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第九章 嵐の前

蘇生

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 ロギーム帝国は、現在の文明よりも遥か古代、先史文明として栄華を誇った古代ロギーム共和国の末裔である。帝政に移行して後、いちどは没落したものの、今では再び西方諸国の雄として確かな存在感を示していた。
 ロギーム帝国の現在の首都ロウムは、長靴のような形をした半島の中央付近に位置している。その首都ロウムの一画に、雄大な面積を誇る春の女神の神殿があった。
 神殿の最奥には、厳重に秘匿された転移陣が設置されている。その転移陣が眩い輝きを放つと、光の中から大司教であるラビと勇者の眷属たちが現れた。
 転移先にフレッチーリ王国ではなく、ロギーム帝国を選んだのはラビの独断である。政敵の多いフレッチーリ王国に転移して勇者の蘇生を行うのは、リスクが高いと判断しての事であった。これは春の女神の大司教として、各国の神殿に影響力を持つラビだからこそ取れた選択と言えよう。
 ラビと勇者の眷属たちは、神殿にいくつもある礼拝室のうち、30人程度が入れる小さな礼拝室へと向かった。その途中でこの神殿の司教を見つけると、礼拝室に誰も近付かせないように指示を与える。
 礼拝室に入ったラビは、回収した勇者ダミアンの足首からさらに親指を切り落とした。勇者の遺体をさらに傷つける行為を見て、獣人のシモーヌが尻尾の毛を逆立てて怒る。
「にゃっ! ご主人さまの足ににゃにしてんにゃ!」
 掴みかかろうとするシモーヌを、魔術師オルガが手で制してラビに問う。
「遺体の残っている分量は、多ければ多い程『蘇生リザレクション』に消費される存在力が軽減されるはず。なのにあえて遺体の量を減らすのは、もしかして……」
「そうよ。あのスライムが体内のどこまで入り込んでいたか分からない以上、少しでも末端を使うしかない」
 ラビとしては、できれば侵入が不可能であろう毛や爪から蘇生したい所であった。しかし、過去の例を紐解いても、『蘇生リザレクション』に成功した記録は指1本が最小である。
 大司教として数多の功績があるラビの存在力をもってすれば、たとえ対象が勇者といえど毛1本から蘇生する事が可能かもしれない。しかしスライムによる汚染を防ぐには、他の部位から蘇生してしまっては意味が無くなる。そのため『蘇生リザレクション』に使用する部位以外は、完全に破壊しなければならない。
 それはつまり、万が一にも毛からの蘇生が不可能だった場合、取り返しがつかなくなるという事であった。
 通常、人間の血液が全身を巡るのに要する時間は30秒ほどである。戦闘中による心拍数の上昇や、血流が末端まで到達する時間を考えた場合、あのスライムがダミアンの血管内に侵入して足首まで到達した可能性は捨てきれない。
 ラビはダミアンの足首を石畳の床に置くと、それを魔法で焼くようオルガに言う。恐らく彼女以外の眷属ではその行為に耐えられないだろうとの判断であった。
 悲痛な表情で『燃焼』の魔法を放つオルガ。炎に包まれて焼けてゆくダミアンの足首を、ラビは何かを探るかの様に凝視する。エネルギーの流れそのものを見る事が出来るエルフの目が、炎の中にほんのわずかな違和感を捉えた。
 ラビは燃える足首を指差し、叫ぶ。
「そこにいるわね! 出てきなさい!」
 これは賭けであった。違和感はしょせん違和感に過ぎない。たとえ本当にあのスライムが侵入していたとしても、このまま燃え尽きる事を選んでしまえばそれで終わりである。残った指にスライムが侵入しているかどうか確かめる術はない。
 しかし、ラビが指摘した直後、炎の中から少女の声が響く。
「ばれた!」
 はたして、賭けはラビの勝ちであった。燃える足首からにゅるりとピンク色の肉塊が盛り上がり、あっという間に赤い髪の少女へと変貌する。同時に強力な『解呪ディスエンチャント』が行使され、オルガの『燃焼』がかき消されてしまう。
 ダミアンの足首はほとんど炭化していたが、炎の中から現れた全裸の少女は火傷ひとつ負っていなかった。
「貴様っ!」
「主様の仇!」
「うにゃ~っ!」
「このスライムがっ!」
 勇者の眷属たちは少女を憎悪のこもった目で見据え、臨戦態勢を取る。しかしラビがそれを制止した。
「やめて! あなたたち……いいえ、勝てないわ」
「そんにゃの、やってみにゃきゃわかんにゃいにゃ!」
「そうよ、たかがスライムいっぴき、龍種の敵じゃないし!」
 シモーヌと電光ルルーガが反論するものの、実際に接触したエロイーズは構えたナイフを力なく下ろしてしまう。その横でオルガも杖の構えを解く。あの時ダミアンの防御系魔法と身体強化を一瞬で解除した『解呪ディスエンチャント』の魔力量を考えれば、今この状況でやりあうのは分が悪い。
 ふたりが戦闘態勢を解いたため、それを見たシモーヌと電光ルルーガもしぶしぶ従わざるを得ない。いきなり戦闘に突入するという事態を回避し、ラビは胸をなでおろした。
 そんな周りの様子に、赤髪の少女がニヤニヤ笑いを浮かべながらふにゃふにゃと煽る。
「な~んだ、つまんないの~。かかってきたらフルボッコにしてやろ~と思ってたのにさ~」
 その言葉に対し、にわかに色めき立つ眷属たち。ラビはそんな眷属たちの様子に、深々とため息を吐いた。
「あなたたち、こんな挑発にいちいち反応しないで。ねえスライムさん、交渉の余地があるのなら、あんまりうちの子たちを煽らないでちょうだい」
 冷静なラビの言葉に、赤髪の少女はふにゃふにゃと笑う。
「あはは~さすがはラビちん、小娘どもとはねんきがちがうにゃ~。470歳の人生経験じんせ~け~けんはだてじゃないんよ~」
「は!? 言っとくけどエルフの470歳って全っ然若いんですからね! 年増扱いしないでもらえるかしら!?」
 そう答えたラビは、ハッと口元を抑えた。エルフの年齢など、よほど親しい相手との会話でもなければそうそう口にはしない。
 無論、勇者の仲間として、そして春の女神の大司教として名の知れたラビの情報をどこからか入手した可能性はある。しかしこの少女のふにゃふにゃとした喋り方とその雰囲気に、ラビは心当たりがあった。今の姿とは違っているが、もし正体がスライムならば姿を変える事も可能かもしれない。
「あなた……いったい何者なの?」
「なにものなのかと問われれば~、こたえてあげるが世の情けなんよ~。我らはレジオナ! コンゴトモヨロシク……」
 優雅に礼を決めるレジオナの名乗りを聞いて、ラビは確信した。ダミアンと出会う前、かつてパーティを組んだ事もあるフレッチーリ王国の特級冒険者。ピンクと小豆色で塗り分けられた全身鎧を身にまとい、奇妙な仮面をつけた赤い髪の女剣士。
「まさか、紅の流星レジオナ……あなたが……いえ、そうなのね」
「ふおお~、このきんぱくした場面でいわれると羞恥プレイ感ハンパねぇ~! 私たちってホント馬鹿ばっか~」
 レジオナが髪をくしゃくしゃと掻きむしりながら、くねくねと身悶える。
 そんなレジオナの様子を見て、ラビの脳裏に今まで出会った事のあるレジオナという名の人物が数名浮かんだ。見た目こそ様々ではあるが、あるいは彼女たちもこのスライムが人間に擬態した姿なのだろうか。
 ひとしきり悶えたレジオナは、ひとつ咳払いをすると気を取り直して言う。
