上 下
5 / 58

第5話

しおりを挟む




『……これ、周りには見えないのか?』

 映し出されたホログラムによる映像は、明らかにこの世界からは異質である。そんなものを周囲に見られたとなると、俺の立場も危うくなりそうだ。

『それは大丈夫ですが……な、なんの用でしょうか?』
『【ファイナルクエスト】の世界に今から転生することはできないのか?』

 何度も言っているが、この世界のストーリーは理不尽だ。

 一般モブだったら適当なこと言ってストーリーから離れてしまえばいいが、ルーベスト・フォータスでは多少なりとも関わることになるだろう。
 俺は別に勇者たちに狙われるような行動をとるつもりはないが、下手に巻き込まれて、命を危険に晒すようなことはしたくない。

『た、たぶん……無理だと思いますが……か、確認してみますね』

 女神様がパソコンの操作を始める。キーボードのカタカタという音が響いていく。
 だが、女神様の様子は明らかにおかしい。彼女の指は震え、その表情が次第に青ざめていく。ダラダラと冷や汗を流した彼女は、それから両手で頭を抱えて跳ねるように体を揺らして叫ぶ。

『……あああああああ! 間違っちゃってますぅぅぅ!』
『……なんだよ今度は!』
『能力値の部分だけ間違っちゃってましたぁぁぁ! いや、あってますぅぅぅ!』
『……どういうことだ? 分かるように説明してくれ』

 能力値って、なんだよ?
 俺が首を傾げていると、女神様はぐすぐすと涙をこぼしながら、説明を始める。

『お兄さんの……能力値だけ、【ファイナルクエスト】の世界のものになっちゃってるんです……! ど、どどどどどうしましょう!?』
『えーとつまり……俺だけ【ファイナルクエスト】のスキルとか魔法が使えるってことか?』
『そうなります……! ど、どうしましょう!?』

 それは、わりとエグいことになってるな。【ファイナルクエスト】と【ドラゴニックファンタジー】では、魔法とかの威力がまるで違う。【ファイナルクエスト】の下級魔法のダメージが、100とすると、【ドラゴニックファンタジー】は10くらいだ。つまりまあ、【ファイナルクエスト】のキャラがこの世界にいたら、たぶんそこらのモブでも無双状態になるというわけだ。

『……今から修正もできないのか?』
『で、ででででできませんよぉぉぉぉ! あああああ! また始末書書かないとぉぉぉ……』

 女神様は頭を抱え、絶望的な声を上げながら再び体を跳ねさせている。
 なんか色々と大変そうだな。というか、俺はどうすればいいんだろうか? もうここまで色々ミスってるなら死に直して、キャラデータ作り直したほうがいいんじゃないか、もう。

 一人だけバグキャラがいるような状況なんだろ? そんなのすぐに修正パッチをあてたほうがいいレベルだ。

『俺、もう一回死んだ方が早くないか?』
『そ、そうなんですけどぉ……妹さんの転生先の問題もありまして……』
『はあ、どういうことだ?』
『妹さん……お兄ちゃんと同じ世界で、お兄ちゃんと血のつながりがない状態で絶対お兄ちゃんを感知できるようにして、お兄ちゃんをいつでもどこでも会いに行けるように……と言っていまして……もう転生できるように設定済みで……そちらも修正不可能状態なんですよね』
『……転生って、つまりこの世界に、ってことか?』
『は、はい』

 ……ま、マジかよ。この世界に妹だけを残していくなんてことは、できない。ていうか、妹の転生希望条件がちょっと怖いんだけど。

『……妹はどんな立場で転生したんだ? 変な立場じゃないよな?』
『ふっふっふっ! そこはご心配なく! お兄さん言っていましたよね? 妹にはいい立場で転生できるように、って』
『ああ』
『だから、お兄さんはゲームでも出番のある貴族に転生させてあげて、妹さんは絶対に死なない……安全最強の主人公として生まれ変わるようにしたんです! ……どうですか!? 今回の私凄い気がきいてますよね!? 褒めて、褒めてください!』

 凄い……最低だ!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...