オークに転生! フィジカル全振りは失敗ですか?

kazgok

文字の大きさ
上 下
89 / 92
第十三章 代表戦

次鋒戦 Ⅱ

しおりを挟む
 水は爆発の衝撃を緩和するだろうか。いな、水は空気よりも遥かに爆発の衝撃を伝えやすい。
 水中に浮遊する球を見たカレンは、咄嗟にハイパー化を行った。事前にロジーナ姫から水中における爆発の恐ろしさと、魚雷や機雷の有用性を叩き込まれていたためである。実際、ゴーレム鮫にも爆裂魔法を使用した魚雷と機雷が内蔵されていた。
 水中においては衝撃波も秒速1500メートル前後で伝わる。カレンのハイパー化はゴーレム鮫をも包んで展開したが、爆発までに展開できたのは、体表からほんの十数センチメートルまでであった。
 空気中で受けるよりも遥かに大きな衝撃に、ハイパー化で構築した外殻は耐えきれず崩壊する。外殻で多少減衰したとはいえ、複数の機雷による衝撃波は、カレンとゴーレム鮫に致命的なダメージを与えた。


 水中での爆発は、撮影をしていた小型ゴーレムをも巻き込んで破壊していた。闘技場上空に映し出されていた水中の映像が消え、観客たちは固唾かたずをのんで水面を見守る。
 爆発を避けるためにジャンプしていたホロガが着水し、ゼージュンゲルは水中に目を凝らす。爆発により巻き上げられた泥が沈んでゆくと同時に、力なく仰向けになった鎧下姿のカレンが浮上してきた。見開かれた目と、鼻、耳、口から流れる血が水面へと広がる。
 カレンは衝撃に備えてあらかじめ『再生』を祈念していたが、内蔵をも損傷させる衝撃により意識を失っていた。全身鎧も損傷により浸水していたため、ゴーレム鮫がサブアームを使い、鎧を緊急排除したのだ。そのゴーレム鮫自体も駆動系に深刻な損傷を受けており、そのまま水底へと沈んでゆく。
「ああーッ! 爆発の直撃を受けたか、カレン卿のダメージは深そうだ! これは試合続行可能なのかーッ!?」
 マクシミリアンの実況が響く中、東西の入場口から撮影用小型ゴーレムが数機投入される。その間、ゼージュンゲルは逡巡しゅんじゅんしていた。
 カレンが失神しているならば、そのまま近づいて首を落とすか、その前にイーダスハイム側から降参の合図が上がるだろう。しかしこれが油断を誘うための演技でないとも言い切れない。
「ええい、ままよ!」
 ゼージュンゲルは意を決して鯱を進ませた。
 その時、水面下で動きが起きる。水底に横たわるゴーレム鮫から、4本の魚雷と十数個の機雷が放出されたのだ。
 同時に、ゴーレム鮫の装甲を突き破って、全長2メートル程の魚影が飛び出す。魚影は真っすぐにカレンを目指して泳いでゆく。
 ゼージュンゲルは追尾してくる4本の魚雷の処理に手間取ってしまう。破壊する事は造作もないが、あまりに近くで起爆されては衝撃を避け切れない。
 その隙に、水中の魚影はカレンを咥えて空中へと飛び上がった。そしてカレンを包み込む様に、新たな全身鎧へと変形する。白銀に光る鎧の胸部には、凶悪な鮫の頭。鋭い牙の並ぶ口が、威嚇するかのようににやりと笑う。
 損傷した脳の再生が終わったカレンは、鎧の装着による衝撃で意識を取り戻した。『再生』の祈念がもう少し遅ければ死んでいただろう。『再生』が使えるのは月にいちど、さらに鮫鎧の出番となればもう後がない。
 カレンは、鮫鎧の余剰パーツで構成された推進器付きのサーフボードを巧みに操り着水する。それに合わせてゴーレム鮫の残骸から、ランスが射出された。ランスは水面近くでふたつに割れ、中から3メートルの槍が飛び出す。
 水上へと飛び出した槍を掴むと、カレンはゼージュンゲルの操る鯱へとボードを向けた。水中に散布した機雷により、ゼージュンゲルもそう簡単には水中戦を選べまい。
 向かい合った両者は、共に突進しながら、すれ違いざまに数合斬り結ぶ。互いの技量は甲乙つけがたく、どちらも致命的な一撃は入れられない。
 カレンはボードをくるりと旋回させ、鯱の後方から追いすがる。旋回能力に関しては、巨大な鯱よりもカレンの操るサーフボードの方に分があった。
 後方からの攻撃に、鯱はまたもや体軸を中心に回転してゼージュンゲルを水中へと逃がす。回転モーメントを利用したゼージュンゲルの突きを、カレンはボードの推進力を利用した宙返りでかわした。
 並走したまま切り結ぶこと数合、両者はプールの端で左右に分かれて大きく旋回する。再び向き合った両者は、互いに必殺の技を繰り出すべく魔力を体に巡らせてゆく。
 カレンは、鎧に装備された内部拡張収納袋マジックバッグへ槍をしまうと、両拳を前へ突き出した。すると鎧の胸部を構成する鮫の口が変形しながら離脱し、前腕の籠手へと移動する。これによって、カレンの両手が鮫のあぎとを形成した。
 いっぽうのゼージュンゲルは、海王神に『怒涛レイジングウェーブ』を祈念する。ゼージュンゲルの目前で大量の水が盛り上がり、大波となってカレンを襲う。さらにゼージュンゲルは、槍を高速回転させつつ、鯱の背中から跳躍して波の中へと飛び込んだ。
 ゼージュンゲルの槍の回転が、大波そのものを大渦巻へと変化させる。これぞ水神流殺法『大渦メイルシュトローム磔刑突きクルシフィクション』、大渦により四肢の自由を奪い、磔刑たっけいのごとく敵を貫く必殺の技であった。
「超転身スピン!」
 カレンは迫りくる大渦に対し、自身も回転しながら突っ込んだ。両手で形成された鮫の顎を中心に、魔力による力場が形成される。両者の技が闘技場の中心で激突した。
 カレンの回転が、襲い来る大渦をものともせず弾き飛ばしてゆく。しかし、これはゼージュンゲルの思惑通りであった。
 先に水中でカレンの超転身スピンを見ていたゼージュンゲルは、その回転方向と逆回転になるよう大渦を作り出した。この『大渦磔刑突き』を攻略するために、おそらく何らかの回転技を出してくると予想したのである。回転方向の癖は、達人といえどそうそう変わるものではない。
 ゼージュンゲルの目論見通り、大渦の回転モーメントがカレンの回転モーメントを徐々に相殺してゆく。こうなってしまえば、もはや相手は止まったまとに等しい。
「もらった!」
 ゼージュンゲルの鋭い突きが、カレンを一直線に狙う。
「させるか!」
 唸りを上げる三叉の槍の穂先を、鮫の顎が噛み砕く。鮫の顎はそのまま高速開閉を繰り返し、槍の柄を噛み砕きながらゼージュンゲルへと迫る。そしてついにゼージュンゲルの胴をその顎へと捉えた。
「義経八艘飛び!」
 カレンはゼージュンゲルを捉えたまま、水面に浮かぶ槍や撮影用ゴーレムの破片を足場に、主を失ったホロガへと飛び移る。さらに、暴れる鯱を足場にして、再び必殺の技を繰り出した。
「超転身! トルネードスピィィンッ!」
 高速回転による遠心力により、ゼージュンゲルは攻撃も防御もままならない。まさに自身の『大渦磔刑突き』で狙う、磔刑のような状態である。カレンはそのまま空中を突き進み、プールを囲む壁へと激突した。
 防御壁に守られた闘技場全体を揺るがすような衝撃と共に、ゼージュンゲルがプールの壁に深々とめり込んだ。プールの壁が陥没し、無数の亀裂が走る。
 一瞬の静寂。カレンはプールの壁を蹴り、ゼージュンゲルを捉えたまま跳躍、水面に浮かぶサーフボードへと降り立つ。
 そして鮫の顎に咥えたままのゼージュンゲルを、高々と頭上に掲げた。意識を失ったゼージュンゲルの四肢は力なく垂れさがっている。このまま鮫の顎を完全に閉じれば、ゼージュンゲルの胴は真っぷたつにちぎれるだろう。
 ここに至り、ルビオナ王国から降伏の信号弾が上がった。
「決着! 決着だァーッ! 不利かと思われた水中決戦を、カレン卿が制したーッ!」
 闘技場が歓声に沸き返る中、審判団から正式な裁定が下される。
「勝者、イーダスハイム龍王国次鋒、カレン・フォン・シュヴェールト!」
「イーダスハイム龍王国、まさかの2連勝だァーッ! これはルビオナ王国、後がなくなった! はたしてここから巻き返せるのか、中堅戦への期待が高まるぞーッ!」
 マクシミリアンの実況に、闘技場の盛り上がりも最高潮に達した。ただでさえ副将戦と大将戦はイーダスハイム側有利とみなされていた所に、序盤の2連勝である。いよいよもってルビオナ王国は苦しい戦いを強いられる事になるだろう。
 いっぽうプールでは、主を奪われた鯱が、ゼージュンゲルを横抱きにしているカレンのもとへと静かに泳ぎ寄って来た。カレンの腕に付いていた鮫の頭は、すでに胸部装甲へと戻っている。
 巨体に似合わぬ悲し気な鳴き声を上げる鯱の背に、カレンはゼージュンゲルをそっと乗せてやった。鯱は大きくひと鳴きすると、主を落とさぬようゆっくりと入場口へ向かって泳ぎ出す。
 その姿を見送りながら、カレンは大役を果たした安堵にふっと微笑んだ。それに合わせるかのように、胸の鮫がギラリと歯を剥いて笑った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...