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第24話

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「心意気は認めるが……魔王たちを殺すことはできない。勇者様の力がなければ、魔王に傷一つつけることはできないんだ」
「それは――」

 少し違う……とはさすがに言えなかった。
 俺がなぜそれを知っているのかという話になるからな。
 
 魔王たちは、勇者の力で弱体化させない限り、倒せない……とされている。

 ただ、実際のところ、倒せないことはないのだ。

 負けイベントをなんとかしてクリアしたい、という人の解説動画を見たことがある。

 弱体化前の魔王たちはHPが高く設定されていて、毎ターン一定のHPが自動回復するように設定されていた。
 ただ、ダメージが無効化される、という設定はない。

 つまり、100ダメージを与えても、毎ターン1000回復しているから、無傷に見えるだけでダメージ自体は通っているというわけだ。

 覚醒した勇者なら、このオートリジェネ状態と最大HPを押さえ込むことができる。
 だが、それ以外でも、その回復を越えるダメージを与え続ければ、倒せないことはない、とその解説動画では話していた。

 正規プレイではまず不可能なのだが、データを改造し、キャラクターたちを強化することでどうにかオートリジェネを上回るダメージを与えた場合は、無事討伐できていた。

 討伐後のイベントは特に変わっていなかったのだが、それでも倒せないことはないのだ。
 ……データが改竄されたキャラクター。
 まさに、今の俺だ。

「……お前も、思うところはあるだろう。だが、魔王にはどれだけ攻撃をしても、意味がないんだ。……勇者の登場を、待つしかないんだ。もしも、お前の代に現れればお前も力をかせばいい。ダメなら……その子どもにこのことを引き継ぐんだ」

 父もサーシャも、魔王の力を見たことがあるのだろう。
 怒りではどうしようもないのか、表情はとても険しく、怯えさえも混ざっているように見える。
 ……まあ、弱体化前の魔王たちは、どいつも最大HPを大きく上回るような攻撃を仕掛けてくるもんな。

 このゲームの最大HP1000を越える攻撃を連続でしてくるのだから、人間たちにとっては恐怖の対象でしかないだろう。

 彼らの理解の外にある強大な敵だからこそ、勇者という同じく理解の外にある存在を待つしかないと彼らは話しているのだ。

 ……ならば、俺もその理解の外にいることを証明できれば、どうだろうか。
 俺はちらと視線をサーシャへと向ける。

「勇者を待っている間にも、多くの人たちが悲しみを背負うことになります。そんなこと……俺は嫌です」

 本音は、勇者である妹を助けるためなんだけど、それっぽいことを言っておいた。
 この世界に来てから、俺の演技力はかなり向上したかもしれない。

 そして俺は、サーシャへ片手を向け――回復魔法を発動する。

 【ファイナルクエスト】での回復魔法。
 それはまさしく、父やサーシャの理解の外にある圧倒的力だ。

 どれだけひどい状態からでも、傷を治す。腕とか吹っ飛ばされたあとでも、回復できるだけの強い力を持っている。
 そんなラクな世界観だからこそ、俺は【ファイナルクエスト】の世界に転生したかったんだよな。

 ……だからまあ、俺はその力で持って、彼らに俺の存在自体が理解の外にあることを伝える。

「……何をしているんだ?」
「サーシャを治療します」
「……何を、言っているんだ?」

 どちらの世界の理が優先されるのか。
 俺の回復魔法、が優先されるのか。
 この世界の存在であるサーシャが優先されるのか。

 どちらになるかはわからない。
 ただ、サーシャの体がこの状態であるというのが正しいというのなら――俺はそれを捻じ曲げるだけだ。

 サーシャの傷一つ治せないくらいじゃ、勇者の代行として物語をクリアすることはできないだろう。

 彼女の体が、回復し始めたのがMPの消費からわかる。
 同時に、それを止めるように俺の体へと反発するような見えない力がぶつかる。
 ……異常な衝撃。黒い霧のようなものがこちらへ吹き抜け、俺の全身を弾き飛ばそうとする。

 本来あり得ない、この世界ではあり得てはいけない現象。
 それを行おうとしている俺を排除しようとしているのかもしれないが、それを俺は――ねじ伏せる。
 どれだけ邪魔しようとも、俺にはなすべきことがある。

 妹が転生する前に、このゲームをクリアするために――。
 そんな無茶を押し通すための第一歩を、俺は踏み抜いていく。

「……これ、は――」

 サーシャが驚いたように声をもらした時、俺はさらにMPを込める。
 強い光がその場に生まれ、周囲に吹き荒れていた嫌な空気が吹き飛ぶ。

 それと同時だった。
 ――俺のレベルがあがったのがわかった。
 そして、驚いた様子で右腕を動かしているサーシャの姿があった。

「……う、そ……」
「……そんな、まさか」

 サーシャの自由に動いている右腕をみて、俺は息を吐いた。
 ……どうなるかは不安だったが、俺の勝ちのようだ。

 こうなることを期待はしていたが、本当にできるかは不安もあった。
 だが、俺には確信めいたものがあった。

 なぜなら、ここは女神様が管理する世界なんだからな。

 『……ちょっと?』、という声が聞こえたような気がしたが、別に今回は貶しているわけではない。
 むしろ、褒めたのだから怒らないでほしいものだ。

 女神様のおかげで、この世界にも絶望ばかりではなく、希望のチャンスがあるんだからな。

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