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第20話 次女レイン視点2

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 意識がゆっくりと覚醒していく。
 遠くで、誰かが私の名前を呼んでいる気がした。

「レイン!」

 私はその声を聞き、ゆっくりと目を開いた。
 真っ先に飛び込んできたのは、天井だ。私の部屋の天井……。
 ただ、顔の半分は何かで覆われているのか暗いままだ。

 あれ? 私何をしていたんだろう。
 ちらと視線を向けると、そちらには母がいた。
 他には、もう一人医者のような服装をした人がその隣にいる。
 
「良かった! 良かったレイン!! あなたがもしも死んでしまったら、私の立場が危ういのよ……っ!」

 母がぎゅっと私の体を抱きしめてきた。
 私の母はルクスとは違う。

 母の言っている言葉は良く理解できた。私が精霊術師として大成しなければ、母の立場も危うい。
 母は中々子どもが出来ず、私以外に子どもを生めていないからだ。

 そんなことを考えていた私は、ようやく理解した。
 ……あれ? どうして私の視界は半分しかないのだろうか?
 そもそも、どうして私はここで眠っていて……母に心配されているのだろう?

 記憶がごちゃごちゃとなっていて、いまいち思い出せない。
 すると、医者がこちらの顔を覗きこんできた。

「まずは記憶の確認を行います。レイン様。どうしてここで横になっているのか理解できていますか?」
「……えーと、その」

 ど、どうしてだったっけ? 確か私は学園の授業に参加していて……。
 そこで、私はゆっくりと記憶が浮上していくのが分かった。

「あなたは精霊術師学園にて魔物狩りに参加していました。こちらは覚えていますか?」
「……っ!」

 その言葉で私はすべてを思い出した。
 そうだ。そうだった! 私はあの時、魔物狩りに参加して、それで!
 ウルフに襲われたんだ。
 腕が痛むのはそれが原因だろう。
 恐怖で体が震えだす。 
 そんな私の肩を医者がとんと叩いてきた。

「落ち着いてください。もう大丈夫ですから」

 医者の言葉に、こくこくと頷き私は脳裏に浮かんだウルフを追い出すように首を振った。
 ……こ、ここにはもう魔物はいない。
 安全な、すべてに守られた私の部屋だ。

「あなたの悲鳴を聞き、駆け付けた騎士があなたを救出しました。応急処置を行ってはくれましたが……その傷は――」

 そうだった。私はウルフに左腕を噛まれたんだ。
 私がそう思って腕へと視線を向ける。そこには……まるで矢でも刺さったような傷跡が残っていた。
 傷の箇所は手首の部分だった。これでは、隠すことも難しい。

「いや! いやよ! 私のせっかく綺麗な腕が! どうにかしてよ!」
「傷跡まではどうにもなりません。……それよりも、もっと酷いのは顔の傷です」
「え……?」

 か、顔……? そんな私、顔にまで怪我を、したの?
 顔に怪我をしたとなれば、そんなの――。

「も、もしかして今視界の半分がないのは……」
「……包帯を巻いています。傷自体はもう大丈夫ですが、その跡は残ってしまっています。確認、してみますか?」

 怖かった。けれど、どうなっているのか見るしかない。
 き、きっと大丈夫。ちょっとした擦り傷がついているだけ。
 希望的思考とともに、しかし裏腹に私の手は焦るように包帯をはいでいく。

 視界が確保された。視力は問題ない。
 しかし、その両目で鏡を見た私は――絶句した。

「いやああああああ!」

 私の顔、左頬の部分に鋭い傷が残っていた。
 ウルフに引っかかれたような傷跡だ。わりと深く、肉が少しえぐれてしまっている。
 こ、この顔ではもう結婚なんて無謀できない!

「……そちらも、もう戻すことは出来ません、申し訳ございませんが――」

 私は医者の声など耳に入ってこない。ただただ、自分の傷を否定するように叫び続けることしかできなかった。



 それから、一週間が経った。よろよろと私はゾンビ種の魔物のような足取りで食堂へと移動すると、明るい表情のヨルバがいた。
 こちらを見てきた彼女は、ふっと笑った。

「醜い顔ね」
「黙れ……!」

 私はこちらを小馬鹿にして笑ってきたヨルバを睨みつける。
 ヨルバはくすくすと笑っていた。
 この前まで、精霊魔法が使えなくて泣いていたとは思えない。
 きっと、私が同じような状況になったから、復活したんだ。
 なんて性格の悪い女なの!

「私、縁談が決まったわ。相手はまあ子爵家の男だけどね。これで、とりあえずまあ生活自体は問題なさそうだわ。それで、あなたはこれからどうするのかしら? そんな傷だらけの顔じゃ、もらってくれる人もいないんじゃない?」
「うる、っさいわよ! 精霊魔法が使えない落ちこぼれのあんたに言われたくないわ!」
「精霊魔法? ええそうね。使えないわ。でも、あなただってもう大した魔法は使えないみたいじゃない? それで、その顔の傷でしょ? あなたに何が出来るのかしら? あーあ、そのうち無能みたいに家を追放されるんじゃないかしら?」
「うるっさい!」

 こいつ、こいつ! 私はヨルバを睨み返したが、言い返す言葉は思いつかない。
 悠然とした足取りで去っていくヨルバに、私は悪感情をぶつけることしかできなかった。
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