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第9話
しおりを挟むその日の夜。
屋敷を後にした私は――誘拐されていた。
相手はスラムで暮らしていると思われる二人組だ。
「……最悪ですね」
屋敷を出るとき、ニャルネが一層笑みを強めていた。
……もしかしたら、このスラムの人間はニャルネが雇ったのかも。
突然背後からやってきて、首にナイフを突きつけられたんだからもう私は何もできない。
私は大聖女で、魔法は得意だけど接近戦はからっきしだった。運動音痴だし。
だから、私は彼らに脅されるままに誘拐されてしまった。
そして、魔法を封じる手錠をつけられたため、もう私はなすすべがなかった。
「なぁなぁ、こいついい女だな?」
「ああ、そうだな。依頼人からは誘拐したら後は好きにしていいって言われていたからな」
下卑た笑みを浮かべる彼らに、私は粟立った。
……最悪。まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。
どうにか脱出できないだろうか?
周囲を見てみる。
私が連れてこられたと思われる場所は、スラム街だった。この部屋は非常にぼろかったけど、それでも雨風がしのげる程度の建物であった。
……スラムではこういった建物自体が少ない。そして、雨風がしのげる部屋はスラムの住人にとって奪い合いが行われると聞いたことがある。
つまり、この男たちはそれなりの実力者ということでもあった。
……隙はまったくない。たぶん、私が全力で走り出しても逃げ出せない。
こうなったら、交渉するしかない。
「あなたたちは、お金を欲しいと思ったことはありませんか?」
「あぁ? 突然なんだよ?」
「なるほど……でも女の体のほうが」
「お、お金を出せば」
「私は聖女です。そういったことをすれば、聖女としての力が弱まってしまいます。そうなりますと、お金を稼ぐ手段もなくなってしまいますよ」
「それじゃあ、諦めるか」
ええ! この人たち欲望に忠実すぎる……っ。
私が頬をひきつらせているときだった。
部屋に一人の男性が入ってきた。
「ああ? なんだよおまえ……」
それに男たちも気付いたようだ。苛立った様子でそちらに近づく。
顔を俯かせていた青年がさっと顔をあげる。
……とても容姿のととのった青年だった。歳は私と同じか、少し年上くらいだろうか。
そんな青年が男たちを一瞥した次の瞬間だった。
男へと剣が振り下ろされた。
一人はその一撃にやられた。もう一人はすぐさま臨戦態勢を整え、毛を振り下ろしていた。
しかし、青年はすでにそこにはいない。
横をすり抜けるようにして剣を振りぬき、男たちはその場で血を流し倒れた。
……致命傷、だと思う。
青年は私の前までやってきた。先ほどの戦闘とあわせ、その表情は冷たく私を見下ろしていた。
冷徹ともとれる、でもどこか凛々しくかっこいい彼が、私を見下ろしてきた。
「大丈夫か?」
そういって彼は私の手錠を見て、それからそれから取り出した針金で鍵を解除してくれた。
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