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第二章 王と皇帝

オークの虜囚

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 大森林の奥の開けた一角、満月に照らされた古代の神殿跡に、オークの荒い息と女の嬌声が響く。
 かがり火の焚かれている神殿中央から少し離れた陰になっている場所で、10数名の女たちがオークに犯されていた。
 女たちの中には無反応の者もいれば、媚を売るように喘ぎ声をあげている者もいる。しかし総じて、泣いたり叫んだりしている者はいない。凌辱の現場にしては不思議な事に、奇妙な秩序が感じられる。
 そこでひときわ目立っているのは、3メートル弱のオークナイト3体を相手にしている黒髪の美女。
 身長175センチの体に形の良い尻と引き締まったウエスト、そして迫力のIカップ爆乳を備えたメガネ姿の彼女こそ、特級冒険者“残念ホルスタイン”モニカ・べアールである。
 モニカは口と手を使い、左右のオークナイトを瞬く間に昇天させると、順番待ちをしているオークウォリアーを艶めかしく手招きする。今夜はすでに5体のオークを「処理」済みである。
 討伐隊が壊滅してすでに2週間。捕まった女冒険者たちは連日凌辱の憂き目にあっているが、モニカはひとりこの状況を愉しんでいた。オークに犯されるのは業腹だが、オークの生態観察としてみれば非常に興味深い発見が次々に現れる。
 知識の女神の大司教として、知的好奇心があらゆる事に優先するこの姿勢こそ、モニカが“残念”と言われる所以である。
 モニカはすでにオークの性生活についての詳細なレポートを連日『知識の座』に記録し続けている。『知識の座』は知識の女神の信者に与えられる一種の外部記録領域である。さらにこの『知識の座』は知識の女神の管理する『虚空録』に接続する事で、記録を共有する事が出来るのだ。『虚空録』に新たな知識を提供する事こそ、信者にとって最も重要な行いである。
 当然の事ながら、知識の女神は全知であり、その所持する『真なる虚空録』には森羅万象が記録されている。しかし『真なる虚空録』にアクセス出来るのは教皇のみであり、それも神聖干渉を介しての場合に限られる。
 そこで、信者ならば誰でもアクセスできる知識の蔵を作成しようと始まったのが、『偽・虚空録』プロジェクトである。やがてその志を良しとした女神によって、偽の文字は取り払われ、正式に『虚空録』の名を戴くこととなった。この『虚空録』が『真なる虚空録』と同じ内容に達した時、全ての信者は全知となり、神の御許にて永遠に知識の海を揺蕩う事が許されると言われている。
 モニカは新たに加わった2体のオークウォリアーの怒張を慣れた手つきで愛撫する。オークは存在が進化するたびに巨大化してゆくが、身長3.5メートルのオークキングと身長1.8メートルのただのオークの性器のサイズは、体のサイズほどの差がない。これはオークが雄しか存在しない事と密接に関係している。
 繁殖に他の種族の雌を必要とする以上、オークの性器はその雌に収まるサイズを超えられないのだ。体が大きくなるのと同じく性器まで巨大化しては、強い雄ほど子孫を残せなくなってしまう。ゆえに、体はどれほど巨大化しようとも、性器はかろうじて人体に収まる程度の大きさにしかならないのである。
 それでも、オークキングクラスになれば人間の少女の脚くらいの太さにはなってしまう。必然的に、オークは華奢な女性よりも豊満で大きめの女性を好む傾向が強くなる。女騎士や女戦士が好まれるのもそういった理由からである。
 さらに、オークは女を犯す形での性行為しか経験しないため、優しく愛撫される事に免疫がない。『虚空録』の性知識と、友好神である春の女神の『性技100人組手』で磨いたモニカのテクニックを持ってすれば、オークを絶頂させるなど赤子の手をひねるも同然である。
 もうお分かりだろうが、例えば酒場で“残念ホルスタイン”モニカにオークの話題を振った場合、延々とこういう話を披露される事になるのだ。ここまで読んだ読者諸兄には、その時の相手の気持ちが十分理解できた事と思う。