「んんっ。ま~、そのへんはご想像そ~ぞ~におまかせするんよ~。んで~? なんか交渉こ~しょ~したいことがあんの~? ラビちんのはなしなら聞こ~じゃないのよさ~」
 ラビは紅の流星との日々を思い出す。あのレジオナと同一人物ではないにせよ、同じ感性を持っているのならば話も通じるだろう。肚を決めたラビは、単刀直入に要件を切りだした。
「これからダミアンを蘇生するの。彼の体から出て行ってちょうだい」
「ファッ、直球~! っていうか~、別にジャマするきはないんだからさ~、さっさとそせいしちゃえばいいじゃんよ~」
「私が今回『蘇生』を使ったら、再びダミアンを蘇らせるだけの存在力を確保するまでに数年かかるわ。だから今は、彼の体内に爆弾を抱え込むわけにはいかないの」
「ラビちんあいてだからはっきりいうけどさ~、私たちが何人ころされたとおもってんの~? ある程度て~どさっしはついてんでしょ~、私たちが群体だってこと~」
「ダミアンの斬撃で、あなたたちの何人か……体を構成する何個体かが死んだのね。でもそれは戦いに割って入ったあなたにも非があるんじゃないの?」
「ナナシたんにいきなりおそいかかったのはそっちでしょ~。そもそも、あの状況じょ~きょ~で『反物質あんちまた~召喚爆破えくすぷろ~じょん』ブッしといてよく言えるんよ~」
 レジオナの指摘に、オルガが声を上げる。
「あれは違うっ! 撃ったのは私よ、マスターじゃない!」
 レジオナは心底嫌そうな表情でオルガを見て、ふにゃふにゃと言う。
「あんね~、ペットのしつけは飼い主のせきにんなんよ~」
 レジオナの言葉に、黄龍が激昂した。
「誰がペットよ、このクソスライム! 下等生物の癖に増長してんじゃないわよ!」
「そうにゃ! ご主人様とあたしたちは魂でつにゃがってるんにゃ! あやまれ!」
 再び臨戦態勢に入るふたりに対し、レジオナは両手を頭の横でひらひらと動かしながら白目をむき、舌をべろべろと上下させて煽りまくる。
「や~なこ~った~! もんくあんならかかってこ~い! ば~か」
 これには流石にオルガとエロイーズもキレた。基本的に舐められたら殺す世界の住人たちである。もはや神殿内がどうなろうと知った事ではないとばかりに攻撃を開始した。
 だが次の瞬間、ラビがエロイーズの腕を極めながら投げを打つ。投げ飛ばされたエロイーズは受け身も取れぬまま、呪文を唱えようとしていたオルガに激突した。
 その衝撃でオルガは、レジオナに襲い掛かろうとしていたシモーヌの方へと弾き飛ばされる。シモーヌは何とかオルガを受け止めるものの、その動きで黄龍の息吹ブレスの射線上へと出てしまった。あわてて息吹を飲み込む黄龍。その口腔でバチっと電撃が爆ぜ、電光をまとった髪の毛が逆立つ。
 投げひとつで全員の攻撃を止めたラビが、眷属たちを叱りつけた。
「いいかげんにして! ダミアンを蘇らせる気が無いの!? 邪魔するだけなら出ていきなさい!」
 一喝された眷属たちは返す言葉も無い。今、最も優先すべきはダミアンの復活である。勇者という拠り所を失い情緒が不安定になっていたとはいえ、あまりにも短慮な行動であった。
「うひゃひゃ、おこられてやんの~。ざまあ~!」
 ふにゃふにゃと笑うレジオナの両肩を、ラビが鷲掴みにする。いかなる体術によるものか、神域に突入しているレジオナの筋力をもってしても身じろぎひとつできない。
「レジオナ、私言ったわよね? うちの子たちを煽らないでって。 聞こえなかったのかしら? ねえ!?」
 般若のごとき形相で睨まれ、危うくちびりそうになるレジオナ。
「フヒヒ、めんごめんご~。ゆるしてちょ~」
 片目をつむり、ちろりと舌を出すレジオナ渾身のてへぺろ。もはや煽りにしか見えないその仕草に、ラビの指先にも力がこもる。
「いだだだだだだだ! うそでしょ! なんなんこのぱわ~!?」
