77 / 92
第十一章 魔王進軍
簒奪
しおりを挟む その日、新海を呼び止めたのは後輩の遠藤瑞樹だった。常にトップを逃げ切っていた遠藤だが、今月は成績が芳しくない。その相談かと新海は思っていたのだが、意外なことに万葉の話題だった。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
「笑えないですよ、女の子にとって、結婚ってかなり重要なことですから」
「それは男も一緒だと思うけど」
「遊び人の人が結婚するって、どういう心情ですかね。もう遊び飽きたか、奥さんを隠れ蓑にいい人っぽく見せておいて、他の女性と遊ぶ、なんてことも考えられますけどね」
遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
「笑えないですよ、女の子にとって、結婚ってかなり重要なことですから」
「それは男も一緒だと思うけど」
「遊び人の人が結婚するって、どういう心情ですかね。もう遊び飽きたか、奥さんを隠れ蓑にいい人っぽく見せておいて、他の女性と遊ぶ、なんてことも考えられますけどね」
遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説

世界樹を巡る旅
ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった
そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった
カクヨムでも投稿してます

伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる