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第8話
しおりを挟む「……お、怒られるかな、ルクス先生」
不安そうに服の裾を掴んでくる。
「怒られると思う」
「だ、だよね」
「でも、私も一緒に謝るから」
そういって少女の頭を軽く撫でると、少女はぱっと目を輝かせた。
ここにいる子たちはみんな12歳の子たちだ。
もう冒険者を始められる年齢というのもあって、きっと焦っていたんだと思う。
ただ、始められる年齢なだけであって実際に12歳から冒険者になる人はほとんどいない。
彼女らを見ていると、自分が家を追放された時のことを思いだしてしまう。
まだ、少女たちには帰る家があるんだし、無理をする必要はないんだよね。
それから、ティルガに皆を乗せて村へと戻っていく。
村の入り口では孤児院の先生たちが心配そうにこちらを見ていた。
私たちに気づくと、その険しかった表情に安堵の色が混ざっていく。
ティルガからみんなを下ろしてあげると、孤児院の先生たちが彼女らをぎゅっと抱きしめていた。
「まったく! 危険なことをしちゃだめでしょ!」
「ご、ごめんなさい……」
「もう! 生きていたから良かったけど、死んじゃうかもしれないんだからね!?」
先生たちが本気で怒鳴り、子どもたちはガタガタと震えていた。
助けを求めるように涙を浮かべた顔でこちらを見てくる。
……まあ、さっきああ言ったしね。
私は先生の方に一歩近づいて、ぺこりと頭を下げる。
「……私にも責任があります。彼女らにもっと厳しく危険を伝えておくべきでした」
私のこの村での仕事は村の防衛と冒険者の育成だ。
村の外に出てしまうような指導をしていた私にも多少は責任があるはず。
もっとこう、外の世界が怖いことを教えないと。
たぶん、魔物への認識が甘いのは、ティルガも悪いと思う。
ティルガみたいな優しくてモフモフな魔物のせいで、皆魔物が怖い存在だとは思っていないんだ。
うん、勘違いさせたティルガが悪い。
「……我に何かあるのか?」
私がティルガを睨むと、疑問げにこちらを見てきた。
そんなやり取りをしていると、孤児院の先生たちは首をぶんぶんと横に振った。
「いえ、ルクス先生は悪くありません! まったくもう! ルクス先生に迷惑かけるんじゃないよ!」
ぽかんと先生が少女の頭を殴りつける。
わんわんと声をあげ助けを求めてきた少女に、私は苦笑を浮かべた。
孤児院の先生と少女は本当の親子のようだった。
それが少し羨ましい。
家族がいて、心配してくれる人がいて――。
私にはそういう居場所も人ももうないんだよね。
「そういえば、ルクス先生。そろそろ、騎士の方たちが村のほうに到着する予定ですが……準備とかは大丈夫ですか?」
孤児院の先生が少女の頭を撫でながらこちらに問いかけてきた。
……そういえば、そんな話があった。
先ほどの騒動ですっかり忘れてしまっていた。
「私に用事がある、だっけ?」
「は、はい。優秀な精霊術師がいるのなら是非とも宮廷にスカウトしたい、と。良かったですねルクス先生! 宮廷お抱えの精霊術師になることが出来るんですよ!」
その話を聞きながら、私は考えてしまう。
……もしかしたら子どもたちはそれで先ほどのような危険なことをしたのかもしれない。
私が村からいなくなってしまえば、また村は魔物の脅威にさらされてしまうから。
そうなると、やっぱり私にも責任はあったよね。
宮廷での仕事は安定感があり、給料が多いらしい。
……私も、ずっと冒険者で生計を立てていけるとは思っていない。
特に歳をとってからは肉体労働は大変だろうし、宮廷と関わりが持てるというのは嬉しいことだった。
宮廷精霊術師も、冒険者だって基本的にやることは変わらない。魔物を討伐するのが主な仕事になってくる。
何より、魔人や霊獣についての情報が手に入るかもしれない。
宮廷ならば全国各地から様々な情報が入ってくる。
すぐに魔人を発見するためにも、出来る限り情報が集まりやすい場所にいたいんだ。
ただ、心配もある。
「村は……大丈夫かな?」
この村の依頼を受ける冒険者は少ない。
村が依頼料をそれほど出せないことや、周囲に遊べる場所がないことが理由だ。
私は嫌いじゃないけど、田舎で長閑すぎるため、冒険者が寄り付かないのだ。
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