 神域に達する耐久力を持つレジオナの肉体に激痛が走った。擬態によって人間としての神経組織も再現されているとはいえ、エルフの握力でこの激痛は尋常ではない。これは春の女神の大司教として、人体組織を知り尽くしたラビならではの指圧術であった。
「わかったわかった、ごめんて! ご~め~ん~な~さ~い~!」
 まだ若干ふざけているようにも聞こえるが、涙目で謝るレジオナを見てラビはようやく指から力を抜いた。
「わかってくれればいいのよ。全く、紅の流星はもうちょっと真面目だったと思うんだけど」
「それぜ~ったい思い出補正はいってっかんね~」
 うずくまって肩を揉みほぐしながら、そう指摘するレジオナ。ラビはそうかな? そうかもと思いながら、中断した交渉を再開する。
「まあ、『反物質アンチマター召喚爆破エクスプロージョン』に関してはこちらに非があるわ。ダミアンは、何というかこう……魔族に対して偏見というか思い込みが激しい所があって。フレッチーリ王国自体が魔族はもとより亜人や獣人に対しても差別が激しいから、その影響かと思っていたけど、どうもそれだけじゃないみたいで」
「あ~、魔族は問答無用に倒してい~敵で~、魔王領には魔物がうじゃうじゃ群れてる~みたいな~?」
「そうそう、そんな感じ」
「完っ全にゲ~ムのやりすぎなんよ~。前世の知識にふりまわされちゃってんね~」
「ともあれ、虐殺はこちらの本意ではないの。発動を阻止してくれた事には感謝しているわ」
「ほんとだにょ~。あんとき魔王城にはさ~、龍種の女王とエルフの大長老もいたかんね~。もし発動してたら、マイちんはともかく、クーちんは激おこでフレッチーリ壊滅待ったなしだったんよ~」
 レジオナの言葉に、ラビは驚いて電光ルルーガを見る。しかし魔王城の奥でマイスラたちと芸術話に花を咲かせていた黄金龍に気付けという方が酷であろう。黄龍はふるふると首を左右に振るしかない。
 ただでさえ、民間人を虐殺したと後で知れば、ダミアンに深刻な心的外傷トラウマが発生するかもしれないと危惧していた所である。それどころか、フレッチーリ王国滅亡の瀬戸際であった事を知って、ラビはゾッとした。
 戦略級殲滅魔法とはいえ、単位面積当たりの破壊力では龍種の息吹ブレスを大きく上回る事はない。ましてや龍種最強たる黄金龍が、息吹ブレス程度の威力で死ぬ事はあり得ないだろう。
 そうなれば最悪の場合、聖龍連峰全てが敵に回る可能性もあった。正式な戦いによる攻撃ならばともかく、いきなり攻撃魔法を撃ち込まれるような無礼を龍種が許すとは思えない。この世界は舐められたら殺すのが基本なのだから。
「それは……本当に助かったわ。もう二度と同じ過ちは繰り返させない。私が責任を持って導くわ」
「え~、そ~は言ってもにゃ~。こっちもほけんをかけときたいんよ~、わかんでしょ~?」
「その気になればダミアンの蘇生を妨害するのは簡単だったはずなのに、こうして蘇生する事自体は認めてくれるのなら、許すつもりはあるんでしょう? 今回だけはダミアンから手を引いてもらえない?」
「でもさ~、私たちがゆるすって言ったとこで信用できんの~? 言ってるだけで本当はまだ体にのこってるかもよ~?」
「紅の流星が約束してくれるなら、私は信用するわ」
 ラビはレジオナの目を見つめ、真摯に告げた。
「ラビちんはこ~言ってっけどさ~、どうすんの~?」
 レジオナが誰にともなくふにゃふにゃと問いかけると、その胸からにゅるりと赤い鎧が現れる。それはレジオナより少し背が高い、ピンクと小豆色の鎧に身を包んだ女剣士、紅の流星レジオナであった。
 紅の流星は奇妙な仮面越しにラビを見つめ、ふにゃふにゃと笑う。
「うひゃひゃ、ラビちんおひさ~。も~、いつまで勇者なんかにかまってんの~? またいっしょにひと狩りいこ~ぜえ~!」
 数年ぶりの再会に、ラビは思わず紅の流星を抱きしめた。紅の流星も優しくラビを抱き返す。
 ひとしきり再開を喜び合った後、体を離したラビは紅の流星に問う。
「で、どうなの? ダミアンを許して、体から出ていくと約束してくれるの?」
 紅の流星はレジオナに向き直り、ふにゃふにゃとラビを擁護する。
「ま~、ここはひとつ私たちに免じてゆるしてやったら~? ラビちんもやると言ったらやるタイプだしさ~」
「ん~、私たちがそこまで言うんならさ~、こんかいだけはゆるしてやってもいいけど~。言っとくけど次はないんよ~?」
 レジオナ会議で勇者の赦免が決定すると、紅の流星はラビに向かって答えた。
「今回はラビちんの顔をたてて~、勇者の体からは完全撤退するんよ~。また勇者がやらかさないよう頑張ってね~」
 紅の流星の言葉に、ラビはホッと表情を緩ませる。
「ありがとうレジオナ。いえ、レジオナたちかしら? 私も、この命を懸けてダミアンを導くと約束するわ」
「え~、そこまで頑張んなくてもいいんよ~。それよりさ~、たまにはいっしょにひと狩りいこ~よ。連絡まってるかんね~」
 紅の流星はそう言い残すと、もういちどラビと抱擁を交わし、レジオナの中へと帰って行った。
「ほんじゃま~、私たちをかいしゅ~するから指だしてちょ~」
 ラビが差し出したダミアンの親指の下へ、レジオナが水をすくうように両手を差し出す。すると指の断面から、ピンク色のしずくがレジオナの手のひらへと滴り落ちた。
「さ~、これでも~い~でしょ~。どいたどいた~」
 どこからともなく白い布を取り出すと、トガ風に着こなしながら礼拝室を出ていくレジオナ。それを睨みつける眷属たちに、ラビが手を叩きながら声をかける。
「ほらほら、何をぐずぐずしてるのあなたたち! ダミアンを蘇生するんだからさっさと準備して!」
 魂がすぐに消えるわけでは無いとはいえ、『蘇生リザレクション』を祈念するのは早い方がいい。ましてや今回はただでさえ復活の元となる部位が少ないのだ。眷属たちは慌ただしく『蘇生リザレクション』を祈念するための準備へ取り掛かる。
 その作業の傍ら、オルガがラビに厳しい口調で問いかけた。
「ねえラビ、あのスライムの言った事を信じるの? 本気で!?」
 眷属全員の疑念がオルガの口から出た事で、彼女たちの手が止まる。ラビはその様子を見渡すと、深々とため息を吐いて答えを返した。
「あなたたち、ダミアンもそうなんだけど、魂のつながりによる信頼関係が強固過ぎて、それ以外の他者を信用出来なくなってるのよ。これは眷属化の明確な弊害と言えるわね」
「そんにゃことにゃい! あたしはラビのこと信頼してるにゃ!」
 シモーヌが反論するも、ラビは困ったような表情で諭す。
「私が信用した相手に納得がいかないんでしょ? それは私を信頼してないって事よ」
「うう……」
 そう言われてしまえばシモーヌには返す言葉も無い。あのスライムは、今でもシモーヌの心中においては明確な敵だった。ラビが保証しようとも信じきる事など出来ない。
 重く沈む雰囲気の中、オルガが声を上げた。
「悪かったわ、ラビ。存在力をかけてまでダミアンを蘇生してくれようとしているあなたを疑うべきではなかった。謝罪するわ、ごめんなさい」
 右手を胸に当て、頭を下げるオルガ。ラビは右手をスッと差し出してそれを受け入れる。
「いいのよ、魂のつながりが甘美である事は理解できるもの。溺れてしまうのもあたりまえ。でも勇者として世界に関わっていくのなら、その先へ進まないとね。ダミアンも、あなたたちも。そして私も」
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