 モニカは捕まってすぐにオークキングと交渉し、以前から虜囚となっていた女性たちや冒険者を含め、オークの身の回りの世話から食事の用意、性行為の相手と、それぞれに役割分担を決めていった。
 また、性行為の相手もきちんと交代制にして、個人に過度な負担がかからないように取り決めを行った。
 最初は不満気だったオークたちも、モニカがひと晩でオークキングを含む50体のオークを昇天させた事で一目置くようになり、さらに食事の質の改善や衣類の洗濯による爽快感、十分な休息で元気を取り戻し始めた虜囚たちとの性行為の充実など、恩恵を実感する事で不平不満はぴたりと無くなった。
 さらに、討伐隊の冒険者には出発前にあらかじめ避妊の魔法紋を施してあり、妊娠しないことをオークに怪しまれるまでは妊娠の心配もない。
 体力に自信のある面子には多めにオークの相手をしてもらい、助けが来るまで何ヶ月かは持ちこたえる事の出来る体制を作り上げた。オークに凌辱されるという精神的負担にさえ耐えられるならば、年単位でも大丈夫であろう。
 ただし、そうなった場合はさすがにオークの子を孕む覚悟が必要になってくる。
 今回、オークの群れにオークキングがいる事を確認した瞬間、討伐隊に参加していた逃がし屋“神足”ポーラが離脱し王都に向かった。逃げ切っていれば冒険者ギルドから王に報告が上がるはずである。
 モニカも『虚空録』にこの場所とオークの数、装備を詳細に書き込んだ。ほどなく枢機卿あたりが確認するだろう。打てる手は打ったので、もはや心置きなくオークの生態観察に没頭できる。
 そういう訳で、モニカはせっせとオークの相手を続けるのだった。


