34 / 57
第34話 ゴーラル視点3
しおりを挟むそれから、オレの耳にはフーテルアの街が半壊したことが伝えられた。
あの戦いは、何とか人間たちの勝利ということで決着がついた。
そして、帰還したオレのもとに――あの時共に行動していた精霊術師の一人と、宮廷騎士、そして参事会がやってきた。
参事会……それは、各都市の犯罪などの刑罰に対しての判定を行う人間だ。特に宮廷参事会は、宮廷内で不正が行われないようにという側面もあった。
「ゴーシュ。あなたは、命令に背き、精霊魔法を使わず、あまつさえ街一つを危機に陥れた疑惑があります。詳しい話を聞かせてもらえますか?」
逃げれば騎士が襲い掛かってくるだろう。
彼らは、怪我をさせても問題に問われることはない。大人しく、従うしかなかった。
呼びだしを受けたオレは、あの時の状況について伝えた。
突然精霊魔法が使えなくなったこと。
それによって怯えて逃走してしまったこと。
精霊魔法が使えなくなったことについては同情の余地があると言われたが、その後逃走してしまったのが悪く映ってしまった。
それから一週間程。
特に何もなく、オレはこれまで通り宮廷で仕事をしていた。
……とはいえ、まったく落ち着けるはずがない。
同僚たちからは、白い目を向けられるし、どのような判断が下されるかも分からないからだ。
オレの目の前にいた参事会の者は、淡々と手紙を読み上げていく。
それは国王様からのものだそうだ。
「宮廷精霊術師の立場は剥奪だ。それと、伯爵に関しても同じくだ。おまえに与えていた領地はこれより、レベリス家の管轄とする」
「そ、それは――! 考えを改めてくださいませんか!」
彼に叫んだところで無駄だ。そもそも、国王様が直接オレに会わないのは、こういった面倒な関わりを避けるためというのもあるだろう。
「事前に話していた通り、街の補修費を支払う場合は検討するという話だ。しかし、それを行うにはそれこそすべてを手放す必要があるだろう?」
彼の言葉に、オレは唇を噛むしかない。
オレにはこの場を切り抜ける方法はどこにもない。親しかった貴族たちには、今回の一件でとっくに切り捨てられていた。
……向こうからすればオレはすでに利用価値のなくなった人間だ。
泥船のオレに手を貸す人間などどこにもいるはずはなかった。
爵位と領地を失ったオレは、もちろん屋敷も同じように手放すしかなくなった。
残っていたのは、婿入り、嫁入りなどをしていなかった家族たちだ。
家を継ぐため残っていた長男であるレグド。
精霊術師の才能を失ってしまったヨルバ。
同じく才能を失い、顔に大怪我を負ってしまったレイン。
そして、ティーナと正妻でありティーナとレグドの母であるジル。
ヨルバとレインの母であり、オレの側室たちだ。……とてもじゃないが、彼女ら全員を養えるはずがない。
だから、切り捨てる必要がある。この中でもっとも価値がないのは――。
「おまえのせいだよ!」
その時、声を荒らげたのは長男のレグドだった。
顔を真っ赤にし、ティーナへと掴みかかっていた。それはヨルバとレイン、それに他の側室たちもそうだった。
「……私が何かしたかしら?」
「てめぇの妹が呪われているからこんなことになったんだろ!? ありえないだろ!? あいつが家を出てからだ! 次々に色々起こりすぎなんだよ!?」
「ルクスを追放しておいて、その言い草は何よ!? それを言うなら、あの子を追放したからこそ、呪われたんじゃないの!?」
「ああ!? あんな双子の気持ち悪い女を12年間も飼っていたのが原因なんだろ!」
「飼って……いた? ルクスはペットじゃないわよ!」
ティーナが声を荒らげ、精霊魔法の準備を始める。
い、今……この家で精霊魔法を使えるのは彼女だけだ。
それに震えだしたレグドだったが、オレはその二人に割って入った。
「や、やめないか……! どちらにせよだ! ここにいる全員で生活できるわけがない。幸い、爵位を譲ることになるレベリス家とは親しい。どうにか、残してもらえるようにオレは話をするつもりだ」
「……全員は無理、ね。それで、誰を切り捨てるのよ?」
ティーナが腕を組みこちらを見て来た。
もちろん、そんなもの決まっている。
オレが言うより先に、側室とレグドが叫んだ。
「双子なんざ生みやがった女と、その姉は不要だろ!」
「そうよそうよ! 私たちは立派な子どもを生んで、もう婿入りとかさせているんだから!」
「ええ、そうね! なんならそっちの家にお世話になろうかしら……!」
……そういうわけだ。
「ティーナ、それにジル。おまえたちを追放する」
ティーナはその言葉を受け、小さくため息をついてから髪をかきあげた。
「あっそ。分かったわ。それならそれで別に構わないわ。母さん、行こう」
「……ええ、そうね。今まで、お世話になりました」
ジルはそういってこちらに頭を下げて来た。毅然とした態度のまま、彼女らは去っていった。
そしてオレたちはというと、オレはレベリス家にて雇ってもらい今は何とか地方の領主代行を行っている。
案外、この生活は気楽でいい。
費用を削り、懐に入れることも出来るしな。一つの街と、小さな村の管理を任されているが、小さな村に配置する予定の人間を削れば、その分オレの金にすることができた。
他にも、税を上げ、オレの懐を潤すこともできた。
この調子で金を集め、それを元手に貴族との交友を深めていけば……もしかしたら立場を改善できるかもしれない。
オレはその時が来るのを、じっと待ち続けた。
0
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました
hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。
家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。
ざまぁ要素あり。
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
毒殺されそうになりました
夜桜
恋愛
令嬢イリスは毒の入ったお菓子を食べかけていた。
それは妹のルーナが贈ったものだった。
ルーナは、イリスに好きな恋人を奪われ嫌がらせをしていた。婚約破棄させるためだったが、やがて殺意に変わっていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる