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第十章 勇者と皇帝

直訴

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 シャルル13世の焦土作戦は徹底したものであった。リュテスに集められた25万の兵の内、実に3万がこの作戦に動員されていた。それぞれ村の規模に合わせた400名から800名の部隊が、同時に動いていたのだ。
 結果として、ダミアンが救えたのは50を超える村々の内、たった5つに過ぎなかった。しかしたった5つとは言え、生き残った村人の数は千人を超える。
 村は壊滅を免れたとはいえ、被害が無かったわけではない。帰還中だったいくつかの部隊から物資を取り戻せたおかげで、当面の暮らしは何とかなるだろう。とはいえ、迫る魔王軍と、帰還した部隊からの報告で再度派遣されるかもしれないリュテスからの兵を考えれば、このまま村に留まらせてよいものか。
 ダミアンは、個としての己の限界を痛感していた。
「たったこれだけの人々すら、どうやって保護すればいいのか……自分の無力さにあきれるよ」
 ダミアンの嘆きに、ラビが所見を述べる。
「勇者に諸侯に保護を求めても、今この状況ではすぐに動いてはくれないでしょうね。春の女神の神殿で分散して受け入れるのも、同じ理由で難しいわ。神殿が国家から独立した存在であるとはいっても、実際には国家と対立して存続するのは不可能よ。この戦争が何かしら決着するまでは、各国とも積極的に関わろうとはしないでしょう」
「でも、このまま留まっていたら、どちらかの陣営に害されるのは確実だろう? なんとかして避難させないと……」
 実際に戦火で焼き出された難民ならばいざ知らず、フレッチーリ王国の作戦に介入した勇者の保護下にある村人など、関わればフレッチーリ王国への敵対と取られても仕方がない。近隣諸国に助けを求めるのは無理だろう。ダミアンは途方に暮れる。
 不意に、人化している電光ルルーガが笑顔で手を叩いた。
ぬし様! ルルいい事思い付いちゃった! 黄金クゲーラお姉様にお願いして助けてもらおうよ!」
「さすがルルにゃ! 冴えてるにゃ!」
 シモーヌがルルーガを抱え上げ、グルグルと回る。遠心力で浮き上がったルルーガの足が、横にいたオルガの尻にヒットして景気の良い音を立てた。
「痛った! あんたたちねえ! ったく……まあ確かに、龍種なら西方諸国の動向など関係ないでしょうけど……逆に言えば、たかが人間を助けてくれるかしら?」
「ルルが頼めば大丈夫だよ、きっと!」
 無邪気に請け負うルルーガの言葉に、ラビが思案顔で返す。
「どうかしらね……例の魔獣暴走スタンピードが起きた時、ジルバラント王国に龍種が協力したのは事実だけど……」
 龍種にとって人間が取るに足らぬ存在だとしても、協力してもらえる可能性はゼロではないだろう。ダミアンはルルーガの提案に賭けてみることにした。
「他にいい手もないんだし、とにかく頼むだけ頼んでみよう」
「やったー! じゃあみんな乗って乗って!」
 ルルーガが人化を解いて、その場に伏せる。龍種の翼ならば、聖龍連峰までは2時間とかからない。頭胴長25メートル、全長50メートルの黄龍の背に乗り込もうとするダミアンたち。そこにラビが待ったをかけた。
「全員で押しかけるのはやめた方がいいわね。特にオルガ、あなたが『反物質アンチマター召喚爆破エクスプロージョン』を発動したことに気付かれてたら、話し合いどころじゃないかも。ここはダミアンとルルーガだけで行くべきよ」
 ラビの意見は確かに正論である。しかしダミアンの身を案じる眷属たちは、はいそうですかと従うわけにもいかない。激しい議論の末、いざという時の逃走手段として転移魔法のアンカーを多く持つラビの同行で一応の決着を見た。たとえ交渉が決裂しても、その場からの生還は叶うだろう。
 そして残された眷属たちは、魔王軍の先遣隊やリュテスからの再派兵を警戒しながら、ダミアンの帰りを待つこととなった。


 聖龍連峰では、イーダスハイム候ヴォルフガング伯爵との婚礼について、細かい打ち合わせが行われていた。
 なにせ3千年を生きた龍種の輿入れである。いくら王侯貴族が集まる式典とはいえ、人間風情に舐められるわけにはいかない。当の黒龍よりも、黄金龍の方がやる気満々であった。
 白銀龍も、正式な貴族の婚礼で饗される料理に、ぜひとも協力したいと申し出る。龍種が堂々と宮廷料理に関われる機会など、そうそうあるものではない。ましてや可愛い妹のためである。六菓仙の実力、人間どもに見せ付けてやろうではないか。
 さらに細かい作法や、互いの体面や格式を考慮した衣装や贈答品等、打ち合わせ内容は多岐にわたる。ついには聖龍連峰ナンバー3の菫の花をククールギュオ・濡らす儚きルーグフ・フォ・朝露オールルまで駆り出されることとなった。
 この4千歳(正確には4千8百歳)の紫龍は、秩序を愛する思索家であり、知識の女神の大司教でもある。魔獣暴走の折には避難と迎撃の作戦立案に協力し、ロジーナ姫も信頼を置いていた。
「龍種が参加する以上、人間風情に侮られては一族の恥。婚礼当日までビシビシ行きますのでお覚悟を」
 紫龍の宣言に、興味本位で気軽に参加しようとしていた龍種たちも震え上がる。黒龍などは「やっぱやめる!」などと駄々をこね始める始末であった。
 しかしその儚い抵抗も、紫龍の「は?」というひと睨みであえなく撃沈する。様々な準備を考えれば、婚礼までの時間はあまりにも少ない。黒龍のわがままに付き合っている暇などないのだ。全てを完璧に仕上げるには、相当の無理が必要だろう。なあに、龍種たるものそうそう死にはすまい。
 早速、知識の女神のネットワークを使い準備を始める紫龍。この先に待つであろう地獄の礼儀作法特訓に、さすがの龍種たちも戦慄を禁じ得なかった。


 長々と続いた打ち合わせも終わり、人化したままの黄金龍とロジーナ姫一行は広間へと移動した。黒龍は紫龍の特訓を受けるため、そのまま居残りである。イーダスハイムへ行ってしまえばこちらのものという黒龍の考えは、あっさりと紫龍に見抜かれていた。
 そこで、帰る足がなくなったロジーナ姫を、黄金龍直々に送ろうというのである。これには黒龍を普段の足に使っているロジーナ姫も恐縮しきりであった。
 しかし、そんな和やかな雰囲気の広場に、空気を乱す闖入者ちんにゅうしゃが現れる。無遠慮にも広間に入って来たのは、人化したルルーガとダミアン、そしてラビであった。
黄金クゲーラお姉様! 久しぶり!」
 両手を広げて無邪気に飛び込むルルーガを、黄金龍は優しく受け止める。
「あらあらまあまあ。電光ルルーガったら、たまに顔を見せたと思ったら甘えんぼさんねぇ」
 人間の勇者などにうつつを抜かす放蕩ほうとう龍とはいえ、すえの妹は可愛いものである。目を細めて慈しむようにルルーガの頭を撫でる黄金龍。その様子に、ロジーナ姫たちもほっこりと癒される。
 ところが、そんな再会に水を差すかのごとく、ダミアンが黄金龍へと話しかけた。
「クゲーラ様、実はお願いがあって来たのです。どうか村人の避難に協力を……」
「控えよ下郎!」
 ダミアンの言葉を遮り、黄金龍の叱責が飛ぶ。その顔から笑みは消え失せ、冷徹な女王の眼差しがダミアンを見据える。
