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第27話

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「前よりも、体力残ってるな」
「……そうですね。魔力も体への負荷もかなり少なかったと思います」

 アイフィも自分の変化に気づいていたようだ。

「アイフィは、今が成長期だ。魔力も肉体も、日々の訓練でどんどん強化されている。……それに、魔力を取り込むのもかなり上手くなっていて、最小限の動きで多くの魔力を取り込めるようになってるんだ」
「……はい。前よりも長く戦えていて、驚きました。前までは魔法を発動するための魔力を用意するのが間に合っていませんでしたが、今はまったく問題ありませんでした」
「そういうわけだ。毎日鍛錬をしていても、体を休める時間がないと体は成長しない。だから、これからも毎日ひたすらにトレーニングをするんじゃなくて、適切に休養をとること。分かったな」

 俺の言葉に、アイフィは噛み締めるように頷いた。

「……分かりました」
「それと……アイフィは、そのモードチェンジだけで迷宮攻略ができるようにするのが今後の目標だ。基本的に小技は使わなくていいからな」
「……え? ですが、連続での戦闘になるとさすがに魔力が持たない可能性もありますよ?」
「甘ったれたことをいうんじゃない。まだ別に、ここが限界じゃないだろ? せっかくここまでやれる魔法を伸ばさず、小手先の技術を学んでも意味はないんだ」

 ……それが、俺の出した結論だ。
 アイフィがSランク冒険者になるには、今の固有魔法を常に維持して戦い続けられるくらいの力が必要だ。

「個性を伸ばしきらないと、Sランク冒険者なんて無理だ。だけど、アイフィのその固有魔法がさらに強化できるとなれば、他の技術も色々と取り組んではいく。その一つが、魔力の吸収だ」

 これに関しては迷宮への適応もそうだが、最大の理由はアイフィの今の戦闘スタイルと相性がいいからだ。
 連戦になったとしても、固有魔法を維持するために必要なことだから、時間をかけて取り組んでいった。

 細かい技術が色々とあるのは確かだ。
 俺だって調べたし、真っ先にアイフィの能力を強化するのには役立つとも思った。

 だが、まだその小手先の技術を磨くのは今ではない。
 アイフィと毎日接していて分かるが、彼女の魔力はまだまだ伸びている。体だって成長している。

 ……小手先の技術で上がれるのは精々ランクとしてみれば一つあるかないかだろう。
 本当に今の彼女の限界に到達してしまったところで、ようやく考える切り札だ。

「お前は、このまま固有魔法を強化していけば、必ず……Sランク冒険者になれる。だから、さらにこの個性を伸ばしていくぞ」

 ……言い切った。
 俺だって、その選択が正しいかはわからない。
 だが、決めた以上はアイフィを信じさせ、訓練に対しての迷いを消す。
 中途半端なまま取り組ませないために。

「分かりました……! これからもよろしくお願いします!」

 アイフィが大きく頭を下げてきた。
 ……俺の指導を信じてついてきてくれているのだから、俺も自分に自信をもたないとな。
 色々と考えていることを、少なくともアイフィには見せない。

 彼女には、自信に溢れている俺を見せ続ける。
 彼女がブレてしまわないように。

「よし。このままGランク迷宮での実戦訓練に向かうぞ。体は大丈夫か?」
「もちろんです。行きましょう」

 アイフィはやる気に溢れた笑顔とともに頷いた。



 俺たちは、Gランク迷宮の一階層へと移動してきた。
 ここまでの移動で十分体力は回復しているようで、アイフィに疲れている様子はない。

「それじゃあ、今日はGランク迷宮で戦闘を行っていくぞ」
「はい。今なら、どんな相手にも負ける気がしませんよ」
「……だからって、油断はするなよ」
「もちろんですよ。私に何かあったら、ショウさんの名前まで傷つけてしまいますからね」

 笑顔のアイフィに頷いてから、俺は一階層へと視線を向ける。
 これまで、俺たちは一階層の入り口にしかいなかったので、魔物と遭遇することはなかった。
 だから、迷宮内での魔物との戦闘は初めてになる。

「五月末に挑戦する予定のホロースト迷宮に出現する魔物は知っているか?」
「はい。調べましたよ。ゴブリンですよね」
「そうだ。この迷宮と出現する魔物はまったく同じだ。つまりまあ、ここが突破できれば、イレギュラーに遭遇しなければ、問題なく攻略できるってことだ」

 イレギュラー……いわゆる突然変異したユニークモンスターが、稀に迷宮内に現れることがある。
 ユニークモンスターは通常の個体よりもかなり強く、下手をすればその迷宮のボスモンスターよりも強いこともある。
 だから、遭遇したら即撤退するのが正しい。
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