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第30話
しおりを挟む村へと戻り、私たちは村の人たちを集めて回った。
迷宮が攻略されたことを、大々的に発表するためみたい。
冒険者一同が集まり、私もそれに村人側として参加する。迷宮攻略こそ手伝ったけど、私別に依頼を受けた冒険者じゃないからね。
代表者は、カイルくんだ。カイルくんが冒険者たちをまとめるように前にたち、それから村長や村人たちに向けて、宣言した。
「皆さんの援助もあり、無事迷宮攻略を完了できましたっ! ありがとうございます!」
カイルくんは出来る限りの笑顔を浮かべながら、そう叫んでいた。あんまりこういうのは得意ではないようで、頬が少し引きつっている。
目があったので、私は自分の頬を引っ張るようにしてカイルくんを遠巻きに指摘する。
カイルくんはむっと少し頬を膨らませて、それから自然に笑った。
迷宮攻略が終わったってことは、もうみんなともお別れだよね。
あとは迷宮が消滅するまで村に残るだけなんだよね。
そうなったら、みんなも村を離れるってことかぁ。
寂しくなっちゃうね。
「迷宮攻略されたんだぁ……」
「良かったぁ……これで魔物の被害におびえなくていいんだね」
「……うん、よかったねぇ」
村人たちはみんな笑顔を浮かべている。中には涙を浮かべる人もいる。
……魔物への抵抗手段を持たない人にとって、魔物の存在は恐怖以外の何物でもないってことだよね。
……冒険者、その迷宮攻略はこうしてたくさんの人を笑顔にする仕事なんだなぁ、とぼんやりと思っていた。
話が終わったところで、私はカイルくんのほうに近づいた。
「……俺の頬、そんなに引きつっていましたか?」
「まあ、うん。かなりね」
「家まで送りますよ」
「へーきへーき、この村で襲われることなんてないよ?」
「……一応、その。心配なので」
不思議だなぁ。私があれだけ戦えるのを見せても、心配してくれるんだから。でも、その気遣いに、なんだか心が温かくなる。
しばらく私たちは夜道を歩いていく。
「これが迷宮攻略なんだね」
「ええ、そうですね。攻略された場面に立ち合わせたのは初めてですか?」
「うん、みんなを笑顔にできる良い仕事だね」
私がそういうと、彼は嬉しそうに口元を緩めた。
「そう、ですね。危険もありますが、とてもやりがいは感じられます」
「いつもカイルくんは、迷宮攻略をしているの?」
「……はい」
カイルくんはぽつりとつぶやくように言ってから、顔をあげた。
「オレの村は昔、迷宮によって破壊されたんです」
「……そうなんだ」
カイルくんは決意に満ちた顔をしていた。
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