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第45話
しおりを挟む村ですれ違う人たちの顔は疲れている。
ゴブリンたちがどのように村へ危害を加えているかは分からないが、大変そうなのは見てわかる。
村のギルドは、街のものに比べると随分とこぢんまりとしている。
まあ、そんなにギルドに訪れる人もいないだろうし、このくらいでも問題ないのだろう。
中は見た目通りに小さな造りだ。受付、依頼書が張り出される掲示板、冒険者たちが交流をとるためのテーブルとイスなどはあるのだが、どれも街のものと比べて規模、数が減っている。
受付の近くには、一人の年配の男性がいた。彼の視線がこちらへと向くと、わずかにほっとしたように見えた。
「良かった。ジェニスが来てくれたんだな」
「久しぶりだ、メルトロウさん」
ジェニスがそういってメルトロウという男性とハグをしている。こういうスキンシップが自然に取れる人たちは凄いと思う。
俺も今度リアたちにやってみようか。別に下心とかはなくな。
「シドー、彼はこの村のギルドリーダーでな。オレも昔指導してもらったことがあるんだ」
「ギルドリーダーを務めているメルトロウだ。到着して早速で悪いが、ジェニスにお願いしたいことがあってな」
「お願いしたいこと?」
「ああ。何人かの冒険者を連れて、ゴブリンリーダーたちを討伐してきてほしい」
メルトロウの言葉に、ジェニスはぴくりと眉尻を上げる。
俺としても、ちょいと眉尻を上げたくなる話だ。そもそも、村の警備をするのが目的だったはずだ。
「どういうことだ? リーダーはゴブリンの巣の方にいて、騎士団が対応するんじゃないのか?」
「それはそうなんだが……ゴブリンたちの総指揮を行っているのが、ゴブリンの巣にいるのは確かだ。ただ、さらにゴブリンたちはいくつかの部隊に分かれていてな。その部隊長のような奴らが連携してこの村を襲ってきているんだ」
「……ゴブリンたちが、そんな組織的に動いているのか?」
ジェニスはにわかには信じられない様子だったが、メルトロウは真剣な表情で頷いた。
……なんだか、思っていた以上に厄介な依頼を受けてしまったかもしれない。
「ゴブリンリーダーたちを仕留めれば、統率者を失ったゴブリンたちはさほど怖くはない。騎士団がゴブリンの巣を破壊するまでの時間を稼げるはずだ」
「……なるほどな。逆に、もしもゴブリンたちが攻め込んできたらまずいのか?」
「そうだな……。すでに何度か襲撃されていて、その際に結界魔法を起動してしまっていてな。燃料を持ってきてもらってはいたが、もう使用できる時間もあまりない。正直言って、厳しいだろうな」
「……そうか。ゴブリンリーダーはどのくらいいるんだ?」
結界魔法か。そういうのもあるんだな。燃料が必要ということは魔道具とかで魔法を使えるのだろうか?
今後も旅をすることを考えると、野営をする機会は増えるだろう。
その時に結界とか張れればいいなと思っていたが、どうなんだろうな。
「村を襲ってきた時に確認したが、全部で七体いたな」
「……七体もか」
「もともとは十体いたんだが、村に来た時に上手く狙って倒したんだ。そうしたら、リーダーを失ったゴブリンたちの動きが鈍ったから……全滅させられれば、しばらくは襲ってこないはずだ」
「場所は分かっているのか?」
「ああ、それも把握しているんだ。ただ、やはり数が多くてな。うまく奇襲できれば……なんとかなるかもしれないのだが」
「……数が多いとなると、さすがにオレでも難しいぞ」
相手がいくらゴブリンとはいえ、数で攻められると大変だ。
この作戦を行うには、隠密行動に長けた人物の方がいいだろうし、それにジェニスはあまり向かないだろう。
「やはり、厳しいか……」
メルトロウは残念そうに息を吐く。ゴブリンリーダーを倒せなかった場合、村にまとめて襲いかかってくる可能性があるんだよな。
……そうなったら、俺たちも普通に死ぬ可能性があるよな。
今回の依頼、もしかしたら受けるべきではなかったかもしれない。
ジェニスは悩むような素振りを見せてから、メルトロウに問いかける。
「ゴブリンがどのくらいいるのか分かっているのか?」
「いや……ただ、かなりの数であることは間違いない」
「……それほどなのか。状況がまずいとは聞いていたが」
やっぱりある程度知っていたんだな。
だから、たかがゴブリン相手にジェニスが派遣されたり、ランクが比較的高い冒険者たちでパーティーが編成されているんだろう。
ゴブリンリーダーか……。
「ゴブリンリーダーたちは共に行動しているのか?」
俺が問いかけると、メルトロウは首を横に振った。
「いや……それぞれ別々には行動しているようだ」
「それなら、確固撃破していけばまだなんとかなるか」
「……だが、さっきも言ったがリーダーを守るゴブリンは多い。進化している個体もいて、正直言って少人数で攻めるには問題があるぞ?」
「……でも、ゴブリンリーダーくらいならまだなんとかなるかもしれない」
「何か作戦があるのかい?」
ジェニスの問いかけに、俺はゆっくりと頷いた。
「俺たちで狙撃して倒すつもりだ」
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