 月明かりの元、神殿跡のすぐそばに造られた広い露天風呂で、モニカはゆったりとくつろいでいた。モニカ指導、オーク作の露天風呂はオーク用と女性用のふたつが少し離れて並んでいる。水源は神殿近くの泉、熱源は討伐隊の携行品であった湯沸かし用の魔道具である。
 ほとんどの女たちは早々に体を清め、すでに就寝している。これから風呂を利用するのは、最後までオークの相手をしていたモニカと、他2名である。
 たわわな胸を湯船に浮かばせるモニカに、後ろから不機嫌な声がかけられる。
「よう、今夜もお楽しみだったな」
 特級冒険者“銀剣”キーラが、足首から先が不自然に折れ曲がった左足を引きずりながら現れた。左手で桶を使い湯を浴びると、手首から先が無い右手でぞんざいに体を洗い、長い銀髪についたオークの体液を流す。褐色の肌にまとわりつく銀髪が妖艶な美しさを醸し出している。
「ふふっ、少しでも他の子の負担を減らしてあげないとね。なーんて」
「言ってろクソビッチが」
 キーラは嫌悪感もあらわにモニカを罵倒しながら、その横に並んで湯船につかる。引き締まった197センチの長身は、座ってもモニカより頭半分は高い。
 その二人の前の水面が突然盛り上がると、いつの間に潜っていたのか赤い髪の少女がぴょこんと顔を出す。
「キーラちんはいつまで拗ねてるんだにゃあ」
 ふにゃふにゃとした喋り方の少女は、湯船をすいっと泳ぐとキーラの横に座る。レジオナと名乗るこの少女は、討伐隊より前からオークに囚われていた女たちの一人である。
 身長は160センチ弱だがメリハリのあるスタイルをしており、オークの中でも可愛い女を好むオークの相手をもっぱら受け持っている。見た目に似合わずタフであり、赤い長髪を使った愛撫も含め同時に5体を相手取る事すらある。この少女がいなければ、以前から捕まっていた女たちはとっくに使い潰されていただろう。
「まあ、キーラの態度の方がまともな人間の反応よね。別に私だって仲間を皆殺しにされた事を許してるわけじゃ無いのよ? って言い訳してるのダサいわねえ」
「けっ、おめーのそういうトコがムカつくんだっつーの。おめーが心の底では他人をどう思ってるかはわかんねえけど、みんなを生き延びさせようとしてるのはわかってんだよ」
「たしかに~、モニカちんのお風呂のおかげでオークの相手もずいぶん楽になったしね~」
 実際、垢にまみれたオークと毎日風呂に入る小奇麗なオークとでは、同じ凌辱されるにしても天地の差がある。精神的な消耗も段違いだ。
 モニカがとにかく実利を優先し、女たちの心身のケアをし、体を張った交渉で今の状況を作り上げた事自体はキーラも認めざるを得ない。もしモニカがいなければ、捕まった女冒険者の過半数はすでに使い潰されるか自殺を選ぶかしていただろう。
 キーラはオークキングに食われた右手を見つめながら思う。おそらく自分もオークの一物を食いちぎって殺される道を選んでいただろうと。
 しかし今ではそうも言っていられない。自分が一体でも多く相手をすれば、その分他の女が楽になる。オークに犯される事に耐えきれないような女は、モニカがなるべく料理や洗濯、ギフルの世話などに回れるよう手配をしている。今では女たちの中にも、みんなで生き延びて助けを待つという共通意識が根付いていた。
 しかし、それでも、仲間の死に際を思い出すたび、オークどものはらわたを抉り出してやりたい衝動が沸き上がるのを止めることはできない。そしてオークどもに体をまかせる自分に対する怒りと情けなさも。
 そして、そんな鬱憤をぶつけられる相手は、この特級冒険者“残念ホルスタイン”モニカだけしかいない。要するに甘えているのだろう。モニカもそれをわかっていて受け止めてくれている。それがキーラには増々腹立たしい。
「しっかし、モニカちんの生活改善は見事だったね。私たちもまさかオークが女を犯さない日があるとは思いもしなかったよ!」
 レジオナが驚いたように、美味い飯と酒があり、いつでも楽しめる女が十分にいる環境では、オークの性欲もちょっと盛りのついた人間の成人男性並みに落ち着くのだ。特に美味い飯と酒の魅力は抜群で、女を犯すより腹いっぱい食べて酔って気分よく寝る事を選ぶオークも増えている。
 今も、女より食い物と酒を選んだオークたちが、神殿跡で車座になり、かがり火に照らされ談笑していた。
「料理に関してはレジオナにも助けられたわね」
 モニカが感謝の言葉を述べる。調理器具は討伐隊のものが使えたが、調味料に関してはあまり大したものを用意していなかった。そこへレジオナが、オークの戦利品の中に商人から略奪した香辛料や味噌、醤油などがあると言って引っ張り出してきてくれたのだ。
 基本的に生肉を食えるオークには、せいぜい焚火で肉を焼く以上の料理文化が存在しない。その料理にしても、虜囚の人間に生肉を喰わせると死ぬから火を通しているに過ぎない。そんなオークがわざわざ香辛料や味噌、醤油を略奪するだろうか。実際、モニカたちが捕まった時点において、オークたちが使っていたのは岩塩がいい所だった。
 モニカはそれらの調味料をレジオナが調達したと考えていた。内部拡張収納袋マジックバッグに隠し持っていたか、もっと他の何らかの方法で手に入れたかはわからないが。レジオナもまた、謎の多い少女であった。


 3人が湯から上がり、着替えを済ませた頃、突如あたりが騒がしくなった。どうやらオークの遠征隊が帰って来たらしい。
 しかしその慌ただしさにモニカは違和感を覚える。遠征隊が帰ってくるのは早くても明日の昼から夕方の予定だ。襲撃のタイミングはオークと取引のある人間の商人から仕入れた情報を基にしており、かなり正確に行われたはずである。
 襲撃が成功していれば、オークたちは帰ってくるため、遅くなる事はあっても早くなるとは考えにくい。つまり、襲撃は失敗し、オークたちは慌てて逃げ帰って来たのだ。
 キーラと顔を見合わせたモニカは、彼女がうなずくのを見て女たちの寝所へ急ぐ。逃げて来たという事は、追われている可能性があるという事だ。果たして追撃者は現れるのか。
「ホントにお楽しみの時間がきたみたいだね~」
 レジオナがそう言って笑いながら、オークたちの影が揺れる神殿跡へと駆け出した。
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