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第31話

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 骸の剣士と打ち合っていたブレンドだったが、その剣が弾き飛ばされた。
 次の瞬間、骸の剣士から伸びた剣がブレンドの腹を突き刺した。
 そちらで戦っていた他の騎士たちも弾き飛ばされる。

 私は治療をするためにすぐにブレンドの元へと向かおうとしたが、それより先にエリックが動いていた。
 その目が今まで以上に鋭くとがり、激昂するような顔とともに私の横を過ぎる。

 一瞬で骸の剣士へと距離をつめたエリックの一撃を、骸の剣士はあっさりと止める。
 エリックのあの攻撃を止めるなんて――。

 それから、エリックと骸の剣士が剣を振りぬいていく。
 速い。それに激しすぎる攻防だった。

 その隙にブレンドを担いでいたケンリが私のほうへとやってきた。

「アーニャさん! お願いします、治療してください!」
「はい、分かっています」

 すぐに私はブレンドの体に回復魔法を使用する。

「ぶ、ブレンド隊長大丈夫ですか!?」

 ……傷は一瞬でふさいだけど、ダメージが大きかったからか意識を失ってしまっているようだ。

「はい……そうですね。気を失ってしまっていますが、それ以外は問題ないと思います」
「……よ、良かったです」

 ブレンドの治療は終わったけど……。
 私はエリックへと視線を向ける。

 骸の剣士と打ち合っているが……五分五分といった様子だった。

「ハァ!」

 エリックが吠えて剣を振り下ろし、それを骸の剣士が捌く。
 骸の剣士の渾身の一撃を、エリックも華麗にいなす。
 お互いに、相手を捉えきれていない様子だった。

「……だれか、援護はできないのですか」

 周囲にいた騎士たちは皆、その戦いをじっと見ていることしかできていなかった。
 その理由はわかっていても、そういわずにはいられなかった。

「……む、無理ですよ。エリックさんとあのスケルトン……どっちも次元が違いすぎます。僕たちが入っても、足手まといにしか……ならないんです」

 たぶん、そうだと思う。
 下手に手を出せば、骸の剣士の餌食になるだろう。それを、エリックが庇って怪我をする可能性もある。
 それが致命傷になる可能性だって――。

 そう考えれば、動けないんだ。
 ……でも、それはあくまで今の騎士だから対応できないんだろう。

「……ケンリ。体の限界いっぱいまでの支援魔法を施したら、骸の剣士に一瞬だけでも攻撃はできますか?」
「え? ど、どのくらいでしょうか?」
「少し、待ってくださいね」

 私はケンリの肩に手を乗せ、それから支援魔法を発動する。
 次の瞬間、ケンリは目を見開く。

「す、凄い……力があふれだしてくる。で、でもこれじゃあまだ……」
「この限界を超えます。肉体に大きな負荷がかかると思いますが、行けますか?」
「……行きます! エリックさんに助けられたんですから、今度は僕が助けます!」
「……ありがとうございます」

 ケンリの体に支援魔法を施した瞬間、ケンリが顔を歪めた。
 かなりの痛みに体が襲われていることだろう。だが、彼は弱音一つこぼさず、すぐに動いた。

 矢のように走り出したケンリが、一瞬で骸の剣士へと迫り、剣を振りぬいた。
 骸の剣士は驚いた様子でその剣に一撃をあて、ケンリは吹き飛ばされる。
 だが、一瞬。 

 隙を作ってくれた。

 その一瞬をエリックは見逃さない。

「ハァ!!」

 エリックの剣が骸の剣士へと振り下ろされる。
 一撃ではない。よろめいた骸の剣士へ、返す刃で殴りつけていく。
 エリックの連撃を受けた骸の剣士は――やがて、砕けちって消えた。

 その瞬間、騎士たちの雄たけびが広がった。

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