33 / 58
第33話
しおりを挟む
とはいえ、それを口にすることはできないので、お礼の言葉を受け取っておこう。
「ああ、どういたしまして」
それにしても……アイフィもゴルシュさんもここまで感謝してくるとはな。そこまで、二人はこの状況を喜んでいるというわけだ。
そりゃあもちろん、助けたい気持ちも嘘ではない。
嘘ではないのだが……最優先は経験値だったので、俺としては少し照れ臭い。
顔を上げたアイフィは嬉しそうに声をあげる。
「わたくし……別に怪我をしたことは悲しまないようにしていましたわ」
「……そうなのか?」
「はい。お父様や、今はもう亡くなってしまいましたがお母様に心配をかけたくはありませんでしたから」
「……そうか」
アイフィはそういうキャラクターだ。
自分が無茶をして、作戦を実行するような人であり、だからこそ原作では命を落とすことになってしまった。
わりとゲームでは主人公の導き手のお姉さんとして、気に入ったキャラクターでもあったので、助けられて良かった。
「でも、一人のときに……やっぱり考えてしまいますの」
「……どんなことを?」
「……あの時の行動は、正しかったのか、と」
あの時の行動。
恐らくは足を失う原因になってしまったものだろう。
街の人たちを庇うために行ったアイフィの行動は……失敗に終わってしまった。
「お父様はいつも言っていましたわ。民を守るために領主は動かないといけない、と。……だからわたくしは、魔族によって襲われる人が少なくなるように、魔族側に提案をしましたわ。その結果が、今の状態ですわ」
アイフィはそういって、車椅子に乗る自分を見ていた。
「……本当に、これが正しかったのかって、いつも考えてしまいますの。……ああしなければ、良かった。そうすれば、自分は……もっと自由に動けていたのに、って……ついつい、自分の保身ばかりを考えてしまいますの。……領主の、娘ですのに」
彼女は、誰にも話せなかったのか……弱い部分をさらけ出していく。
……苦しそうな様子のアイフィに、俺は小さく息を吐く。
本当に、この世界はこんな子どもにまで重い運命を背負わせるよな……。
「人間……普通じゃないか? 自分のことが一番なんて、誰だってそんなもんだ」
我が身が可愛い、なんて当然だ。
誰かのために何かをするっていうのは、それだけ自分にとって都合が良いからだ。
感情的に嬉しいから、とか、何かしなければ自分にとって不利益があるから、とか。
「あなたも、そうですの?」
「もちろんだ」
俺だって、善意で人々を助けているわけじゃない。
経験値がもらえるから。
俺だって、世界平和を純粋に目指しているわけじゃない。
勇者となる妹を幸せにしてやりたいから。
皆、そんなものだろう。
「……ふふ、そうですの」
「アイフィは……周りの人を優先してることが多いんじゃないか?」
「……え? そうですの? ……そんなことはないと思いますけど」
いや、そんなことあるんだよ。
その怪我もそうだし、原作でも、そうだった。
「自分のこと、もっと考えてくれ。それで何かあれば俺に相談してくれ」
……原作でのアイフィのように、俺が何も知らないままに作戦をたてられたら困るからな。
俺と違って、この世界の人たちの能力では、一人でできることに限界があるからな。
「……相談、ですの?」
「ああ。一人でできることは、たかが知れてるだろ。だから、俺はいくらでも話を聞いてやるから。無理なときは頼ってくれ」
……そうすれば、原作のように死ぬこともないだろう。
原作でもアイフィは、勇者たちのために死ぬ覚悟を持っていた。
危険な戦いだと分かっていても、勇者の援護に徹していて、それが逆転のきっかけにはなった。だが、それと引き換えに彼女は死んだ。
「全部一人で抱え込まないでくれ。俺はお前が困っているなら助けたい」
もしかしたら、俺が協力すればどうにかなるような問題もあるかもしれない。
だからこそ、原作でも重要な立場である彼女には、相談してほしかった。
アイフィの目をまっすぐに見つめてそういうと、彼女は少し視線をそらしながら口をもにょもにょと動かす。
「……ど、どうして……そこまでわたくしを助けてくれますの」
「大切だからだ」
「…………え?」
「ああ、どういたしまして」
それにしても……アイフィもゴルシュさんもここまで感謝してくるとはな。そこまで、二人はこの状況を喜んでいるというわけだ。
そりゃあもちろん、助けたい気持ちも嘘ではない。
嘘ではないのだが……最優先は経験値だったので、俺としては少し照れ臭い。
顔を上げたアイフィは嬉しそうに声をあげる。
「わたくし……別に怪我をしたことは悲しまないようにしていましたわ」
「……そうなのか?」
「はい。お父様や、今はもう亡くなってしまいましたがお母様に心配をかけたくはありませんでしたから」
「……そうか」
アイフィはそういうキャラクターだ。
自分が無茶をして、作戦を実行するような人であり、だからこそ原作では命を落とすことになってしまった。
わりとゲームでは主人公の導き手のお姉さんとして、気に入ったキャラクターでもあったので、助けられて良かった。
「でも、一人のときに……やっぱり考えてしまいますの」
「……どんなことを?」
