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第34話
しおりを挟む王城に向かって歩いていると、エリックがこちらへと問いかけてきた。
「短い間だったが、旅はどうだった?」
「楽しかったです。これまで私は大聖女としての訓練しか受けてきていなかったので、何もかもが新鮮でしたね」
「……そうか」
エリックは短い返事とともに、それから王城を見上げた。
……彼にとっても久しぶりの場所なのではないだろうか?
門にいた二名の騎士は驚いたように私に気付いた。
それから、一人の騎士が王城へと向かって走っていく。
もう一人は、私のほうへとやってきて、頭を下げた。
「お、お久しぶりです大聖女様」
「私を捜索しているそうですね」
「はい……そうです。ご無事で何よりです」
騎士の言葉に、私は小さく息を吐いた。
そこで私は一度エリックを見て、金貨を取り出した。
「……ここまでありがとうございました」
予定だった追加の報酬を渡そうとすると、彼は首を振った。
「報酬は……いただけない。俺の本来の護衛は、おまえを大精霊がいる森まで連れていくことだからな」
「……受け取ってください」
「受け取れない。まあ、報酬に関しては気にするな。大聖女様を送り届けたってことで、国のほうから頂戴させてもらうよ」
そういってエリックは騎士をちらと見る。
「え、エリック……久しぶりだな。生きていたんだな」
「まあ、そうだな。そういうわけで、たんまりと報酬はもらえるだろ?」
「……それは少し聞いてみないと分からないな」
「もらうまで、俺は王城に待機させてもらうからな」
そういってエリックはこれまで見たことのないがめつい態度を向ける。
そこでエリックとは別れ、私は王城へと向かって歩きだす。
まもなく王城の方から騎士数名とともに、王子、そして大聖女様がこちらへ向かってやってきた。
「久しぶりだな、アーニャ」
「はい、お久しぶりですね王子」
私が軽く一礼して微笑むと、王子は驚いた様子でこちらを見て来た。
それは彼だけではなく、騎士たちもだった。みんなが私に見とれた様子で、こちらを見ている。
「どうされましたか?」
「い、いや……なんでもない。詳しい話は王座の間で行う。ついてこい」
「はい」
相変わらずの態度だなぁ、と思いながらちらとエリックの方を見る。
彼は交渉に成功したのか、騎士とともに近くの建物へと向かって歩いていっていた。
……エリックがまた騎士に戻ってきて、そして私の専属の騎士になれたら――。
そんなことを少しばかり考えていたけど、それはエリックの意思を無視することになってしまう。
僅かに沸き上がった気持ちは押さえつけ、私は王子とともに王座の間へと向かった。
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