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第32話 ゴーラル視点1

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 オレの名前はゴーシュ・リーストだ。
 我が家は伯爵家として、国内でもそれなりの地位を築いている状況だった。

 とはいえ、さらに上がるためにはより優秀な子どもを生む必要があった。 
 
 そのためオレは側室をとり、何人もの子どもを生ませた。
 その結果、どの子も非常に優秀な精霊術師として成長してくれた。
 
 いや、まだ精霊術師ではなかったか。精霊術師を名乗るにはきちんと試験を受けて合格する必要がある。
 その試験は15歳から受験が可能なのだが、娘たちならば問題なく合格するだろう。

 皆が精霊術師になれば……ぐふふ。
 オレの出世も確定するだろう。そうなれば、さらに我が家の発展にも繋がる。
 しかし、そんなオレにも一つの懸念事項があった。それは、双子の存在だった。

 国内の貴族には大きく分けて二つの派閥があるのだが、オレの所属している派閥は古き良き慣習を大事にする穏健派だ。
 その穏健派では、『双子は悪』という考えが根強かった。

 まあ、最近は革命派の連中がそれを否定しているようだが、あいつらは猿以下の脳無しだから聞く耳を持つ必要はない。
 双子なんてのは本来ありえないのだ。
 人間は一人だけで生まれてくるのが正しい在り方であり、双子というのはそれを全否定する行いだ。
 
 だから、双子、三つ子といった複数で生まれてくる子どもたちはありえてはいけない。
 双子が生まれた場合、片方を切り捨てれればそれをなかったことにできる。
 だから、オレは即座に娘を殺そうとしたのだが……妻に止められた。

 妻には、長男、次男と優秀な子を生んでもらっていたので、オレも仕方なく……その双子の妹の面倒を見ることにした。
 とはいえ、家を追放する約束をつけて、だ。

 そして、女が12歳になり……二週間ほど前にようやく、家から追放することができた。
 だが、それから妙なことが起きているのだ。

 まず、長女のヨルバだ。ヨルバはもうすぐ15歳になり、精霊術師の試験を受ける予定だった。
 おまけに彼女は第二王子と親しい関係にあったのだが――それも今は昔の話だ。

 オレは小さく息を吐いてからヨルバの部屋をノックする。

「ヨルバ、起きているか?」
「……お父様」

 扉を開くと、目の下を赤くはらした彼女がいた。

「……ヨルバ。せっかくの美しい顔が台無しだ。もっと外に出て――」
「で、ですが……!! お父様! 私精霊魔法が一切使えなくなってしまったのですよ!!」

 そう叫び、その事実を再認識したからかヨルバはその場で泣き崩れてしまった。
 オレにはどうすることもできず、たたずむしかなかった。

「情けないことを言うな!」
「……ジョルク様は、いえ。国の方針で、精霊魔法が使えない女と王族が付き合うことなんてできないでしょう!?」
 
 そうだ。
 王族の人間は、国発展のために、精霊魔法を使える者でないと結婚はしないことになっていた。
 例え、側室だろうと、すべて精霊魔法が使える人間だけだ。

 つまり、今のヨルバでは――。
 ヨルバはオレの中で最高傑作になるはずだったのに。
 今のヨルバでは、我が家と関係をもちたい下級の貴族と結婚するくらいしかできないだろう。

「ヨルバ。訓練はしているのか?」
「し、しています! ですが、精霊たちはまったく反応してくれないんです!!」
「……そんな――」

 オレは愕然として額に手を当てる。これでは、王族と関係を持つオレの計画は破綻したといっても過言ではない。
 他の、娘たちはまだ大丈夫なのに――。

 それ以上ヨルバにかける言葉が見つからず、オレは部屋を立ち去った。
 そのまま宮廷へと向かう。元々オレは騎士団の人事を主に担当していたのだが、今は第七精霊術士団に所属している。

 というのも、五年程前に突然オレは精霊魔法の才能に目覚めたのだ。
 そのため、今は高難易度な国の問題を解決することが多いのだが――。
 師団に割り振られた部屋へと向かうと、すぐに師団長がこちらにやってきた。

「ゴーシュ、大量の魔物が発生し、今フーテルアの街が襲われているらしい。おまえの精霊魔法で援護をしてくれないか?」
「分かりました」

 第七師団長にすっと礼を返したオレは、そのまま宮廷を後にした。
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