「……あの時の行動は、正しかったのか、と」
あの時の行動。
恐らくは足を失う原因になってしまったものだろう。
街の人たちを庇うために行ったアイフィの行動は……失敗に終わってしまった。
「お父様はいつも言っていましたわ。民を守るために領主は動かないといけない、と。……だからわたくしは、魔族によって襲われる人が少なくなるように、魔族側に提案をしましたわ。その結果が、今の状態ですわ」
アイフィはそういって、車椅子に乗る自分を見ていた。
「……本当に、これが正しかったのかって、いつも考えてしまいますの。……ああしなければ、良かった。そうすれば、自分は……もっと自由に動けていたのに、って……ついつい、自分の保身ばかりを考えてしまいますの。……領主の、娘ですのに」
彼女は、誰にも話せなかったのか……弱い部分をさらけ出していく。
……苦しそうな様子のアイフィに、俺は小さく息を吐く。
本当に、この世界はこんな子どもにまで重い運命を背負わせるよな……。
「人間……普通じゃないか? 自分のことが一番なんて、誰だってそんなもんだ」
我が身が可愛い、なんて当然だ。
誰かのために何かをするっていうのは、それだけ自分にとって都合が良いからだ。
感情的に嬉しいから、とか、何かしなければ自分にとって不利益があるから、とか。
「あなたも、そうですの?」
「もちろんだ」
俺だって、善意で人々を助けているわけじゃない。
経験値がもらえるから。
俺だって、世界平和を純粋に目指しているわけじゃない。
勇者となる妹を幸せにしてやりたいから。
皆、そんなものだろう。
「……ふふ、そうですの」
「アイフィは……周りの人を優先してることが多いんじゃないか?」
「……え? そうですの? ……そんなことはないと思いますけど」
いや、そんなことあるんだよ。
その怪我もそうだし、原作でも、そうだった。
「自分のこと、もっと考えてくれ。それで何かあれば俺に相談してくれ」
……原作でのアイフィのように、俺が何も知らないままに作戦をたてられたら困るからな。
俺と違って、この世界の人たちの能力では、一人でできることに限界があるからな。
「……相談、ですの?」
「ああ。一人でできることは、たかが知れてるだろ。だから、俺はいくらでも話を聞いてやるから。無理なときは頼ってくれ」
……そうすれば、原作のように死ぬこともないだろう。
原作でもアイフィは、勇者たちのために死ぬ覚悟を持っていた。
危険な戦いだと分かっていても、勇者の援護に徹していて、それが逆転のきっかけにはなった。だが、それと引き換えに彼女は死んだ。
「全部一人で抱え込まないでくれ。俺はお前が困っているなら助けたい」
もしかしたら、俺が協力すればどうにかなるような問題もあるかもしれない。
だからこそ、原作でも重要な立場である彼女には、相談してほしかった。
アイフィの目をまっすぐに見つめてそういうと、彼女は少し視線をそらしながら口をもにょもにょと動かす。
「……ど、どうして……そこまでわたくしを助けてくれますの」
「大切だからだ」
「…………え?」
183
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
破滅不可避の悪役獣使いに転生したが肉塊になりたくないので聖獣娘、魔獣娘に媚びを売る〜嫌われないようにしていたらなぜか長たちになつかれている〜
マグローK
ファンタジー
【シックザール・モンスター】というゲームの悪役、ルカラ・デグリアスに転生した俺。
ルカラは作中、主人公の才能に嫉妬し、最強の聖獣や魔獣の長を強制的に使役できるほどの強力な力を悪用し、主人公一行の邪魔をする。
だが、最終的には聖獣、魔獣からの抵抗、主人公とその相棒の絆の力を前に敗北し、使役が解除される。
結果、再度使役するほどの体力のないルカラは聖獣、魔獣と立場が逆転し、これまで自分がやっていたようにこき使われることになる。
そして、最終的には肉塊として見つかる運命をたどる。
こうなったら、俺のヘイトが溜まる前に聖獣、魔獣たちに出会ったらむしろ、媚びを売ろう。
そうしてこき使うのはやめてせめて殺されないようにしよう。
主人公と出会ったとしても極力関わらないようにしよう。
そう思い、善良に生きることを決意したのだが、聖獣の子を手当てしただけなのになぜか聖獣の長が俺の前に!?
気づけば女主人公までも現れて!? え、俺の弟子になりたい!?
俺は殺されない平穏な生活がしたいだけなのに……。
わざわざ危険そうなフラグを持ち込まないでくれ!!
この小説は他サイトでも投稿しています。
裏でこっそり最強冒険者として活動していたモブ職員は助けた美少女にめっちゃ見られてます
木嶋隆太
ファンタジー
担当する冒険者たちを育てていく、ギルド職員。そんなギルド職員の俺だが冒険者の依頼にはイレギュラーや危険がつきものだ。日々様々な問題に直面する冒険者たちを、変装して裏でこっそりと助けるのが俺の日常。今日もまた、新人冒険者を襲うイレギュラーから無事彼女らを救ったが……その助けた美少女の一人にめっちゃ見られてるんですけど……?
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる