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第16話
しおりを挟むある者は洗濯籠を持って。
ある者は箒を持って。
ある者は食事を持って。
他にも様々な人々が忙しそうに歩いている。
下女たちは微妙に変わった服を着ているようだった。
確か、昔本で読んだかもしれない。
ここの仕事はいくつかに分けられる、と。もしかしたら、パッと見て分かりやすくするため、下女たちの衣服を変えているのかもしれない。
といっても、変わっているのはスカート部分の色くらいなものだったが。
その下女の五人に一人くらいは奴隷の首輪をつけている者がいた。
私はついそんな人を目で追ってしまう。
「あまり慣れないかしら?」
「奴隷とかは見たことある。……購入を検討したこともある」
私は旅を基本とした冒険者だった。
多くの冒険者は迷宮といった魔物たちが巣食う場所の攻略を主にしているため、中々私のような人間はパーティーを組みにくかった。
だから、奴隷ならばそういったのを気にしないとも思ったのだが、人一人の人生を買うと考えると、そう簡単に買えるものでもなかったため、結局は一人で行動するようになった。
実際、それでそこまで不自由することがなかったというのも、購入しなかった理由の一つだった。
それに、私独り言……というかティルガとの会話が多い。
私の旅の目的にしても、それに奴隷とはいえ一人の人間を巻き込みたくはなかった。
「ここにいる奴隷の多くは売り飛ばされた子たちね。仕事を頑張れば、奴隷から下女になることもできるわ。もちろん、この宮廷を出て仕事をしたいという子もいるし……もっと言えば、国王、あるいは王子たちに見初められるということもあるわね」
「それはまた凄い出世」
「出世なんて言葉じゃ温いくらいね。でも実際にいたこともあるわよ。……まあ、色々反感も買ってしまうみたいだけどね」
悪戯っぽく微笑んだファイランが前を歩いていく。
そんな風に歩いていると、すぐ近くを二名の女性が歩いていった。
彼女らは侍女と思われる女性を従えている。
ドレスに身を包んだ女性と、私の好きな和服で着飾った女性だ。
……彼女らはどう見ても、下女ではないだろう。となると、恐らくは、さらに奥にある後宮の住人たちだろう。
彼女らは談笑を楽しみながら後宮の方へと歩いていく。
「あちらの説明は必要ないかしら?」
「後宮と、そこに住む国王様の愛人?」
「そうね。正妻以外の方々にはそれぞれ立場、というか階級というのが色々あるんだけど……まあ、私もそこまで詳しくはないわ。対面したら、基本礼をしておけばまず問題はないわ」
「分かった」
会ったら、礼をする。それだけを胸に刻んでおいた。
「まあ、宮廷についてはまた後でゆっくり話すわ。今はこっちに来てちょうだい」
ファイランがにこりと微笑み、指さした。
そちらの建物の入口には、『精霊術師館』、と書かれていた。
ここが、私が試験に合格した場合の職場となる場所だろう。
中へと入り、通路を歩いていく。
途中いくつかの部屋があり、番号が割り振られていた。一階部分には、1、2の番号の部屋が並んでいる。
その通路を進んでいき階段を上がる。
「さ、こちらの部屋が私たちが利用している部屋よ」
「番号の意味は?」
「宮廷精霊術師団っていうのがあってね。現在、第七師団まであって、番号はそれだね。私たちの部隊は、第三師団だから、この三の番号がついた部屋が使えるってことよ。与えられた部屋だとここが一番大きいから、事務所として使っているわね」
そういってファイランが扉を開ける。
机がいくつか並んだそこは、まさに事務作業にうってつけといった造りをしていた。
しかし、そこに人の姿はない。
「あれ? 師団長、いないわね。まったく、呼びつけておいてどこに行ったのかしら」
「トイレとかじゃない?」
「それならいいんだけど。……さて、どこにいるのやら。探しに行くのも面倒だし、もう帰っちゃおうかしら?」
「置き手紙くらいは残す?」
「ええ、そうね。そうしちゃいましょうか」
「いやいやダメだろう」
ティルガがぼそっと呟くようにそう言った時だった。
「てめぇ、いい加減さっさと歩きやがれ!」
「ああ!?」
そんな怒鳴り声が廊下に響いていた。
そちらをちらと見ると、手錠と足枷がされた男がそちらにいた。
犯罪者、とかだろうか?
それを引きずるように連れている男性は、とても容姿の整った顔をしていたのだが、その迫力のある様子に私は頬が引きつった。
ああいうヤバそうな人とは関わりたくないものだ。
そう思た時だった。
「あっ、師団長」
ファイランがぼそっとそんなことを言った。
……え!?
私は驚いてそちらを見る。と、その男性もこちらに気づいたようで、こちらを見た。
犯罪者と思われる男の首根っこを捕まえていた彼は、にこりと微笑んだ。
「やぁ、ファイラン。お帰り。それと、そちらのキミがもしかして、ルクスさんかな?」
先ほどまでの激怒の表情も、怒声もなかったかのようだった。
その一瞬の変化に驚きながら、私はぺこりと頭を下げた。
「初めまして」
すみません。さっき関わりたくない人とか思ってしまいました。
そんな感情は心の奥底に押しこみながら、私は挨拶をした。
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