分かりましたわ」
サーシャが頷き、アイフィは少し緊張した様子で頷いた。
あまり戦闘経験はないと話していたので、多少緊張しているのだろう。
それはまあ、回数をこなしていけばどうにかなるだろう。
俺はひとまず、上着を脱ぎ、自分に雷魔法を放っていく。
「な、何をしていますの!?」
「あれは、ルーベスト様の訓練になります。あれで、魔法の威力と耐久力を高めているそうですよ」
「そ、そうですのね……」
サーシャが冷静に説明をしてくれ、アイフィは困惑した様子ながらも一応納得してくれた。
アイフィは頬を赤くしながら、ちらちらとこちらを見てくる。
そんな時だった。ちょうどウィンドオークが姿を見せた。
「ぶもおおお!」
こちらに気づいたウィンドオークたちが駆け寄ってきて、さらに魔物が出現していく。
「アイフィ様。魔法を放っていただけますか」
「……分かりましたわ」
先ほどまでこちらを見ていたアイフィの表情が、きっと引き締められる。
そして、片手を向けると周囲を焼き払うような火が放たれた。
エリアフレイムの魔法か。広範囲を焼き払う【ドラゴニックファンタジー】の中級程度の魔法だ。
ダメージ的には敵集団に50程度のダメージだ。
まあ、魔法攻撃力に依存してダメージ量が上昇するものだが、今のアイフィのそれはかなりの威力だ。
ダメージ的には100くらいは言っているんじゃないだろうか?
怪我が治ってからも、彼女はリハビリとともに魔法の練習もしていたので、その分ステータスが跳ね上がっているようだ。
今の彼女の年齢でここまでの魔法が使えるのは、さすがというべきか。
威力は申し分ない。
申し分ないのだが……やはり【ドラゴニックファンタジー】基準だと、物足りない。
今の俺が、自分への魔法で2000近くダメージを与えているわけだからな。
突っ込んできたウィンドオークが、慌てて足を止める。
だが、間に合わずに直撃した一体が悲鳴を漏らしながら突っ込んでくる。
それを、サーシャはさっと両手に持った剣で切り裂いて仕留める。
火が止まったところで、ウィンドオークたちが突っ込んできたのだが、アイフィは即座に次の魔法を放つ。
「フレイムショット!」
放たれた火の矢が、ウィンドオークの体へと突き刺さる。
「ぶ、もおおお!」
ウィンドオークが悲鳴を上げながらも、突っ込んでくる。ただ、ダメージがかなり多かったようでサーシャとやり合うような余裕はなかったようだ。
あっさりとその体を両断し、サーシャが満足気に頷いた。
「アイフィ様。魔法、かなりの威力ですね……」
「……そ、そうでしょうか」
そういって、ちらとアイフィがこちらを見てくる。
ちょうど、俺がサンダーブレードを自分に叩き込んだところだった。
ばちばちと周囲に響き渡る音とその範囲を見て、彼女は頬を引き攣らせる。
「……わたくしの魔法なんて、大したことありませんわよ」
「ルーベスト様は別格ですので、気にしてはいけませんよ」
……そういうことだ。文字通り、次元が違うんだからな。
……次元が、違う、か。
そういえば、サーシャとアイフィは……俺の治療によってステータスが部分的にバグっているんだよな?
そして、少し気になったのは……スキルだ。
もしかしたら二人とも……【ファイナルクエスト】のスキルが使えるんじゃないか?
現在、アイフィが覚えているのはこの世界の火魔法だ。
もしも、【ファイナルクエスト】の魔法を習得できたら……彼女の戦闘能力は一気に跳ね上がるだろう。
……まあ、その分ちゃんと鍛えないと、MPが足りないという状況に陥る可能性もあるけど。
『女神様、それはどうなんだ?』
『さ、サァ? ど、ドウナンデショ』
カタコトである。
……こいつ、気づいていたんだな。
女神様が一番恐れていたのは、もしかしたらこのことなのかもしれない。
『……ステータス、いまどんな感じでバグってるんだ? もしかしたら対策を立てられるかもしれないし、色々教えてくれないか?』
『え!? 本当ですか!? バグっているのは、スキル関連とステータスの限界値が伸びたことですよ! まったくもう、どうしたらいいんですか!?』
『……そうか。レベルアップ時の挙動はどうなってるんだ? ステータスの上昇は? スキルポイントはどうなってるんだ?』
『そ、それが一番まずいんですよ! ステータスの伸び自体は【ドラゴニックファンタジー】基準ですね。スキルポイントももちろんもらえるんですけど、これがたぶん同じ扱いにされちゃってるんですよ! どっちも、同じスキルボードをそのままコピペしていたらしくて、【ドラゴニックファンタジー】のスキルポイントを【ファイナルクエスト】にも使えちゃうんですよ! 何か対策ありますか!?』
『知らん。頑張れ』
『ちょっとぉ!?』
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