27 / 37
第26.5話
しおりを挟む「はっ? アーニャが? あんな無能で体を触らせてもくれなかった女が何をしていたって?」
……ケイナン様。さすがにその基準はちょっと。
『おまえの基準はそこか? ……大聖女として潔癖を守るのは貴重なことだ。魔力というのは行為で穢れていく。だから、出来る限りそういった穢れを防ぐのが大事になる。そこのニャルネはすでに穢れてしまっているからな』
「穢れとかなんだかよく分からないが。大聖女というのはただ祈るだけの仕事だろう? そんなもの、ぶっちゃければ誰でもいいだろう?」
『誰でも良いはずがない。……数百年前に大精霊と今の契約を結んだ当時の歴史の本でも探しだしてみろ。大聖女が一体どんなことをしているのか。自分で少しは考えろ馬鹿者が』
「……ふん、そんなものはすべてうっぱらった」
『……なんだと?』
「売ったといったんだ。あれは倉庫を圧迫するだけでまったく意味がないからな。おまけに、他国の連中はあれを高額で買い取りたいと言ったからな。オレが有効活用させてもらったというわけだ」
『……すべてか?』
「ああ、すべてだ」
大精霊はそれを聞いてため息をついた。
『馬鹿が』
「貴様ァ! 王子に向かってなんという口の利き方だ!」
『もしかしたら結界が書かれた魔法書は残しているかもしれないが……あの中には王都を守る魔法書もあったはずだ。それさえも失ったのなら――言っておくが、そう遠くない未来にこの国は亡びるぞ?』
「そんな子どものような脅しに屈するとでも思っているのか?」
『……脅しでもなんでもない。すでに、魔法書を失ったのなら今さらどれほど祈ろうとも関係はないな。アーニャの出がらしみたいなそこの女では、どれだけ祈っても焼け石に水だしな。それじゃあ、一度オレは失礼させてもらう。あとは精々、自由に生きるといい』
大精霊はそれから消滅し、私の体を襲っていた痛みが消えた。
ケイナンは勝ち誇ったように口角をつりあげていた。
「どうやら、オレに怯えて逃げたようだな」
そうみたいね。さすがに王子相手にいじめたらタダではすまないと分かっていたようね。
大精霊ってのは、最悪ね。変な嘘をついて弱いものいじめをしているんだから。
それにしても、大精霊の言葉は腹がたつ。誰がアーニャの出がらしよ! むしろ逆よ!
私がそう思った時だった。
ひときわ大きな地震が起きた。
「な、なんだ!?」
……じ、地震なんてこれまでほとんど体験してこなかった。
その異常すぎる衝撃が治まるまでの間、私たちはただじっと地面に手を伏せて祈るしかなかった。
やがて、地震が治まった時だった。聖女の間が崩れ落ちた。
「……」
「せ、聖女の間が壊れるなんて……不吉な」
一人の騎士がぽつりと呟くようにいった。
それから、ケイナンはじっとそちらを見ていた。
「まあ、さっきのはどうでもいいだろう。たまたまだ、たまたま。気にするな」
「そうですね」
ケイナンがそういって私の肩をそっと撫でてきた。私もぎゅっとケイナンに抱き着く。
「それよりも、アーニャを見つけ出すぞ」
「アーニャ、ですか?」
「アーニャはまだ国内のどこかにいるはずだ。……ニャルネ、おまえをこれほど傷つけたんだ。同じ目に合わせるのが筋というものじゃないか?」
「ふふ、そうですね、ケイナン」
私たちは一度見つめあった改めて抱きしめあい、それからアーニャを思い浮かべる。
もしかしたらもう死んでいる可能性もあるけど、生きていたら覚えていなさい。
散々、私をいじめたんだから……それはもう、生きているのが辛いくらいの地獄を味わわせてやるんだから。
1
お気に入りに追加
4,043
あなたにおすすめの小説
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか? だったらいい機会です、さようなら!!
久遠りも
恋愛
今まで国に尽くしてきた聖女である私が、追放ですか?
...だったら、いい機会です、さようなら!!
二話完結です。
※ゆるゆる設定です。
※誤字脱字等あればお気軽にご指摘ください。
【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!
ジャン・幸田
恋愛
私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!
でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。
妹を叩いた?事実ですがなにか?
基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。
冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。
婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。
そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。
頬を押えて。
誰が!一体何が!?
口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。
あの女…!
※えろなし
※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる