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第28話
しおりを挟む無事、説得も終わり、俺の旅は皆に応援される形となった。
予定通り、月日は流れ、一ヶ月が経過した。
この一ヶ月で俺がしていたことは、いつも通りの自分への訓練と怪我人の治療だ。
魔王によって大きな怪我を負っていた人たちを、サーシャに話したように条件付きで治療していった。
そうして治療していったおかげで、この街の父の知り合いで大怪我していた人たちは、だいたい治療ができた。
レベルも30まで上げられたので、効率はめちゃくちゃ良い。
……ていうか、皆にすごい感謝をされ、俺としては少し申し訳ないような気持ちもあった。
そんな、感謝されまくるようなつもりで治療はしていないからな……。
あくまで、経験値が欲しくてやっているわけで……ま、まあやらない善よりやる偽善とも言うしな。
受け手側が俺の治療をどう捉えようとも、それはそちらの勝手だ。
父の知り合いにも連絡がつき、俺はとなり街で活動することも決まった。
とりあえず、次に向かう街はボルドライトという場所だ。
俺と同い年の娘を持つ人が領主として街を管理しているらしく、父さんも仲が良いそうだ。
俺も小さい頃に会っているそうだが、あまりはっきりとは覚えていない。
その娘さんも魔王によって怪我をしているらしいので、ひとまずはその人を治すというのが第一目標だ。
「荷物、忘れ物はない?」
「大丈夫だって。俺アイテムボックスも使えるんだし」
母からそう問われ、俺は苦笑を返した。
昨日からもうずっとこんな感じだ。やっぱり、母は俺を旅には出したくないようだ。
……まあ、十五歳の誕生日の時、確実に魔王から何かしらの干渉があるんだ。
それまで、一日でも長く今の平和な生活を経験しておきたいのかもしれない。
俺はもちろん、十五歳のその日で今の平穏を終わらせるつもりはない。
魔王がどのような行動を取ったとしても、それを圧倒できるだけの力をつけ、蹂躙するつもりだ。
俺の準備は終わり、サーシャの準備も終わった。
彼女は、俺が伝えた通り変装してくれている。
それまでボブくらいだった髪は、今はセミロングまで伸びている。少し髪も編み込みがあるし、化粧なども施されている。
化粧も最低限しているようで、それまでとはまるで違う印象だ。
おお、すごい。やはり、かなり印象が変わったので、今のサーシャを見てあの隻腕隻眼のサーシャと思う人は誰もいないだろう。
「ルーベスト様? どうしましたか?」
「いや、やっぱりめっちゃ綺麗だと思ってな」
「そ、そうですか? 褒めてもらえるように、頑張りましたよ! えへへ」
恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに胸を張る。
……見た目は随分と変わったが、中身はやはり子犬のようなものから変わっていないな。
名前も、変えようかという話はあったが、そこはやめた。
別にそこまでしなくとも、サーシャのことを知らない人はそもそも同一人物とは気づかないだろうからだ。
気づいたとしても、サーシャのことを知っている人はそれほどはいない。
……悲しい話だが、優秀な冒険者が魔王に呼び出されてその人生を棒に振る、なんてのはこの世界ではよくある話の一つだからな。
屋敷で用意した馬に、サーシャが乗ってからその後ろに乗る。
サーシャが手綱を握り、俺はサーシャにぎゅっと掴まる。
なぜなら、俺は馬に乗れないからだ。
一応、乗馬スキルもあるが、そんなものにスキルポイントを割く余裕はない。
振り返り、俺は家族たちへ視線を向けた。皆が見送るようにこちらを見ていたので、俺はすっと頭を下げた。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「にいに、お土産! お土産、大事にね……っ」
「ルーベスト。……無理はしないようにな」
俺の旅の理由を知っている父だけが、真剣な眼差しとともにそう言ってきた。
……家族、か。
俺にとっては、あまり馴染みのないものだった。
両親からしたら俺は大事な息子、なんだもんな。
……彼らの子どもとして、正しく振る舞えているだろうか?
少しだけ、心配だったけど……でも、フォータス家の息子として俺はこれから魔王を倒すための力をつけて、そしてここへもどってくる。
もちろん、リアナへのお土産も忘れずにな。
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