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第16話

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 馬車が動き出す。冒険者たちはエリックをほめたたえるように声をかけていて、エリックはそれをいつものクールな様子で返していた。
 その会話を隣で聞いていると、冒険者の一人が首を傾げた。

「もしかしてエリックさんとアーニャさんってカップルとかなんですか?」

 カップルって何を言っているんだこの冒険者は。
 まあでもそういうものなのだろうなか?
 若い男女が一緒にいるとカップルだと疑いたくなるのかもしれない。

 そして、目の前の冒険者たちは十代と若い。私は何度も舞踏会や社交界、お茶会に参加したことがあるけど決まってそういう若い人の話題で色恋の話があったものだしね。

「いや違う。少し事情があってな。一緒にパーティーを組んで旅をしているだけだ」

 大聖女とかそういった部分には触れないようにしながらエリックがそう言った。
 ……そのエリックの対応で間違いはないと思うんだけど、冒険者たちは何やら勘繰るような様子でさらに盛り上がってしまう。

 難しいものね。
 エリックは訂正しようとしたようだったが、諦めて小さく嘆息をついていた。

 彼らとの会話を終えたエリックをちらと横目で見る。

「エリック、少し聞いても良いでしょうか?」
「なんだ?」
「あなたはもしかして、昔騎士団の関係者とかだったのでしょうか?」
「……どうしてだ?」

 ぴくり、とエリックの眉尻があがる。けど、それは一瞬だった。
 でも、それだけで私は彼が関係していたんだろうなぁ、というのは分かった。

「いえ、その先ほどのエリックの戦い方を見ていて思ったのですが、我流も入っていましたが、先ほどの剣術の基礎基本は騎士のものだと思ったので」
「……そうか」

 エリックはぽりぽりと頭をかき、それから馬車の座席の背もたれに体重を預けた。

「関係者に教えてもらっただけだ」
「そう、ですか」

 嘘をついているのだということは分かった。
 でも、まだ知り合って一日で、人の過去を詮索するには時間として短い。
 ……私だって、事情を知らない人に大聖女だったことを話す気にはなれないしね。

 大聖女、かぁ。
 今頃は大精霊様の霊魂が新たな大聖女であるニャルネの指導をしている頃かな?

 ニャルネも魔力は決して少なかったと思うけど、色々けがれちゃっているから少し大変かもしれない。
 でもまあ、大聖女なんてもう私には関係ないからいいんだけどね。

 今は霊魂ではなく本物の大精霊様に会いに行く必要がある。
 そのためにも、旅に集中しないと。私、運動神経はないからね。

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