ある満月の日、俺はあいつに抱かれた

ミルクルミ

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 次に目を開けた時、ユージェの目の前に広がっていたのは白い空間だった。
 どこかの廊下、だろうか。この学校に通い始めて二年になるが、こんな場所当然ながら見たこともない。
 真っ白で、先の見えない長い廊下。
 入った者を迷わせ、入り口の方へ導く奇跡も掛けられているのだろう。
 ジニがいなければ目的地までたどり着けない、そう予測させるほど厳重で強固な地力が掛けられたそこをジニが足を進ませ、ユージェもジニの後に続く。

「サディは、この中にいる。生憎だけど僕はこれから会議なんだ。だからこれは、君が渡しておいて」

 じゃあね、と急ぎ足で掛けていくジニは、会議が間近に迫っていたのだろうか。
 呼び止める間も与えられず去っていく姿に唖然となりながらも、ユージェはこれまた真っ白な扉の前に立つ。
 この中に、サディがいる。それも彼は、危険な状態の一歩手前らしい。
 自分に指図された事の意味はいまいち分からないが、サディが困っていて助けないという選択肢は存在しない。
 先程、寮に帰ってもずっとそわそわと落ち着きがなく、いきなり立ったかと思えば『出かけてくる』と言ったきりの彼に、一体何が起ころうとしているのか。
 色んな可能性を頭に思い浮かべながらも、ユージェはそっとドアノブを握り、力を込めた。

「サディ?」

 部屋の中は、簡素だった。
 これまた真っ白な壁や床に囲まれたその空間にあるソファやテーブルも、白。徹底的なまでに白に統一されたそこは、ある意味異様だ。

「サディ!」

 その部屋の奥。白の空間の中で、唯一の黒の部分。
 カーテンの引かれた窓の前に立っていたサディは、ユージェに気付いていないのか微動だにしない。
 それは大きな声を出しても変わらず、いつもと違う雰囲気にぞわりと心が落ち着かなくなる。

「おい、サディ!」

 何とか気付いてもらおうと、サディに近寄り肩を掴む。そして振り向かせると、漸くこちらに焦点が合った。

「ユー、ジェ?」
「大丈夫か、サディ?」

 問いかけても、ユージェの名を口にしたまま心ここに在らず、再び黙り込む。
 これは既に、危険な状態なのではとサディの頭から足までを視線を動かし、様子を探る。

「ユージェ……」

 何度か視線を行き来させたとき、はっきりとした調子でサディがユージェの名を呼んだ。

「助けて、ユージェ……!」

 そう言った瞬間、サディの姿が変わった。
 部屋の明かりによって作られた影が揺れ動き、輪郭がぐにゃりと歪む。苦しむ姿に思わず手を離すと、呻き声をあげながらサディの姿が変わっていく。
 下級天使の住まう場所では、仮の肉体に魂が入れられていることが多い。
 天界でありながら肉体で過ごす事の出来る特別な場所、それがここだ。
 その仮の肉体が、変わる事などあり得ない。
 変わるという事は、魂の形が変わったという事。
 そして魂の形が変わると言う事は――悪魔に、魂を売った場合に見られる。
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