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第25話
しおりを挟む出勤日。
私は支給されていた制服に袖を通した。
服自体はそれほど大きくは変わっていない。元々着ていた服に第三師団所属を示すための数字が入ったバッジがついたくらいだ。
ただ、外観はそうだとしても、実際に着てみると少し違う。
感触がかなり柔らかい。
体の動きもまるで阻害しないため、これなら今まで以上に動けるのは間違いない。
さっそく試し斬りに行きたいところだ。
「ルクス。上機嫌だな」
「ふふ、この服いいでしょ。ティルガも作ってもらう?」
「我は服など着ない」
「でも最近犬とか猫に服を着させるのも流行ってる」
「……我をペットと同じ認識にしないでくれるか?」
「ペットじゃない。友達」
「友達、か。ふふ、いい響きだな」
「友達を全裸で公衆の面前を歩かせるのはしのびない」
「言い方に悪意があるのだが? 我は毛という服を着ている。気にするな」
……むぅ、残念。ティルガにも色々と服を着させてみたいけど、ティルガは興味なさそうだ。
というか、犬とかわりと暑がりだし、服まで着させちゃうと暑いのかな?
制服を着た私はすぐに宿を出て、宮廷目指して歩きだす。
通行許可証もあるため、貴族街だろうと止められることはない。
貴族街を自由に行き来できるようになり、気になったのは自分の家だ。
そちらを見に行きたい気持ちもあったが、やめた。
ティーナ姉さんに会いたい気持ちはあったが、それ以外の人たちに何といわれるか分からないし。
宮廷にはすぐについた。大きな開かれた門を見上げるように眺めていると、
「あっ、す、すみません……っ!」
声をかけられた。たぶん、私だろう。振り返ると、そこには受験した日に出会った女の子がいた。
……たぶん、私より年上なんだと思うけど、童顔なのでつい女の子と言ってしまった。
彼女は六と書かれたバッジを左胸につけていた。
「あっ、大きい子」
私は彼女の胸を指さしながら言うと、女性は顔を真っ赤にした。
「へ、変な覚え方しないでください……! 私はアレア、と申します……! これから、同じ宮廷精霊術師として、頑張りましょう……!」
「私はルクス。……うん、よろしくね」
アレアと軽く握手をかわす。
それから私たちは宮廷の門を潜り抜けた。
「る、ルクスさんって本当に15歳……なんですか?」
「今年16歳。アレアは?」
「わ、私は今年18歳……です! す、凄すぎですね……」
つまり、私も二年後にはボインになっているってことかな。
私にもまだ成長の余地があると知れて良かった。
でも、年上かぁ……。
見た目が非常に若いため、年下と言われたほうが納得したかも。
「アレアもかなり若い」
「そ、そうですけど……私、今回で二回目の試験ですし……。あんまり落ち続けちゃうと才能なしだって判断されて……受験資格も失っちゃうので、今回がぎりぎりだったんです」
「そうなの?」
「は、はい。いつも、緊張して力が出し切れなかったですけど……ルクスさんのおかげで力、出し切れました!」
「そっか。よかったね」
「そ、そうなんですよ……! こ、今回……今までと違って凄い実戦形式の試験で……例年よりも合格者少ないらしいですよ?」
「そうなんだ?」
「だから、今回合格できたのはルクスさんのおかげです……! ありがとうございます……!」
そんな神様にでも祈るかのように両手を合わせてこなくても。
「ああ、神様! ルクス様!」
やめて、恥ずかしい。
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