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第7話
しおりを挟むすぐに微精霊たちの方角へと走っていった私は、子どもたちを発見した。
「る、ルクスさん!」
子どもたちもこちらに気付いたようだ。涙でくしゃくしゃになった顔を、私の方に向けていた。
子どもたちは合計三人。
皆、すでに戦意は失っているようで、ゴブリンに背中を向けこちらに助けを求めるように声をあげていた。
背中を向けた子どもたちへ、ゴブリンが好機とばかりに飛びかかった。
「ティルガ、子どもたちをお願い」
「任された」
言いながら私はティルガの背中から跳躍する。
自分自身で風魔法を準備し、着地の衝撃を和らげるように発動する。
ティルガは子どもへと襲い掛かっていたゴブリンを爪で切り裂き、子どもたちを守るように立ちふさがる。
これで、魔物に集中できる。
私は持っていた刀で近くのゴブリンの手首を斬りつけ、怯んだところで風魔法を放った。
その全身を切り刻み、吹き飛ばす。
次の魔法の準備は、微精霊がしてくれる。
私は自分の魔法、微精霊の魔法、ティルガの魔法……と、他の人の数倍魔法を準備できる。
通常、魔法を使う場合、一度使用した後にインターバルがある。
ゴブリンもそれを理解していたようで、すかさずこちらへと飛び掛かってきた。
しかし、私にその常識は通用しない。
私は片手を向け、風魔法を放った。
「ギィ!?」
風の塊がまっすぐにゴブリンへと向かうと、その一体の体を吹き飛ばした。
ゴブリンはしかし、他の奴よりも体力があったようだ。
私の一撃を喰らってもなお、まだ呼吸がある。
ゴブリンは雄たけびを上げながら、こちらへと迫ってきた。
やる気は感じられる。
けど、私の相手になるような魔物じゃない。
腰の鞘から振りぬいた一撃が、ゴブリンの首深くへと突き刺さり、鮮血が大地を汚した。
「ギャ……っ!?」
短い悲鳴をあげ、ゴブリンの目から生気が消えた。
うん。これでもう周囲に魔物の気配は感じない。
「微精霊、もう大丈夫?」
『うん、大丈夫だよー』
微精霊たちにも確認をしてもらい、安全を再確認したところで刀を鞘へとしまった。
ちらと見ると、ティルガのもふもふの毛に包まるようにして隠れていた子どもたちが姿を見せた。
「……る、ルクス先生凄い!」
さっきまでの絶望的な表情はどこへやら。
子どもたちは目を輝かせ、そんなことを言っていた。
注意しないといけないけど、まずは安否確認からだ。
見たところ外傷とかはなさそうだけど……。
「大丈夫? みんな怪我とかはしてない?」
「う、うん……!」
「そ、それにしてもルクス先生凄い!」
「わ、私もあんな風になれるかな!?」
喜んでいる子どもたち。褒められるのは悪い気はしないけど……。
私はきっと目を鋭くして、子どもたちを睨んだ。
「まだ外に出ちゃ駄目って言った。約束破ったらダメでしょ」
「……ご、ごめんなさい」
三人は申し訳なさそうに頭を下げて来た。
……彼女らが村のために何とかしたいと思っているのは分かっている。
そのやる気はもちろん理解している。
これ以上強く言っても仕方ない。
私はため息まじりに言葉を吐いた。
「強くなったっていっても、まだまだ魔物と戦えるだけの力はないんだから」
「……ごめんなさい」
もう一度強く言うと、少女たちはさらにしゅんと落ち込んだ。
可哀そうだけど、仕方ない。命がかかっているんだからきちんと叱らないと。
とはいえ、怒ってばかりもね。
このあと、たぶん孤児院の先生たちに怒られるだろうしね……。
「村の人たちも心配していた。ほら、一緒に戻ろう」
私がそういうと、皆は不安そうにこちらを見てきた。
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