 激変した黄金龍の様子に、ロジーナ姫一行も驚きを隠せない。勇者の仲間に龍種がいることは周知の事実である。普通に考えれば、他の龍種とも良好な関係を築いていると思うだろう。しかし黄金龍の態度を見るに、この男、相当やらかしているのでは。
 実際、ダミアンは本来やるべきことをおろそかにしていた。驚くなかれ、ダミアンが聖龍連峰を訪れたのは、これが初めてなのだ。
 人間社会で例えてみれば、可愛い妹と同棲して何年も挨拶ひとつよこさぬ男が、突然金の無心に来たようなものである。ましてや人間風情が龍種の女王にその態度とは、もはや甘く見るにしても程があるとしか言いようが無い。
 しかも、懇意にしている王族の紹介で、辺境伯から礼を尽くした婚姻の申し込みを受けた直後の出来事である。黄金龍がキレるのも当然であった。
「招かれもせず我が居城に踏み入るとは何たる無礼。その上、我が愛しき妹をたらしこむに飽き足らず、龍種の女王たるこの私に何を強請ねだろうというのか。人間風情が、身の程をわきまえよ」
 刺すような視線に思わずひざまずくダミアンとラビ。しかしダミアンの口は止まらない。
「ぶ、無礼はお詫びします。ですがクゲーラ様、今はそれどころでは……」
「不愉快な。そのような呼び方を許した覚えはないぞ。こういう愚か者を出さぬよう、やはり定期的に人間どもの街を焼かねばな。明日にでもその方の国を火の海にしてくれる」
 これはジョークではなかった。ダミアンは、ルルーガとの関係性から、龍種と自分の立場を対等だと錯覚してしまったのだ。ダミアンの態度は完全に一線を踏み越えていた。
 ただならぬ状況に、ルルーガが慌ててダミアンを庇う。
「お姉様ごめんなさい! 違うの! お姉様に相談しようって言ったのはルルなの! ダミアンを叱らないで!」
 そんなルルーガを黄金龍は困ったように諭す。
「ああ、人間を甘やかしすぎたのね電光ルルーガ。駄目よ、躾けるべきところはちゃんと躾けないと。そのせいで人間の国がひとつ消えてしまうけれど、まあいい経験になったでしょう」
「やだあ! お願い、お姉様! 許してぇ!」
「だぁ~め。駄目です。こういうのは、きちんと見せしめにしないと、人間どもは際限なくつけあがりますからね」
「やめて! やめてぇ! うわあああああああん!」
 ついに泣き出すルルーガ。何か手はないかと周囲を見回すダミアンと、ロジーナ姫の視線が交錯する。ダミアンは、黄金龍と言葉を交わしていたロジーナ姫に一縷いちるの望みを託し、懇願するようにその目を見つめた。
 しかし、ロジーナ姫にとっては迷惑どころの話ではなかった。そもそもフレッチーリ王国がどうなろうが知った事ではない上、迂闊に擁護でもして話がこじれれば、こちらの縁談までどうなるか分かったものではない。いっそこのままいとまを告げて、徒歩で下山する危険を冒す方が遥かにましだろう。
 ロジーナ姫は、ダミアンから視線をそらさぬまま、かすかに首を振った。ほんのわずかなその動きには、明確な拒絶が見て取れる。一国を背負う王女の、無慈悲かつ断固たる決断であった。
 ダミアンは絶望の眼差しでロジーナ姫を見つめる。泣きわめくルルーガの声と、それをあやす黄金龍の声が頭の中で反響し、もはや思考が定まらない。
 よかれと思っての行動だった。フレッチーリに弓引くこともいとわぬ覚悟もあった。まさかこんなことになってしまうとは。自分の軽率なひと言で、こんなにも簡単にフレッチーリが滅ぼされてしまうのか。フレッチーリの蛮行を正したかった。だが滅ぼしたかったわけではない。どうすればいいのか。どうすれば許してもらえるのか。この命を差し出せば、国を焼くことだけは思いとどまってもらえるだろうか。
 真っ青な顔でうつむいてしまったダミアンを見かねて、ラビが決死の表情で黄金龍に奏上そうじょうする。
「恐れながら……」
「世界樹も焼くか? エルフの娘よ」
 黄金龍の言葉に、ラビはすぐさまその場に平伏した。もはや何を言おうが被害が増えるだけである。
 泣きじゃくるルルーガを強引に抱き上げた黄金龍は、サロンの方へと踵を返す。黄金龍がこのまま奥の部屋に去ってしまえば、フレッチーリの運命は定まってしまうだろう。
 ダミアンは最後の賭けと、剣を抜き自らの首に当てた。そして黄金龍へ、命と引き換えの慈悲を乞おうとしたその時。
「こんにちはー! こちらにロジーナ姫いらっしゃってますかー?」
 広間に快活な声が響き渡った。
 重苦しい空気を吹き払うような朗々としたその声と共に、身長4メートルの巨体が颯爽さっそうと姿を現す。緑色の肌に真っ赤なひと筋のたてがみ。はち切れんばかりの筋肉が躍動し、歩く姿は威厳に満ちている。
「あら! ナナシたん、いらっしゃい!」
 その声に振り向いた黄金龍は、満面の笑みでナナシを歓迎する。腕に抱かれたルルーガも、意外な人物の登場にきょとんとした顔で泣き止んだ。
「クー様! あっ、ロジーナ姫も……」
 広間を見回したナナシは、平伏したラビと首筋に剣を当てているダミアンを見て言葉に詰まる。どやどやと後に続いて入って来たチームレジオナの面々も、何事かと視線をさまよわせるばかり。
 そんな中、レジオナがここぞとばかりにふにゃふにゃとダミアンを煽る。
「あ~らら、クソ勇者ゆ~しゃがなんかやらかしたん~? 斬首ざ~んしゅっ! あっそれ斬首ざ~んしゅっ!」
「ちょっ! レジオナ! 駄目だよそういう事言っちゃ!」
 ナナシが慌ててレジオナをたしなめる。しかし誰の目にもこの状況はとしか見えなかった。
 職業柄、こういう場面は見慣れたものであるキーラが、黄金龍に事の次第を聞く。
「なあクー様、こいつらいったい何をやらかしたんだ? そんなに付き合いがある訳じゃねえけど、そこまでワルとも思えねえんだよな」
「それがね、聞いてよキーラちゃん! このクソ虫ったらもう……」
 そこから先は延々と小姑の愚痴であった。とはいえやらかした相手は聖龍連峰を束ねる龍種の女王である。聞いている内に、チームレジオナの面々の表情が段々と「あっコレ駄目な奴だ」に変化してゆく。
 黄金龍の話がひと段落したタイミングで、ナナシが助命を嘆願する。ダミアンの命はともかく、国がひとつ焼かれるとなれば放ってはおけない。
「あの、クー様、なんとか許していただけませんか? 彼も悪気があったわけじゃないと思うんです。どうか寛大なお心で……この通り、お願いします」
 ナナシはその場に膝をつくと、黄金龍に向かって土下座した。しかし黄金龍の返答は冷ややかなものであった。
「ナナシたん、顔を上げて。これは聖龍連峰全体の面子の問題よ。いくらお友達であるナナシたんのお願いでも、こればかりは聞けないわ。私は龍種の女王としてしかるべき振舞いをする必要があるの。個人の責任ではどうにもならないわ」
 黄金龍に女王としての責任を持ち出されては、しがないオークであるナナシにはどうする事も出来ない。座り込んだまま意気消沈するナナシ。その隣に、モニカがついと歩み寄る。
「皇帝陛下、どうか腰をお上げください。そのような振る舞いをされては、女王陛下もお困りでしょう」
 モニカは黄金龍の提案を汲み取っていた。その言葉の通り、これは国家レベルの面子の問題である。ならばナナシも個人ではなく、皇帝として振舞うべきなのだ。
 ナナシは一瞬、きょとんとした表情でモニカを見るものの、ああまたかとその考えを察する。本物の女王と姫の前で皇帝の役割を演じるロールプレイとは、羞恥プレイも甚だしいが是非もない。なにせ一国の命運がかかっているのだ。
 ナナシは堂々と立ち上がり、威儀を正して黄金龍へと語りかける。
黄金に輝くハガールキュラ・麗しき太陽のドゥオェー・グァ・化身クゲーラ陛下、先程は失礼いたした。これよりはオーク皇帝ナナシ・オーカイザーとしての発言となるが、よろしいか」
 威厳あるナナシの態度に、黄金龍も目を細めて微笑む。
「ナナシ・オーカイザー皇帝陛下。お立場を明確にしてのお話、しかと承りましょう」
「そこなる勇者ダミアンの不始末、女王陛下に置かれては到底許しがたい事と存じ上げる。しかれども、この者我が知己なれば、どうかお慈悲をもって寛大な沙汰を賜りたく、お願い申し上げる」
「皇帝陛下のお言葉なれど、この者の所業あまりにも目に余るよし。我ら聖龍連峰の体面を鑑みれば、このまま赦免しては後々まで禍根を残す事は必定。厳罰をもって一罰百戒とするのが人間のためでありましょう」
「お考え、まことに道理。そこを何とか、我が顔に免じてお許しいただけまいか。オーク皇帝ナナシ・オーカイザーとしてお願い申し上げる。この通り」
 ナナシは怪我をしていない右手を胸に当て、深々と頭を下げる。しかし黄金龍はそれを受け入れない。
「皇帝陛下の取り成しとはいえ、言葉だけでは軽いもの。誠意をお示しあそばせ」
 黄金龍はこれまでずっとナナシの事を皇帝として扱ってきた。今、ナナシが女王としての黄金龍と対等な立場で交渉出来ているのは、ひとえにそのおかげである。とはいえ実際の所、ナナシはひとりの臣下すら持たぬ「自称」皇帝であった。誠意と言われ差し出せるものなどほとんど持っていない。
 しかし、これは言ってみれば一種の儀式である。相手の面子を立てるため、然るべき立場の者が「誠意」を見せて譲歩を引き出す。実際にやり取りされる物の多寡は問題ではない。格が問題なのだ。
 ナナシは、持てる財産全てを差し出そうと決めた。敵国を救うことになろうとも、自分を信じて託してくれた財産を使うことに迷いはない。
「レジオナ、我が財産の全てをこれへ」
「はは~、皇帝陛下こ~て~へ~かのみこころのままに~。あっ、お姫ちんからの分も~?」
「うむ、全てだ」
「かしこまり~」
 レジオナがふにゃふにゃと答えながら、黄金龍の前へとナナシの全財産を積み上げる。少ないとはいえ金貨にすれば2千枚は下るまい。その中にはロジーナ姫から賜ったスパイダーシルクの反物なども含まれていた。
斯様かような物しか用意できずお恥ずかしい限りだが、どうかお納めいただきたい」
 龍種にとってみれば確かに取るに足らぬものではあるが、ナナシが全てと言ったその言葉こそが重要であった。黄金龍はその言葉を微塵も疑ってはいない。ナナシが全てと言うならば、これが全てだろう。
「皇帝陛下の御心、確かに受け取りました。ここまでされて突っぱねては龍種の恥。そこな人間の罪、今回だけは不問といたしましょう」
「女王陛下の寛大なる御心に感謝いたします」
 ナナシはもういちど胸に手を当て深々と頭を下げた。その後ろではチームレジオナの面々も最敬礼をしている。黄金龍はスッと右手を差し伸べ、その謝意を受け入れた。
 これによって、正式にこの場は収まった。成り行きを見守っていたロジーナ姫一行からも盛大に安堵の吐息が漏れる。顔を上げたナナシの目に、黄金龍の輝くような笑顔が映った。
 さて、読者諸兄にはもうお分かりだろう。勇者ダミアンの転生恩寵ギフト『日にいちどの超幸運』は、まさにナナシ到着のタイミングを合わせるために発揮された。ダミアンにとっては、久々に超が付く幸運の訪れる瞬間を実感する日となった。
 こうして、魔王軍の侵攻とは別の所で起きたフレッチーリ王国滅亡の危機は、ナナシの活躍によって回避されたのである。
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